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第81話 友達との別れ

 目を開けたら茶色の天井が見えた。 病室の窓からは日の光が入って来る。 俺はどうやらベッドに寝ているようだ。


「ありゃ?」


 俺がマイナと居た時に寝ていた体勢とは違う? 俺は違和感を感じながら起き上がる。 部屋には花瓶もぬいぐるみもない。 殺風景な俺の病室であった。


「マイナちゃん?」


 俺は少女の名前を呼ぶが部屋に誰も居ないので返事はない。 俺は立ち上がり、状況を把握するためにマイナちゃんの病室に行こうと立ち上がる。 その時右手から何かが滑り落ちた。 それは星形の飾りが付いている赤いリボン。 マイナから貰った友達の証。


「やっぱりあれは本当だったんだ……」


 俺はマイナの姿を見たくなりリボンを握りしめ病室から歩いて出た。










「202……だったよね?」


 自分の病室の前でマイナの部屋番号を思い出し呟いた。 自分の部屋は「215」……マイナの部屋と意外に近かったんだ。 けど部屋の位置は分かんないし看護師に聞くか。


「よし!」


 私はひとまず目標を決め、看護師を探そうと歩き出す。


「……あら?あなたは」


 ……が歩き出して直ぐに後ろから誰かに話し掛けられる。 後ろを振り向くとそこには白衣を着た女性が茶碗みたいな物を乗せたカートみたいな道具を押しながら歩いてきた。


「レイさんですよね? 215号室の」

「え? あ、はい」

「朝食もまだなのに何処に行こうとしているんですか?」

「ちょ、朝食?」


 見た目看護師っぽい女性の言葉を返しながら、押していたカートの中を見る。 中にはまた芋料理を中心とした食べ物が入っている。 なる程病院だから食事付きなのか。 ……って納得してる場合じゃない。


「あ、あの……私ちょっと用事が……」

「大人しくしてなきゃ駄目ですよ。 まだ怪我完治してないんですから」

「え?あれ?」


 看護師に右手首を捕まれ逃げられないようにされながら、自分の病室に優しく連行される。 左肩は痛まないが右手には上手く力が入らないような掴み方……この人プロだ!


「ちょっ! ちょっと! 私には大事な用事が……」

「はいはい、話は朝食の後にしましょうね。 レイさん、あなたかなり重症なんですよ? 大人しくしてなきゃ……」

「だ、だったら! 優しく私の意見も聞いて~!」


 俺は看護師に連れられ部屋に連れ戻されるのだった。










「……202号室?」

「そこに行きたいんだけど……どこに有るか分かる?」


「私の話を聞いてくれたら朝食を食べる!」というおかしな交渉を病室で3分位した後、俺は朝食を食べながら看護師と会話をする。 ちなみに看護師さんはこの後休憩時間だったらしいが、その時間を削って俺の話をしっかり聞く姿勢になっている。 何というプロ根性。


「場所は分かりますけど……あの部屋に何の用が?」

「友達に会いに行くんだよ?」


 俺は看護師の疑問に答える。 マイナに関してはもしかしたら……という気持ちが有り、それを否定して欲しい気持ちからこう答えた。 看護師は俺の返答を聞いた時、何か驚いた表情をした。


「友達? えっと名前は?」

「マイナちゃんだよ。 ほら、黒髪のドワーフの」

「マイナ……」


 看護師さんの顔は青くなっていた。 俺はその反応を見て、心の中でこう思った。


(やっぱりマイナちゃんは幽霊だったんだ)






「マイナちゃんとは昨日会ったんですよね? レイさん、一昨日は入院してませんでしたし」

「はい……いや、今日かな?」


 看護師さんの質問に俺は答える。 看護師さんはその言葉を聞くと、続けて


「その話、本当ですよね?」


 と俺に聞いてきた。 俺がその言葉に縦に頷く事で返答すると。 看護師さんは静かに言葉を始めた。


「今の202号室には誰も居ないわ」

「誰も?」

「ええ、誰も」


 俺は「病室に誰も居ない」という言葉に疑問を感じながらも分かりきっている質問をする。


「マイナちゃんは?」

「もう亡くなりました。 もう、この世界にも居ない筈です……」

「そうですか……って筈?」


 俺は看護師に聞き返した後に気付いた。 あ、幽霊は俺が夜に会ったんだった。


「マイナちゃんは幼い頃からある病気でした。 今の【魔法】や薬じゃ治せない位の重い病気……」

「……まあ、病院に居る時点で察してたけど」

「そして病院に居たマイナちゃんはずっと病室でほとんど寝て過ごしていました。 病気のせいで」

「そういう病気なの?」


 俺がそう聞くと看護師さんは辛そうな顔をしながら首を縦に振った。


「幼い頃から死んだかのように何日か寝て起きる……それを繰り返していました。 成長すると睡眠時間も増えて……2年前のある日、息を引き取りました」

「そうだったんですか……」

「そうやってずっと寝ていたせいで友達も居ませんでした。 話す相手は彼女の両親と私くらい」

「看護師さんがですか?」

「ええ、私あの子を担当してました」


 この看護師さんと話して正解だったな。 なんて心の中で思いつつ、話を続ける。


「そしてマイナちゃんが亡くなってから次の日の夜にマイナちゃんが歩いていたって報告が来たんです」










「最初に報告したのは、大怪我をして5ヶ月前から入院してた町の男性でした。 夜、病室から抜け出した時に後ろから誰かが話し掛けてきたそうです。 それを聞いた男性は迷子かと思って振り向いて姿を見たら、死んだ少女だって気付いたそうです……彼は陽気な方でどんな人にも挨拶をしていたのでマイナちゃんの顔は知っていたそうです」

