第83話 活躍の結果
「……頭痛い」
「レイさん、大丈夫ですか?」
アリアが心配そうに見守る中俺は頭に手を置きながら立ち上がる。 頭がクラクラするが……まあ、問題ない。
「あ、でもレイちゃんのおかげで少し良くなったよ」
「そう?」
「うん、痛みはまだ有るけどこの位なら……全身酷い筋肉痛レベルに下がったよ」
「そう聞くとまだまだ痛そうなんだけど……」
ネイがベッドから半身上げて、そう答える。 つい先程までは身動き1つしてなかったから良くなったというのは嘘では無さそうだ。
「にしても驚きましたよ。 急に吐血して……」
「ゴメンゴメン、何か体の中を傷つけたらしくてちょっと咳き込むと血が混じっちゃうみたいなんだよ~」
「それ、笑って言う事でもないような気がしますけど」
にゃはははと言いながら笑うネイ。 アリアの言う通り笑い所じゃないような……。
「……そろそろ俺の話をしていいか?」
俺達がそんなのどかな雰囲気を出していると後ろから太い男の声が聞こえた。 声の発信源はさっきまでネイに話し掛けていたフィルという男であった。 俺がネイから声の方向に目を向けると、明らかに殺気の様な物が出ているガントとそれを宥めているナギという男。 そして冷や汗を出している声の主という何ともおかしい状況になっていた。
「あ、はい……どうぞ」
ガントの殺気に気圧されながら、フィルに話し掛ける。 怖えぇ……流石、五師匠。 怒らせると大変な事になりそうだ。
「ネイ、まずは感謝をしたい」
「感謝?」
「ああ、ネイはボイルの港町を守ってくれた」
「いやいや、私はそんな大層な事してないよ……襲われたから戦っただけで。 それに最後は黒猫さんがやったんだし」
「私は最後にちょっと参戦しただけ。 ネイ達の作戦が無くちゃ私がやられて終わりだった」
ネイの言葉を黒猫さんが逃げ道を塞ぐみたいに言い返す。 それを聞いたネイが「で、でも……」と意見を言おうとするが、フィルが話の主導権を握り続けている。
「それでも自ら戦ってくれた事に変わりはない。 体がそんなになるまで」
そう言うと目を伏せるフィル。 そして急に頭を下げる。 それを見たネイが体をビクッと動かす。
「うぇ!?」
「ボイルの港町を……ここに居る人達を助けてくれて本当に感謝する!」
「え、えぇ!?」
フィルの様子に驚いた声を上げるネイ。 その2人の様子を見ながらガントが話に入って来た。 ネイはガントの事を見て今度は脅えた表情をする。
「ネイと言ったな? 獣人族の娘」
「は、はい」
「フィルを含む俺の弟子達の提案でな。 お前に贈り物をする事にしたらしい」
「へ?」
ガントから出た意外な言葉に今度はネイの猫耳がピーンと垂直に立ち上がる。
「何でも感謝の印だとか」
「ネイ、凄いじゃないですか!」
アリアがネイに笑顔を向ける。 それに対してネイはアリアにぎこちなく微笑み返す。 俺にとって中々眼福な光景である。 そんな事を思いながら眺めていると後ろからナギというドワーフが話し掛けて来た。
「それに近い話ならアリア、君にも有るよ」
「え?そうなんですか? ナギさん」
その言葉に驚いて振り向くアリア。 ナギはその顔を見ながら笑顔で首を縦に振る。
「ああ、町の人達が明日お祭りを開くから、その時の開会式に出てほしいみたいだ」
「お祭り?」
「というか宴会だろ。 あれ」
ナギの話にフィルが加わって来る。 それを聞き「まあね」とナギが同意する。
「分かり易く言うと「事件が解決したから馬鹿騒ぎしたい」って誰かが提案してなし崩し的にする事が決まったんだ。 その開始の挨拶にアリアが選ばれたんだ」
「な、何で私なんですか?」
アリアが何故という表情を隠さずにフィルに向ける。 それを見てナギが苦笑いをしている。
「アリアが目立ったからじゃないかな? 避難誘導の時に頑張ってたし」
「アリア、そんな事してたの?」
「え、えぇ……まあ」
アリアがナギの言葉を聞き恥ずかしそうに顔を赤くする。 アリアが避難誘導……。 その言葉を聞き俺は頭の中でアリアが大声で叫んでいる姿を想像し……。
「何か似合わないな……」
「何が?」
「アリアが避難誘導している姿」
「う~ん……」
俺の言葉を聞き目を閉じる黒猫さん。 そしてゆっくり目を開ける。
「……どうしてもアリアが避難してる図しか想像出来ない」
「だよね」
「レイさん! 黒猫さんも!」
俺が黒猫さんと2人でうんうんと頷いていると。 アリアが赤い顔をしながら俺達の名前を読んでいた。
「で、そろそろ俺の話をしていいか?」
俺達がネイとアリアの事で色々と騒いだ後にガントがそう言った。
「え、あ、どうぞ」
「ガントも何かあるの」
「ああ、お前等に少し話が有る……というか俺の話が一応メインで来たんだが」
そう言うとガントはフィルとナギを睨む。 フィルはそれに対して目をそらし、ナギはニコニコと感情の読めない表情をしている。 その2人を見た後、ため息を1つ漏らし俺達に視線を戻す。
「まあいい、話って言うのはな……他の五師匠に戦力の強化を提案する事を決定しただけだ」
「え? ああ……」
ガントの言葉を聞き、俺はガントがハイちゃんの紙を破った事を思い出す。
「まだ俺には魔神がどうとかは納得は出来ていない。 だが、襲って来たあいつらに町は滅茶苦茶にされかけた……今度あんな奴らが来た時の為に戦力の強化が必須だと思っただけだ。 あくまでもあいつらの件だ。 魔神の話はハイナ教国から来た人の話程度には言っておく」
つまり、ガントは理由はどうあれライヴァン同盟の戦力の増加をしてみるらしい。 まあ、俺の目標は達成できたかな?と考えているとガントの後ろでニヤニヤ笑っていたナギが声を上げて笑い始めた。
「なんだナギ! 五月蠅いぞ」
「ハハハ、すみません師匠……病院に来る前までどうやって会おうか悩んでいたのを思い出したら急に可笑しくなってしまってつい……」
「ナギ! 貴様ぁ!」
ガントが今すぐでも笑い転げそうなナギの頭を掴み、空中に浮かせる。 流石のナギもそう言う事をされた影響で笑い声が苦しそうな呻き声に変わる。
「……もう何も言うなよ?」
「す、すみません。 師匠……」
そして頭を離されたら直ぐに土下座の体勢になるナギ。 それを見てアリアとネイは唖然としているのか口を開けて声が全く出なくなっている。 黒猫さんは大して変化なし。 手の位置が膝の上から黒いコートを挟んだ椅子の座面に変わっているだけで体の向きはネイのベッドの方向で顔だけガント達に向けるという中々可愛いポーズになっている。 フィルはガントの後ろでガタガタと体が揺れていた。
「さて、後もう少し話が有る」
「話?」
「そうだ」
ガントが周りの様子を全く気にしてないかのように話し始める。 そして一言こう言った。
「お前等、町を壊そうとしたあいつらと……話がしたいか?」