第82話 友達の為ならば!
魔族の話をすると言ったけれど……どうしてこうなった
「あれ? レイさん髪型変えました?」
「うん、そうだけど……似合う?」
マイナの出来事から暫くしてアリアが布を被せたバスケットを持ってやって来た。 俺は髪を左手で触りながら答える。 俺の長い銀髪は星形の飾りが付いたリボンでひとまとめにされている。
「ポニーテールですか? て言うかレイさん左肩は?」
「ん? 魔力が少し戻ったから【魔法】で治した」
「それは病院に居る意味無いんじゃないですか?」
俺がアリアと会話をしていると病室の外から何やら男の声が聞こえた。 この声は……
「ダイナン?」
「おう、お嬢ちゃんハイルズぶりだな」
ハイルズに居た筋肉ムキムキのドワーフ……ダイナンだった。
「何でダイナンが居るの?」
「元々俺はライヴァン同盟を中心に活動しているんだ。 ボイルの港町にたまたま来たら大きな騒ぎが有ったらしいな。 それで活躍したのがお嬢ちゃんだって聞いてな。 会いに来た」
「そうなんだ。 ここでは凄い事件が起きたよ~。 それはそれは大きなのが」
俺がラズの事を思い出し疲れた顔で返すとダイナンは「そうか……」と苦笑いして返した。 それをアリアが聞いた後「あ、そうだ」と言葉を発した。
「レイさんこれ。 ミカさんからです」
「アリア、ミカの所に泊まったの?」
「はい、ミカさんが誘ってくれたので」
アリアが俺にバスケットを渡す。 中にはリンゴみたいに赤くて丸い果実が幾つも入っていた。
「へ~、今度ミカにお礼をしなきゃ」
ライヴァン同盟みたいな土地で木の実ってかなり高いんじゃないかな。 何て考えているとアリアが俺に話し掛けて来る。
「じゃあ、私はこれからネイの所に行きますが、レイさんはどうしますか?」
「あ、私も行く……ダイナンは?」
「俺はもう戻る。 お嬢ちゃんに会いに来ただけだしな」
「そう、ダイナン元気でね」
「おう、お嬢ちゃんも達者にな」
そう言い病室を出るダイナン。 俺とアリアはそれを見送るとネイの所に行く準備をする。
「そういえばアリア。 黒猫さんは?」
「多分、ずっとネイの所に居ると思いますよ。 私にはついてこなかったので」
視点変更 レイ→ダイナン
「お嬢ちゃんが病院……」
病院を出た直後に俺は呟いた。 俺の怪我を直ぐに治したあのお嬢ちゃんが病院に居るというのは何か似合わない……というか違和感を感じる。
「あのお嬢ちゃんでもかなり苦戦したのか?」
ボイルの港町で起こった事件を詳しくは聞いていないが、港の方の被害を見るに相当大きな出来事だったに違いない。 あんな被害を出した何かとお嬢ちゃんは恐らく戦ったのだろう。 流石のお嬢ちゃんでも怪我をしたに違いない。
「ま、お嬢ちゃんが元気で良かった良かった」
俺が独り言を言いながら病院を離れようとしたとき、3人位のドワーフとすれ違う。 俺はその中の1人の顔に見覚えが有った。
「……五師匠のガント?」
ライヴァン同盟の王とも言える五師匠の1人。 弟子が事件の影響で入院したのか?