「……」

「彼はそれに驚いて部屋に戻ったらしいんですが、マイナちゃんは部屋に入って来なかったそうです」

「やっぱり幽霊なのか……」


 この話を聞けばマイナちゃんは幽霊だと言って居るような物である。 看護師さんはその後もマイナと会ったという人の話を出していく。 それを全て聞いた後、俺は看護師さんに聞いた。


「……そういえば何で202号室は使って無いの? マイナちゃんが居るから?」

「……そのマイナちゃんが亡くなってからあの部屋には入れなくなっていたんです。 扉が何をしても開かなくなって……」

「入れなくなった?」

「はい、何をしても開かなくなったんです。 例え剣で切ろうとしても、剣が折れてしまったり」

「それも幽霊パワーなのかな?」


 「マジック・テイル」にこんな事をするモンスターは出て来なかったが、壁を作る【魔法】が有るんだしそういう事が出来てもおかしくはない。 あのマイナちゃんがやったとは俺には思えないが、無意識かも知れないし。


「まあいいや、一回行ってみよ。 看護師さん場所教えてくれる?」

「……行くんですか?」

「うん、お返しするって約束したしね」










 マイナには幸運のリボンというアイテムを渡す事にした。 金色のリボンで敵に見つかりにくくなるという能力が有るアイテムだ。 俺はそれを右手で持って202号室の前に立っている。 俺の隣には看護師さんが俺の方を見て立っている。


「じゃあ、開けるね」

「どうぞ」


 俺は木製の扉に手を掛け、ドアノブを回す。 すると「ガチャ」という音が鳴り簡単に開いた。


「看護師さん?」

「あ、あれ? 他の人の時は絶対に開いたことが無いんですけど……」


 看護師さんは戸惑っているが、俺は気にせず部屋の中に入る。 部屋は夜が俺が居た時と殆ど変わって居なかった。 マイナが寝たベッドに俺が座った椅子、リボンが無いぬいぐるみと花瓶が置いてあるテーブル。 夜の時と違うのは花瓶の中の花が枯れ果ててテーブルに落ちている位だ。 俺はゆっくりその部屋に足を踏み入れる。


「お姉ちゃん?」

「!この声は」

「……マイナちゃん」


 看護師さんが何処からか聞こえてきたマイナの声に驚いていた。 俺はその声に囁くように返す。 部屋には俺と看護師さん以外は誰も居ない。


「マイナちゃん、隠れてるの? 私と遊ばない?」

「あ、やっぱりそうなんだ……」


 俺の声に少女が小さく、悲しそうな声ど応答してきた。


「マイナちゃん、やっぱりって何?」

「私もう消えかかってるみたいなの……お願い事も叶っちゃったし」

「ああ……そうなんだ」


 恐らく少女にとっての未練が無くなってしまったのだ。 多分、俺と居た夜に。 俺が友達になったから。


「気付いてたもん。 私がもう死んじゃったって事……どうして私を見たらみんな逃げるのか」

「マイナちゃん……」

「あ、看護師さん。 久しぶりだね」


 マイナちゃんの言葉を聞き、呆然としていた看護師さんがポツリと少女の名前を呼びマイナが彼女の存在に気付いた。


「ありがとう。 こんな私とずっと居てくれて」

「……」


 看護師さんはマイナの言葉に俯いてしまった。


「お姉ちゃんもありがとう。 私と初めての友達になってくれて」

「どういたしまして……あ、そうだこれ」


 俺は右手を自分の胸の高さまで上げ、幸運のリボンを右手の平を開けることで見えるようにした。


「これは?」

「ほら、言ったじゃん。 お返しをするって」

「あ、そうだね……」


 俺の手から幸運のリボンがゆっくりと動き出し、私の元から離れていきちょうどマイナちゃんの胸元辺りの高さで止まった。


「綺麗……」

「でしょ?」


 俺が少女の呟きに返すと、リボンが空中を大きく動いたと思ったら。 俺に何かがぶつかった様な衝撃が走る。


「……うわ!」

「お姉ちゃん……ありがとう」


 ああ、ぶつかった衝撃はマイナちゃんのものだったのか。 何て考えながら方膝の体勢になり。 マイナちゃんが居るとおぼしき場所を抱くように腕を動かす。 すると暖かい透明な何かに触れたので、それを抱えるように抱く。


「どういたしまして」


 そう俺が呟いた時、俺が感じていた熱が急に消えた。 地面には金色のリボンが音もなく落ちた。








「行ったのですかね?」

「さあ?」


 静かになった病室の中、看護師さんが俺に聞いてきた。 俺には分からない。 天国に行ったのなら良いけど……。 天国って有るのかな?


「私には分からない……けど多分マイナちゃんは幸せだって思いたいね」

「そうですね」


 俺は幸運のリボンを拾い、静かに立ち上がりながらわざと明るく看護師さんに声を掛ける。


「私は自分の部屋に戻るよ。 看護師さんは?」

「私もカートがレイさんの病室に有るので」

「あ、そっか」


 そう言いながら俺は看護師さんとゆっくり病室を出る。 病室の扉を看護師さんが閉めたとき、俺の目から溜まっていた涙がゆっくり溢れた。 少ししか話をしなかったって友達だったんだ。 居なくなったら悲しくなる。


「年上の友達らしく居られたかな?」

「多分、大丈夫でしたよ」

「ならいいかな」


 涙の歯止めがきかなくなったとき、看護師さんがハンカチを俺の前に出してくれた。


「ありがとう……」

「どういたしまして」

何かちょっと不思議な感じで終わってしまった……次からは魔族関係の話になります。

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