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第84話 日記ってゲームとかだとよく出るけどあんなに書く人って本当に居るのかな?

視点変更 レイ→レオーナ


「結局この建物は何なんでしょうか……」

「さあな」


 書記官が手に持った紙に字を書き込みながら私に話し掛けて来る。 今いる場所はヴェルズ帝国の謎の建物の前で周囲には休んでいる騎士達の姿が有る。 あの後、私達4人は建物の中を調べたのだがはっきり言えば特におかしな所の無い部屋が幾つも有るだけであった。 建物の中は入って直ぐに受け付けの様な場所が有る以外は通路と部屋が有るだけ。 そしてどの部屋も堅いベッドとボロボロの木製の椅子と机が有るくらいだった。


「宿屋と考えるのが一番適切ではないかな?」

「あんなに何も無いと宿屋というより監獄ですけどね」


 そう、はっきり言えばあの部屋は監獄にしか見えなかった。 部屋に小物は無く、壁にはシミで出来た模様だけ。 ある一室に旅行者の物らしき荷物が無ければ宿屋だとは考えられない位だ。 あんなに何も無いのは単純に運営者の経営の問題だろうが、何か有るのではないかと疑ってしまう。 ちなみに旅行者の荷物は持ち主には悪いが中を部下達に調べさせている。 私が帝国内で人と会わない事に関して何か分かるかも知れないと思ったからである。


「だ、団長!」


 私が書記長と推測をし合っていると新米の騎士が私を呼ぶ。 私が声の方を向くと彼は慌てながら敬礼のポーズを取った。


「何が有った?」

「はっ、はい! 旅行者の鞄から日記らしき物が見つかりました。 た、多分何かしらの情報は得られると思い、団長に報告しました!」

「そうか……私もそちらに行こう。 お前はどうする?」

「私はこの書類を書き終えてから団長に合流します」


 書記官に話し掛けるが書記官は私の方に顔だけを向けそう淡白に答える。 私はそれを聞いた後、新米の騎士に案内するように促す。 それを見た騎士は緊張した足取りで歩き出した。










「団長、これが例の日記です」

「ふむ……」


 旅行者の鞄を調べていた騎士から一冊の本を渡される。 その本は茶色い表紙をしており題名は何も書かれていない。 質が悪いのか、長い間使っているのかは不明だが紙は全体的に黄ばんでいる。 私はその日記を1ページ捲る。 紙には全体に黒い文字がびっしりと隙間無く書かれていた。 私はその日記を読み始める。 しばらく読み続けた後、私は思わず感嘆の声を漏らしてしまう。


「良くもまあこんなにしっかり書けるものだ」

「凄いですよね……これなら何か分かるかも知れませんよ」


 字は汚いが毎日の様子をしっかり書いてあり、まるで自伝を読んでいるような気持ちになる。 日記の内容によるとヴェルズ帝国で様々な所へ渡り歩いて物語を聞かせお金を貰うという、大道芸人のような仕事をしている人物のようだ。 日記の作者はヴェルズ帝国の首都から出発し村を渡り歩きそこで有った出来事を毎日書いていた。 しばらく流し読みをしていると途中でページが空白になる。 どうやらここで最後のようだ。 そして空白になる前の日付を読む。


「……これだ」


 日付は私達が高原で戦っていた頃であり、つい最近までこの建物に寝泊まりしていたらしき文が書かれている。 それを私は思わず声に出して読む。


「朝、すっきりとした目覚めだ。 周囲の森から鳥のような鳴き声が聞こえる。 首都では聞けない音である」

「……森?」


 私の前にいた騎士が私の言葉に首を傾げる。 それに対して私は首を縦に振る。


「昼はここの宿を出る準備の為に荷物を纏めていた。 宿屋の主人がお土産にと地元で名産の果物をくれた。 酸味は有ったがとてもおいしかった」

「平和ですね……」

「そうだな」


 私達が攻めている場所にこんなに長閑な場所が有った。 そう考えると私は戦うことに対しての恐怖に近い感情と私達が来る前に何が有ったのか気になる興味が混ざり、何か見てはいけないことを見ている気持ちになった。