「……」
にしては雰囲気がお見舞いに行くという感じではなかった。 何か苛立ってているが何処か申し訳ないような雰囲気だった。
「何か有ったのか? ……いや、事件は有ったか」
その時にガントが何かやらかしたのだろうか。 ま、冒険者の俺には関係ないか。 俺は病院に入っていくガントの集団を見送り、冒険者ギルドに向かった。
視点変更 ダイナン→レイ
「ネイ~! 大丈夫?」
「あ、ご主人様」
「無理……」
ネイの病室は219号室だった。 中にはうつ伏せの体勢でベッドの上で死んだように動かないネイと椅子にちょこんと座る少女の姿の黒猫さんが居た。
「ネイ、どうしたの?」
「何か変な薬で無理したみたい」
「変な薬?」
何かパワーアップ!する薬でも使って無理でもしたのかな? 一時的に格段に強くなってしばらくしてからデメリットが発生する薬って「マジック・テイル」にも有ったし。
「レイさん、ネイの事【魔法】で何とかできます?」
「うーん……出来ないことは無いけど。 私が倒れそう」
「あ、じゃあ良いです」
俺が【魔法】で回復し終えた時軽い目眩が来たから恐らくもう限界なのだろう。 にしても魔力ってどうやって回復するんだろ。 睡眠か?昨日はそんなに寝てないし。
「体の関節という関節が痛い……」
「ネイ、頑張って!」
「今はしっかり休養を取って治して下さい」
「うん……」
ネイが力無い声で返事をする。 大変そうだなー……なんて眺めていると扉が誰かにノックされた。
「誰?」
「私が見に行きましょうか?」
「よ、宜しく……」
ネイが力無く手を上げ、アリアの言葉に返事をする。 アリアがそれを聞き扉を開けるとそこにはドワーフが居た。 ダイナンよりも髭もじゃでまるで岩のような表情をしている男。
「……えっ、ガントさん?」
「あの獣人族の娘の部屋はここで合っているな?」
ガントとその後ろに苦笑いに近い表情をしている若いドワーフとネイを心配そうに見ているドワーフ……恐らくガントの弟子達が立っていた。
「そう警戒するな。 俺は別に獣人族をどうこうしに来た訳じゃ無い」
ガント達を俺と黒猫さんが睨んでいるとガントが言って来た。 すると若いドワーフが少しおかしそうに笑いながら、ガントに話し掛ける。 この人よく見たら俺達を案内した弟子の人だ。
「ですが師匠。 エルフの方々に散々言いましたので、警戒されるのは当然かと」
「うるさいぞ。 ナギ」
「これは失敬」
笑いながら口を閉じるナギと呼ばれた若いドワーフ。 そしてガントが空気を変えるように咳払いを1つした。
「俺達は今回お前らに謝らなくちゃいけないことが有る」
「謝る?」
「ああ」
「師匠、その前に俺に話をさせてくれないか」
ガントが話を進めようとした時隣から別の弟子が入って来た。 ……うわ、ガントの目がヤバい。 ちょっと苛ついてる。
「ネイ、フィルだ」
そのドワーフがネイに話し掛けて来る。 するとガントが来てからずっと身動きをしていないネイがゆっくりドワーフの方に目を向ける。 そしてゆっくり手を振る。
「あ、フィルさん……どうも~」
「大丈夫か? お前」
「大丈夫、大丈夫……」
と言うとネイが直ぐに「うっ」と言い手をバタっと下ろした。 フィルって人、ネイと知り合いのようだ。
「……えっと話をしていいか?」
「うん……いいよぉ……」
ネイがそう返事をし、手を上げた瞬間「グフッ」という声を出しベッドに倒れ込む。
「ちょ、ネイ! 大丈夫~!」
「そろそろアウト……」
「ああ! 口から赤いのが出てる!」
「ごめん、話ちょっと待って」
「お、おぉ……」
俺達がネイの周りで騒いでいて、ガント達がそれを呆然と眺めていた。
「ええい! こうなったら私が一か八かで【魔法】を使ってネイを治療するよ!」
「え、ちょ! レイさん! ストップ! ストップ!」
アリアの制止を無視してネイの背中に手を当てる。
「【魔法 ヒール】!……ウッ」
「レイさぁん!」
俺の魔法が決まったかどうか分からない内に意識が消えかけ、崩れる様に病室の床に倒れこむ。
「……アリア」
「レイさん……」
俺が倒れた時アリアが頭を受け止めてくれたようだ。 アリアの黒い大きな目と目が合う。
「アリア……ガントの話しっかり聞いてね」
「れ、レイさん! レイさぁん!」
俺がゆっくり目を閉じる。すると黒猫さんが
「何この茶番」
と冷たい視線付きで言い放った。 黒猫さん、冷たい……。




