第77話 港町の戦い、決着
私の前には大剣を持って驚いた表情の魔族、だが直ぐに表情が変わりどこか楽しそうな表情になる。
「女、まだ生きてはいると思っていたが……そんなに元気だとは思わなかった」
「裏技で無理矢理動かしてるのよ。 さて一番最初に殺すのは私でしょ? 魔族さん」
私がそう言うと魔族は赤が後少しで無くなる空を見ながら思いっきり笑った。
「……何だ? そっちの爺の身代わりになるのか? まあ、どっちにしろ面白いならそれで良い!」
「……師匠」
魔族の巨大な声に混じってフィルさんの声が左から聞こえた。 私が魔族に気付かれないように声の方角を見るとガントさんの隣にフィルさんが立っていた。
「ちょっと話が……」
「フィル! こんな時に話だと! それにあの獣人族は!」
「すみません師匠。 説教は後で受けます。 ですが私の話を聞いて下さい」
フィルさんの説得を心の中で応援しながら私は周りに居るドワーフ達に話し掛ける。
「あの、ごめんなさい。 私の戦いの邪魔になるから退いてくれるかな?」
「はっ? ……それ俺達に言ってるのか?」
「はい」
私の言葉にドワーフ達の間でざわめきが幾つも起きる。
「ふざけるな!」
「いきなり来て何言ってるんだ!」
「獣人族のクセに!」
中には私を罵倒してくる声も出て来た……まあいきなり出て来た嫌いな相手に「邪魔」って言われたら当然の反応か。 言い方が悪かったなぁ……どうしよ。 何て考えていると
「うるさいな……たたっ斬るぞ」
魔族が低い声で弟子達に向かってそう発した。 まるでナイフを首元に押し当てて居るような殺気を含んだ声に弟子達は静まり返った。
「てめえらがその女を嫌いなのかどうか知らないが……その言葉は1人で逃げる事が出来たのにわざわざ戻って来た奴に言う言葉か? お前らはこの女が来なければもう命が俺に狩られていたかも知れないのに……そんな声を出す気力があるならてめえらから斬るぞ」
その言葉に弟子達は私達を中心にゆっくり後ろに下がる……弟子達の様子を見ていた私はガントさんとフィルさんの姿が見えない事に気付いた。 どこかに移動したのかな? まあ敵の前で作戦の事を話すのはおかしいか。 魔族はその様子を一瞥すると私の方に目を向ける。
「さて、邪魔は居なくなった」
「そう? 私が囮で伏兵とか居るかもよ」
「ここのドワーフはお前の仲間じゃ無さそうだし、居るとしたらお前の作戦の伏兵だろ? ならこいつらよりは楽しいだろ」
「楽観的ね」
私がため息をつく。 それを見て魔族は口元をつり上げる。 そして大きく翼を広げて私に対して剣を前に突き出し、突っ込んで来た。
「……早!?」
私は思わずそう叫びながら右に回転し避ける。 私の後ろに居たドワーフ達も驚きながらギリギリで回避に成功する。 そして魔族は思いっきり家の壁に大剣が突き刺さる。 ……また壁壊してるし。
「どりゃあ!」
魔族の男は壁に刺さった大剣を力任せに横に振る事で壁から抜き、刃を私に向ける……が、無理矢理家から引き剥がされた壁がそのまま大剣にくっついて何か新しいハンマーみたいになってしまった。 その大剣を男は一度苦い顔で見る。 あ、彼にとっても予想外だったんだ。
「……」
「……あー、これはなあ」
「これは?」
「こぉする為だぁ!」
彼としても何か思うことが有ったのか、ハンマ……大剣を思いっきり地面にぶつける。 その衝撃で元家の壁が粉々になり、破片が周りに恐ろしい勢いで飛んでくる。
「うわっ!」
「ぐっ!」
「危ねえ!」
それが弟子達の方にも飛んでいくが私は前から飛んでくる破片に意識を集中させる。 破片とは言っても飛んでくる大きさは石ころ位から人の右腕位の大きめのまで飛んでくる。
「……ハッ!」
私は目の前に飛んできた破片を横に避けながらナイフで真っ二つにし、魔族の元に走って近付こうとする。
「まだだ! 2発目!」
