第7話 空の旅とアリアの歴史の授業
視点変更 アリア→レイ
シムルグで国境から離れる。 アリアは地上を見ないようにしているのがかわいらしい。
「ねえ、黒猫さん。」
『何?』
「黒猫さんは召喚解除されないの?」
『何で?』
「ん?」
確か【召喚】の使い魔は契約した直後に召喚解除して消える筈だ(確か)。
「じゃあ、黒猫さんはいつ召喚解除するの?」
『むしろ召喚解除されなくちゃいけないの?』
「え、じゃあ半日で強制解除されるまで待つの?」
『強制解除?何それ?』
黒猫さん曰く強制解除はないそうだ。 そこら辺は「マジック・テイル」との違いがあるようだ。
「じゃあ、黒猫さんはずっと一緒にいる気なの?」
『悪い?』
「いや、悪くないけど。」
「と、ところでレイさん……」
「ん?何?アリア。」
顔が真っ青になっているアリアが俺に話しかけてきた。
「何処までシムルグで行くつもりですか?」
「う~ん、とりあえず国境まで?」
「やっぱり飛び越えるんですか?」
「まあね。」
「けど、ハイナ教国なら飛び越えなくてもいけるかもしれませんよ?」
「何か方法があるの? 門番を倒すとかは無しだよ。」
「しませんよ、そんなこと。」
顔が真っ青になっていても冷静につっこむアリアは凄いと思いました。
「オルアナ王国みたいに砦があるんで、検問所から直接行きます。」
「やっぱ倒す作戦じゃん!」
「違います! 検問所のところで人さらいに攫われたけどなんとか逃げてきましたって言うんですよ。」
『そんなのでいけるの?』
「いけます!」
「どうしてそんなに自身満々?」
「ハイナ教国の国民はエルフの人の言うことは結構信じるので。」
人の良心を利用する気かアリアよ……
「そういえばだけど、アリア?」
「何ですか?」
「魔法がどうして衰退したのか聞いてなかったよね?」
「ああ、商人に邪魔された話ですね。」
『何の話?』
「う~ん使い魔の黒猫さんには関係ない話かな~。」
「まあ、使い魔さんは人間とは違いますからね。」
『けど、気になる。』
「まあ、話しますね。」
シムルグの上でアリアの講義が始まりました。
「100年前に戦争があったのは知ってますよね。」
「まあ、一応は。」
『知ってる。 そんなに生きてないけど。』
「じゃあ、レイさんに質問です。 戦争で一番危険視される職業は知っていますか?」
「ん?そりゃあ魔法使いとかの遠距離から強力な攻撃が出来る職業でしょ?」
「その通りです。」
「マジック・テイル」には国同士の戦争というイベントもあったので分かる。 空から大量の隕石が降ってきたりするのにはびびる。
「それ以外にも死んだ人を生き返らせる魔法とかも昔はありました。」
『蘇られたら厄介。』
「大体そういう危険視されるのは魔法が殆どでしたので戦争の時に真っ先に狙われたのはどこの国でも魔法が使える職業でした。」
「ふむふむ。」
「だから戦争の最初の頃から魔法を使える人は一気に減ったらしいです。 さらに国にある魔導書なんかも焼き払われてしまったらしいです。」
「なるほど、それで魔法を教えられる人がいなくなっちゃったのか。」
「はい、だから今は魔法をまた1から研究している所なんです。」
「マジック・テイル」ではレベルが上がれば魔法を覚えたがそこら辺は違うのだろう。
「ハイナ教国はその魔法の研究が一番進んでいる国なんですよ。」
「へぇー。」
アリアが自慢げにしている。 自分の国を誇りに思っているのだろう。
「あ、国境が見えてきましたよ。」
『茨の壁がある。』
「オルアナ王国のとは全然違うね~。」
ハイナ教国は国境が茨で囲まれているようだ。 触ったら痛そうだ。
「確かこれも魔法で作ったらしいですよ。」
「魔法は便利だね~ ハイナ教国は羨ましいよ~。」
「シムルグに乗りながら言うセリフじゃあありませんね。」
確かに、移動にはとっても便利だね!