「夕方、首都の方向に黒い雲のような物が見えた。 まだ雪が降る時期ではないが……もしかしたらどこかの工場が爆発したのではないか? 詳しくは知らないが、魔雷球を作る時には危ない物質が使われていると聞く。 何か大きな問題に成らなければいいが……」

「魔雷球とは?」

「何も説明が無いな……帝国にしか無い道具か?」


 日記を近くに居た騎士に渡す。 はっきり言えば至って普通な内容であった。 少し気になると言えば。


「黒い雲って所位だな」

「そういえば、この前救出した人達も黒い煙って言ってましたよね」

「ああ、確かに」


 私の言葉に周囲の騎士達が成る程と言った風に頷く。 黒い煙と黒い雲……恐らくはどちらも同じものを指しているのだろう。 そしてそれを見た者は殆どが姿を消している。 もしその煙に人を消す力が有るならば……。


「そこの君」

「え、は、はい!」

「ここにいる者達全員を集合させろ。 これからの行動を伝える」

「は、はい! 分かりました!」


 騎士が敬礼のポーズを取り私から離れていく。 その様子を見ながら私は考えていた。 あの煙が本当に人を消すのならば。


 私達はこれからもっと強大な物と戦わなければいけない。 そんな気が心の何処かでしていた。










視点変更 レオーナ→レイ


 ボイルの港町から出て東に20分歩いた所、何も無い乾いた大地に高さ5m程の柱がポツンと立っていた。 俺とアリアとガントはその柱の根っこに立っている。 俺達は魔族と話をする為にガントの後をついて来てここまで来た。


「これは?」

「目印だ。 この近くに地下牢が有る」


 そう言いガントは俺達から見て柱の裏側に回る。 柱の裏の地面には鉄製の扉が有り、ガントがそれを引っ張り持ち上げる。 扉の下には石造りの階段が暗闇の中に続いている。 相当下まで有りそうだ。


「かなり暗いですね……」

「まあな、ここには明かりは無いしかなり深い所に作られている。 じゃ、さっさと行くぞ」


 そう言うとガントは何処からかランタンのような物を取り出す。 そしてそのランタンを右手の人差し指で何回か叩くとランタンの中に白い淡い光が現れる。


「おぉ」

「何だ? お前等魔光管を見るのは初めてか?」

「うん、初めて見た……かな?」

「かな?って……」


 ガントによるとあらかじめ魔力を溜め込んでおき、外から衝撃を与えると魔力を使って発光するという最近出来た道具らしい。 「マジック・テイル」にも似たような道具は悪霊使いの専用装備に有った気がするが誰でも持てるアイテムじゃあ無かった。


「あいつ等はこの下に居る」

「どうでも良いけど。 ここで大丈夫なの? ラズともう片方の魔族位の力が有れば抜け出せそうだけど」


 話からして魔族が地下牢に居るんだろうけど。 ラズの力を見るに壁を掘って出て来ても可笑しくない気がする。 そうガントに言うと「大丈夫だ」と力強い返答が帰って来る。


「何でそんなに自信満々なの?」

「この地下牢は俺達ドワーフの先祖が作ったからだ」

「ガントさんのご先祖様ですか?」

「ああ、この地下牢は戦争以前から有ってな。 俺達が今じゃ持って無い技術や魔法をふんだんに使って作られたらしい。 今はライヴァン同盟の中で最高の牢獄として使われている……ここをあいつ等が脱走するなら他の所でも脱走される」

「そんなに凄い所なんですか……」


 アリアが驚いた表情をしながら暗い穴の中を屈みながら覗いている。 俺もアリアの隣で立ちながら階段の先の闇を見つめる。 築100年以上の牢獄か……こういう場所、「マジック・テイル」にも有ったっけな?


「……そう言えば何処か見覚えが」

「取り敢えずお前等、さっさと会いに行くぞ。 俺は祭の準備も有るしな」

「あ、ガント忙しいの? じゃあ行かないと」


 ガントの言葉を聞き、俺は闇から視線を外す。 アリアも立ち上がり、これから行く雰囲気になる。


「よし、中は暗いからな、俺の後ろをしっかりついて来いよ」



 ガントが魔光管を肩の位置まで持ち上げ、ゆっくり階段を下る。 俺とアリアも一緒に何も見えない闇の中に入っていった。

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