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第76話 再戦前

 最初に私が使っていた武器は家に有った食事に使うナイフだった。 装備だってロクな物は無かった。 最初の頃の仕事は大体が近くの森に行き、薬草や木の実等を取る採取系の依頼を1人でしていた。 もちろん今の装備じゃモンスターに勝てない事は分かっていたのでモンスターが現れたらすぐ逃げる。 まあ、攻撃をしなければ人を襲わないモンスターなんかが寄ってきた時は依頼中の話仲間として放置したりもしていたが……。 そんな日々を過ごしていたが採取系の依頼は報酬が安い。 なので結局あんまり良い生活は出来なかった。 自分の生活に精一杯で必要最低限の装備すら買えない。 そして装備が無ければ命の危機は何倍にも増える。 学校に通った事は無かったが流石にその位は分かった私は決心してモンスターの討伐依頼を受けた。 「畑に現れるゴブリンの撃退」……それが私にとって初めてのモンスターとの戦闘で、Bランク冒険者になってからも変わらずにやって来た戦い方を習得した時だった。










「よし、じゃあ行くぞ」

「うん」

「しかし、ネイ。 あの傷で良く動けるな……」


 ベッドから私が立ち上がった時にフィルさんが驚いた感じで聞いてきた。 立ち上がってみて気が付いたが私の布が無かった腹は包帯で巻かれていた。 後は頭にも巻かれている。 私は自分の格好の変化を確認しながら枕元に置かれていた自分のポーチの中を漁り、ある空のビンを取り出す。


「何だこれ?」

「中に静痛増力剤が入ってたの」

「静痛増力剤……ああ、しばらく体の痛みを無くす薬だったか?」

「それだけじゃなくてしばらく普段より力を増す事が出来る薬だよ……まあ副作用が大変なんだけどね」


 まあ副作用はこの際置いとく……もう使っちゃったし。


「じゃあ、早く行こ。 この薬切れたら私動けなくなるし」

「そうだな」


 フィルさんは簡素に答える。 そして部屋の扉を開ける。


「そういえばここ……何処?」

「俺の家だ。 師匠達が戦っている所からちょっと離れてる」


 フィルさんと今更な会話をしていると私達を急かすかのように地面が揺れた。


「……急ぐぞ」

「うん」


 フィルさんは近くに立て掛けてあったハンマーを掴む。 私もナイフを構え2人で家から出る。 ……自分で考えた作戦だけどあれで勝てるかな?










 ゴブリンとの戦い方は今と同じで出来る限り相手を避け、攻撃の隙を突くという物……何て言えば響きは良いがただ怯えていただけだ。 それでもずっと森の中でモンスターから逃げてきた経験からか、敵の決定打を全部避ける事が出来た。 おかげで依頼は成功し、最初は私の見た目から良い表情をしなかった依頼人も私を褒めちぎってくれた。 良く思えば母親以外から褒められたのはあの日が初めてかも知れない。 その後、私はさらに上の依頼を軽く色仕掛けをして、仲間を募りながら受けるようになった……良く思えば何で私はそんな事をしてまで危険度の高い依頼を受けるようになるのだろうか? お金の為? それとも……










「あ! フィル! 急いで来てくれ! ……ってあれ?そっちの女性は」

「ネイだ。 冒険者でな。 戦いを志願してくれた」


 フィルさんと急いで魔族の戦闘しているであろう場所を目指していると体格の良いドワーフの男に会った。 フィルさんに対する言葉からガントさんの弟子の1人だろう。


「確かフィル。 この人って師匠に言われて見張って……あ」

「大丈夫だ。 その事を承知の上で協力してくれる」

「そうか……でもそれを師匠が許すかな……ってそうだ! こんな事をしてる場合じゃ無いんだ!」

「何が有った?」


 慌てているガントさんの弟子に冷静な態度でフィルさんは話を聞く。 私と会話をしてる時とは違う雰囲気にギャップを感じながら2人の会話を聞く。


「回復薬が足りないから工房から持って来るんだ! あの男、相当強い! 師匠が頑張っているがそろそろ師匠だけじゃ限界なんだ!」

「分かった! 俺達は師匠の所に合流する」

「けどあの堅物師匠だから獣人族の事を認めるかどうか……」

「俺が無理矢理でも説得する! 急ぐぞネイ!」


 フィルさんが弟子との話を無理矢理切り再び走り出す。 弟子の方もその姿を見て、私達が来た方向に走って行く……恐らく回復薬を補給しに行ったのだろう。


「……大変みたいだね」

「ああ、これは師匠にとっても予想外なんじゃないか?」


 フィルさんが静かな口調で私に同意するとまた大きな爆発音が鳴り響く。 そして私達から見て前方に砂埃のような煙が立っているのが見える。 恐らくあの辺りで魔族と戦って居るのだろう。


「……急がないと」

「ああ」


 フィルさんと私は急いで走っていく。 そういえばレイちゃんはどうなっただろうか? 大丈夫かな?