魔族はやや瓦礫が小さくなった大剣を上に上げもう一度大地にぶつける。 またもや大量の破片が飛んでくる。 ここまで大量に飛ぶって……偶然じゃなくてスキルか何かじゃないの? 何て感想を持ちながら、私は前から飛んできた破片を睨みナイフに力を込める。
「【奥義 回転乱舞】」
私は右足を軸に、体を回転させる。 飛んできた破片を5回転位回り飛んで来た破片を切り裂く。 そしてポーチから予備のナイフを取り出し、魔族に向けて回転しながら投げる。
「!?」
魔族はそれに驚いた顔をしていたが、大剣もどきで防ぐ。
「……お前」
魔族がそう呟いた瞬間足に力を込め魔族の喉元まで接近する。
「【奥義 ブレードカット】」
思いっきりナイフを前に押し、喉に突き刺そうとする。
「……ぐっ」
が魔族は空を飛んで避けたせいで首は外れ胸に先端だけ刺さる、そして魔族が飛んだ影響ででナイフの刃が黒い体から抜ける。 ナイフの先端が赤く染まっていた。 ……少しだけど初めてダメージらしいダメージを与えた気がする。
「……良いねぇ」
屋根の上に着地した魔族が胸から流れる赤い血を見てそう呟いた。 そして私を長い指で指差す。
「お前変わったな! 最高じゃん! 女ぁ!」
「はっ?」
私は怒ると思っていたが、まるで子供のような声を上げる魔族。
「すっかり豹になりやがって!」
「豹?」
「ああ、以前のお前ならあの場面でナイフを投げるなんてしなかった筈だぜ?」
確かに今までならナイフを投げるなんて決定打になる場面でなければしなかった筈だ。 2本しか持ってない貴重な接近戦の武装をこんな場面で投げるなんて今までなら考えられない。
「……何かそう思うと私が無謀になったみたい」
「今までが慎重過ぎたんだよ」
私と会って数十分の人にそんな事言われる筋合いは無い。 とは思いつつも納得をする。 確かに今まではずっと怯えてて慎重過ぎた。
「まあ、そんな話はどうでも良い。 女、名前は?」
「ネイよ」
「俺の名はクルルシュム。 ネイ! もっと俺を楽しませろぉ!」
クルルシュムは屋根の上で獣のように叫び一回飛ぶと私の前に降下してくる。 そして着地をすると大剣を構える。
「もう、殺戮なんてどうだって良い! ネイ! 貴様と戦えればそれで良い!」
何か私は彼のお気に入りになってしまったようだ。 私はナイフを構え、クルルシュムを迎え撃つ。
「……まあいいや、この戦いどんな決着でも文句言わないでよ」
「ハハハッ! やはり伏兵が居るのか! それも良い! さあ、行くぞ!」
相当気分が良いらしく高笑いしながら私に近づいてくるクルルシュム。 ナイフを握り私はそれに向かって行く。 その時、クルルシュムからは見えない位置にフィルさんが居るのを見つけた。 フィルさんは両腕を上げ大きな丸を描いている、作戦の準備が出来たようだ。 クルルシュムには悪いけどこれでこの戦いを終わりにする。 私はそう決心した。
クルルシュムと正面衝突する寸前にポーチから小さな球体を3つ取り出す。 その大きさは手の指と指の間で挟めるくらいの小さなもので中から細い紐が1本出ている。 それを3つ共私は前に投げ紐を狙ってナイフをスキル付きで振る。
「【奥義 ファイアカット】」
3本の紐の先端を正確に切る。 すると紐が燃え球体の方へ向かって行く。
「……爆弾か!?」
クルルシュムが私の投げた球体を見てそう驚く。 そして大剣を前に出し翼のスピードを減速する。 球体はクルルシュムの大剣にぶつかり爆発する。 爆発した時の煙で周りが見えなくなる。 私は煙から距離を取り、様子を見る。
「やっぱ駄目か」
煙の中に有る黒い人影が立っている事からクルルシュムはまだまだ元気な様だ。 私は立ち止まって居ると魔族が居る煙の中から炎の塊が飛んでくる。
「魔法!」
私は炎の塊を右に避ける。 その塊はスピードはゆっくりで簡単に避けれた……が私が居た場所に到着すると急に小さくなり、一気に爆発した。