「さて、アリアが慣れてきたところ悪いけど降りましょうか。」
「確かに慣れましたけど……早く降りてくださいよ……。」
シムルグから降り徒歩で移動する。
『やっぱ地上が一番。』
「そうです。 その通りです黒猫さん。」
なんか奇妙な連帯感を持っている二人をほほえましく見ながら進む。
「そういえばさっき居たのはオルアナ王国で今向かっているのはハイナ教国よね?」
「はい、そうですよ。」
「それ以外に国っていくつあるの?」
「マジック・テイル」では4つあったけど今はどうなっているのだろうか。
「国は3つですね。 それと国ではないですが、ライヴァン同盟っていうドワーフの集まった集落が1つあります。」
「国じゃないの?」
「国ではないのですがほぼ国みたいな物です。 オルアナ王国は一番種族に関することは平等な所ですね。 国王はヒューマンですが貴族は頑張ればどの種族でもなれますよ。」
「アリアは物知りだね~。」
「一般常識です。」
「じゃあ、ハイナ教国はエルフが中心の国なんだよね。」
「っというか、国民の殆どがエルフの国ですね。 言ったとおり魔法の研究をしている国です。 あとハイナ教の信者の集まりです。 国のトップはハイナ2世で、女王様です。 後唯一のハイエルフらしいですよ。」
「へぇ~ ハイエルフ……」
っという事はエルフマスターなのかな? そこら辺は「マジック・テイル」と違うのかな?
「残りの1つの国はヴァルズ帝国ですね。 ヒューマンが中心の国で、エルフや獣人っといった人を奴隷として攫ったりしているそうです。」
アリアが苦い顔をしながら話す。
「攫う? じゃあ、あの人さらいって。」
「……多分ヴェルズ帝国に売ろうとしていたんじゃありませんか?」
「奴隷って他の国じゃあ認められていないの?」
「ヴェルズ帝国以外では認められていませんよ。」
『あそこ、嫌い。 ヒューマンが偉そうにしてる。』
黒猫さんが露骨に嫌そうな声を上げる……猫だから顔はよく分からないけど。
「後、ライヴァン同盟はドワーフ中心の集まりで、殆どの人は鍛冶職人です。 他の国と装備を貿易する事で利益を得ています。」
「どんな装備があるんだろう。 一回行ってみたいな~。」
「多分レイさんの持っている装備に勝るのは一つもないと思いますよ。」
「100年前の戦争の影響?」
「ええ、魔法以外にも色々と失われたそうです。」
「よくここまで復興できたね~。」
『人間の意地は怖い。』
「意地って……。」
黒猫さんも居ると三人で会話が弾む。 それにこの世界の事も大体分かった。
「やっぱ、女が三人居れば……なんだっけ?」
「姦しいですか? しかも使い方違うと思いますよ。」
視点変更 レイ→レオーナ
オルアナ王国首都アルノ ここは国王の住む城を中心に内側から貴族、平民、貧民の順で円形になっている都だ。 ここに私は緊急で来た。 用件は二つ。 一つはペガサスが砦を越えて侵入してきたという事。 侵入したのは見たという報告があるが、何処に行ったのか不明。 今も捜索中だ。 もう一つはシムルグがルーブの町に現れたという事。 これはいきなり町に現れたことから何者かによって召喚されたとされているが。 どうやって捕獲または契約したのかは不明という事もあって、騎士の間じゃあヴェルズ帝国のスパイじゃないかという説もありこちらも調査中である。 正直こんな大事が二つもあり、これを王様に報告しなければならないというのは色々と気が引ける。
「失礼します。」
「ほう、レオーナか。 どうした?アルネの森の調査は終わったのか?」
「いえ……それが至急報告しなければならない事が……。」
「何?」
「それが……」
とりあえず現国王に用件を伝えると王がなにやら悩んでいる顔をしている。 まあ、いまじゃ伝説のモンスターが二体も発見されたというのだから当たり前だが。
「王……?」
「いますぐ、捕まえろ!」
「はっ?」
捕まえる? せめて討伐とかでは?
「そのようなモンスターを使えるようになればヴェルズ帝国との戦いにも使えるぞ!」
「で、ですが。 我々だけでは……」
「つべこべ言わず捕まえよ!」
「は、はい。」
オルアナ王国の現国王は四代目である。 今の国王はハッキリ言うと自分勝手である。 自分の欲しい物は意地でも手に入れようとしてしまう。 前のヴェルズ帝国との対談でもその性格のせいで関係が悪化してしまった。 この国王の事だから捕獲しないと気が済まないのだろう。 正直言ってかなり困ったことになったぞ……。