「うわぁ!」

「くっ……奴め」


 道の一カ所に武器を構えた人がまるで何かを囲むかの様に集まっている。 恐らくガントさんの弟子達だろう。 その集まりの中心らしき場所から人が何人か飛んでいる……いや飛ばされている?


「何か私の時より激しくなってない?」

「まあ、あの黒い奴からすれば敵の数も増えたし、お前みたいにちょこまかする奴は居ないからな」

「……あいつに正面衝突してるの?」


 良くもまあそんな事が出来るね。 私には出来そうに無い……って今回の作戦は私が正面から突っ込まなくちゃいけないんだった。


「まずは取り敢えず師匠を探そう。 ネイも捜してくれ」

「うん」


 恐らくガントさんはこの近くに居るだろう。 私としてはあの人と会いたくないが……まあ、しょうがないか。


「ところで、ガントさんならあの戦いの中心に居そうじゃないですか?」

「……確かに」


 私がふと思った事を口にしたらフィルさんがそれに頷いて同意して来る。 それじゃガントさんに会うのはかなり難しそうだ。 私は頭をフル回転させガントさんに作戦を聞いてもらう方法を考える。


「……そうだ。 ねえフィルさん。 私があの敵の所に行って敵を惹きつけるから。 フィルさんは何とかガントさんに話をして」

「はっ? あそこにどうやって入るんだ?」


 フィルさんがドワーフ達の暑苦しそうな人の集まりに指を指す。


「それは大丈夫。 地上は人で一杯だけど……」

「一杯だけど?」

「私には空が有る」










 ボイルの港町の道は結構狭い。 恐らくガントさんの弟子達はあの黒い奴をその狭い道で囲む事に被害を少なくしようとしているのだろう。 それでは家の壁を破壊すれば脱出出来そうだが、獲物(人)が近くに居る事で魔族はそっちに夢中のようだ。 私はあのドワーフの壁を無理矢理入ろうとはしなかった。 フィルさんなら行けるだろうけど私にはきつそうだ。 フィルさんと同じガントさんの弟子が私の顔を知っていたという事は私の顔は弟子中に知れ渡っていると考えた方が早いし、私の猫耳猫尻尾のせいで私が獣人族だとは直ぐに知れ渡るだろう。 そんな人をドワーフ達は簡単に通さないだろう。 なのでガントさんの弟子にも、魔族にも見つからない方法で魔族に近付く。 それは……


「家の屋根の上を走る」


 簡単かつ私らしい方法となった。 家と家の間を生まれ付き+静痛増力剤で手に入れた脚力を駆使して屋根に飛び乗る。 そして戦いの中心へと辿り着いた。 ドワーフ達によって出来た円の真ん中には魔族の男が居た。 そして円の最前列にはガントさんの姿が有る。 ガントさんと弟子達の体はあちこちに目新しい傷が有り、そこから血が流れている。


「……くそ、まだだ」

「おい、爺」


 息が絶え絶えのガントさんに息一つ切れてない男が話し掛ける。


「お前、中々しぶといが。 もう終わりだ。 ……全く最初に殺すのはあの女の予定だったから手を抜いてたが……そろそろ飽きたな」

「手を抜いていた、だと」


 ガントさんが男の言葉に絶句していた。


「ああ、弱い奴が何度も策を練らずに突っ込んで来るならあの女との戦いの方が良かったな……ま、あの女の戦い方も気に入らねえが」

「あの女……?」


 ガントさんが男の言葉に疑問の言葉を発する。 ……どうしよ。 戦ってるならともかくこんな会話中に出て行ったらなんか罵倒されそうで怖いな……何て私が尻込みしている間も2人の会話は続く。


「ああ、猫っぽい耳と尻尾の有る女だ。 そういやあの女と同じ種族の奴居ないな。 あいつ珍しいのか?」

「獣人族が戦っていただと?」

「何だよ、あの女が俺に吹っ飛ばされたのお前見てただろ。 何で戦ってたって考えに至らないんだよ」


 魔族の言葉にガントさんが驚いた表情をする。 獣人族が戦うのがガントさんにとってそんなに珍しいのかな?


「馬鹿な……あり得ん」

「まあ良い。 もう死ぬ奴と会話をしたって意味ねえしな」


 魔族の男が大剣を構え直す。 そして背中の翼を広げる。 ……怖いけど話も終わった様なのでそろそろ行こうかな?っと思い。 屋根から思い切って飛び降り、魔族とガントさんの間に入る。


「なっ……!」

「お前は!」


 2人が同時に驚いた表情をし、弟子達も私に視線を向ける。 私は魔族の方を向き、左手を腰に当てこう言った。


「まだ私を殺せてないのに他の人を殺すなんて……軽い男ね」


 私はまだ今も怯えていた。


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