「うにゃっ!」
爆風に思わず飛ばされそうになるが何とか堪える。
「爆弾か……まあ、それも有りだな」
クルルシュムが私の爆弾に当たった場所からそう呟くように言ってくる。
「さて、次は一体どうする?」
「こうする」
私はポーチから1つ茶色の球体を取り出す。
「また爆弾か?」
「そんな訳無いでしょ!」
魔族の言葉に対応しながら球体を思いっきり地面にぶつける。 すると球体から白い煙が出て来て、私の姿を見えなくする。 そして足に力を込める。
「【奥義 エアーエスケープ】」
煙から出て思いっきり私は魔族が壊した家の壁の無事な所で飛ぶ。
「何をするつもりだ! 女ぁ!」
魔族は何か楽しそうな声を上げる。 それに対して思わず私は笑ってしまう。 家の壁をさらに蹴りつけ魔族の所へ飛んでいく。
「ハッ! そう来たかぁ!」
魔族は愉快そうに声を上げ家の壁が取れた大剣を私に向けて飛んでくる。 大剣の刃との距離が私の手一つ分位にまで近付いた所で私はナイフを手から離す。 そして大剣の刃を両手で握る。 力を込めて握ったから両手から血が出るが、静痛増力剤の影響で痛みは無い。 その行動にクルルシュムが大きく目を見開く。
「何!?」
そのまま大剣の上に足を乗せ、クルルシュムの目の前まで走る。
「!!」
「【奥義 猫騙し】!」
クルルシュムの目の前で両手を叩く。 するとクルルシュムの体が一瞬膠着し地面に向かって落ちる。
「フィルさん! 今です!」
「了解!」
「しょうがねえ!」
私はクルルシュムの大剣から近くの家のリビングに飛び移る。 クルルシュムが地上に墜落してるとフィルさんとガントさんが向かい合う形で2方向から走って来てクルルシュム目掛けてハンマーを横に振る。
「「【奥義 ハンマーブラスト】!」」
2人が振ったハンマーはぴったりなタイミングで頭から落ちてきた魔族の体を叩く。
「やったか?」
フィルさんが魔族の様子を見て呟いた。
「やれてねぇぞ」
クルルシュムはハンマーに挟まれ頭が下の状態でそんな事を呟く。 まだまだ元気な様だ。
「……良い作戦だが。 伏兵が弱かったな……あの銀髪の女ならやれたかも知れねえがぁ……」
「こいつ……!」
フィルさんがクルルシュムの元気な様子に息を呑む。
「……どうする! ネイ」
「う~ん……どうしよ」
「私がやる」
私が悩んでいると私の後ろから鈴みたいな声が聞こえた。 後ろを振り向くと黒いコートに銀髪の少女が居た……って誰? 何て思って居るとその少女が右手を上げる。
「【魔法 ダークロープ】」
クルルシュムの周りに黒い魔法陣が現れ、そこから黒い紐が幾つも出て来てクルルシュムを2人のハンマーごと巻いていく。 こんな事はクルルシュムも思って居なかったらしく流石に驚いていた。
「な、何だお前はぁ!」
「ん?大切な友人の助っ人。 【魔法 ダークランス】」
その少女はクルルシュムの言葉に簡潔に答えさらにスキルを使う。 少女の手の上から黒い槍が現れそれをクルルシュムに投げる。 その槍は2人のハンマーごとクルルシュムを貫通する。 フィルさんとガントさんは思わずハンマーから手を離した。
「ええ!?」
「大丈夫。 この程度じゃ死なないと思う」
確かにあの男はこれじゃ死ななそうだけど……彼女に良心というのは無いのだろうか。
「失礼な。 それ位は有る」
「あ、ごめんなさい……誰?」
「黒猫さんだよ」
「それぐらい分かりなよ」っていう目をする少女。 確かに雰囲気は似てるけど……。
「ところであの男はどうする?」
「……あ、クルルシュム。 忘れてた」
黒猫さんが指差した時、クルルシュムは血を吐き、気絶していた。
「……とりあえず終わりかな」
「あ、ああ……」
「なんか締まらねえ……」
「?」
私とフィルさんとガントさんが呆然としてる中、黒猫さんは首を傾げていた。