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第75話 獣人の少女のちょっとした過去の話

視点変更 レイ→ネイ


 私が物心付いた時には父親は居なくて母親と2人だった。 私達はオルアナ王国のそこそこな大きさの町で暮らしていた。 私達は平民……とは言っても平民の中にも裕福な人と貧しい人が居るのだが私達は後者だった。 大した力の無い母親はボロボロの家の中でいつもちまちまと何かを作っている覚えしか無かった。 私は母親の邪魔をしないように家の外で遊んでいた。 友達は少しだけ居た。 同じ様に貧しい家の子達だ。 なのに私だけいつも裕福な人からいじめられた。 時には石を投げられ、時には水を掛けられた。 その時の私はいつも理由が分からず逃げていた。 何故私だけいじめられるのか。 それを知ったのは母親が過労で死んだ後だった。








 魔族の横振りの斬撃をジャンプし、かわす。 そして着地して直ぐに首元を狙う。 だが魔族はそれをまるでブリッジをするかの如く体を曲げる。


「なっ……!」

「攻めたのはいいが……甘えぞ女ぁ!」


 その体制からまるでバネのように体を戻し、頭突きを狙って来る。


「……はっ!」


 私は高速で向かって来る頭頂部を片手で掴み、腕に力を加え魔族の上を飛び越える。 そして空中で回りながら魔族の背中にナイフで切りつける……が。


「弱いぞぉ! 女ぁ!」


 彼に付いた傷はほんの少し凹んだようにしか見えない……幾ら不安定な切り方だからって固すぎじゃない!? なんて考えながら着地をしようとしたが


「捕まえた……」

「ぐっ」


 着地する寸前に魔族に左手で頭をガッツリ掴まれる。 そしてそのまま近くの壁へ叩き込まれ私の頭に馬鹿に出来ない衝撃が一気に押し寄せる。 これで意識を失わないのは幸か不幸か……。 取り敢えず私は右手のナイフを手放さないように右手に力を込める。 後、気を失わないように左手に爪が食い込むくらい力を加える。 そして右手を魔族の左腕を切るために下から振る。 その時に小声でスキルを発動する。


「……【奥義 ブレードカット】」

「な!?」


 魔族は私のナイフを手を引っ込める事で私のスキルを避ける。 そして素早く左手に巨大な握り拳を作り……私の防具が無い腹を思いっきり殴った。


「うっ!」


 私の口から思わず声が出て来る。 そして私が背にしている壁が砕け後ろに飛んでいく。


「……しまったちょっと本気でやっちまった」


 そう呟く男の声が聞こえる。 そして背中に衝撃が発生する。 堅いが壁とは違う感触……そして熱を持っている。 ついでに何だか抱え込むような感じだ。


「……お前誰だ?」


 そう呟く魔族の言葉を最後に私は意識を失った。










 母親は私が15歳になった日に死んだ。 今まで無理していたのが祟ったらしい。 葬儀は普通親戚などにして貰う物だが母親と血がつながっているのはお金が無い私だけだったので、国の人が墓を建ててそこに埋めてくれただけだった。 その後、私はどうにかして働こうとした。 別に私はその時まで働いた事が無いわけではない。 一人暮らしのおばあちゃんの家の中のリフォームの手伝い。 畑仕事の手伝い等の仕事をやり、お駄賃程度にはお金を貰った事は有る。 とは言っても正規の雇用が出来るのは15歳以上と法律で決まっていたので本当の意味で働くというのはしたことが無かった。 そして働き手を探すのに私は苦労した。 まずはお店に直接行き、働けるかどうか直接頼んだ……が私が行った場所は何処も駄目だった。 その理由を一回だけ店長に聞いた事が有る。 その時に言ったのが「獣人族だから」であり、私はその時私がいじめられていた理由が分かった。 物を平気で盗む獣人族……それが普通の認識。 オルアナ王国の法律上は平等でも、獣人族は差別された。 その時の私は食料も殆ど無く、ギリギリで暮らしていた。 お店じゃあ働けない。 理由を言われ、そう感じた私はある事を決心した。


 誰でもなれる冒険者になろうと










「おい……大丈夫か? おい」

「……ん」


 誰かに頬を叩かれ意識が戻る。 どうやら私は何処かに寝かされているようだ。 お腹の辺りがかなり痛む、魔族の攻撃で骨が何本か折れたかも……いや、それで済めば良い方かも知れない。


「おい……くそっ魔族はまだ近くに居るのに……」


 私はその言葉を聞くと意識が覚醒し、体を一気に起こす。 その時に体全身に激痛が走る。


「くぅ……」


 その痛みに思わず可愛い声を上げてしまった。 場所は誰かの家の中のベッドの様だ。 先程私と魔族が荒らしに荒らした家に比べると娯楽的な物が少ない。 激痛が発生しないように首だけを(それでも頭の後ろは痛い)横に向けるとそこにドワーフの男が居た。 先程の声の主のようだ。 声と見た目からするとまだまだ若い方だろう。 けれど私よりは年上だろうか? ドワーフの年齢は良く分からない。


「やっと起きたか、お前大丈夫か?」

「……誰? っていうかあの魔族は?」

「取り敢えず落ち着け。 説明してやる」


 私が一気に聞いたのを男が焦っていると判断したようだ。 私が口を閉じると男が口を開いた。


「俺の名前はフィルだ。 ガントさんの下で修行をしている」

「……」


 私が黙って聞いているとフィルさんが話を続ける。


「まあ、簡単に言えばだな……お前はあの黒い奴に吹っ飛ばされただろ?」

「はい」

「それをキャッチしたのは俺だ」

「ああ……ありがとうございます」


 私はあの時の事を思い出し、フィルさんに素直に感謝する。 あの勢いでさらに壁にぶつかっていたらもっと重傷だっただろう。 彼は正真正銘私にとっての命の恩人という事になる。 だが当のフィルさんは私の感謝の言葉にやや申し訳なさそうな顔をする。


「……どうしたんですか?」

「あー……俺からお前に謝らなくちゃいけない事が有ってなぁ……」

「……?」


 私が首を傾げていると、まるで何かが爆発したような爆音と地面が大きく揺れた。


「な、何!?」

「……あの黒い奴と今師匠と弟子達が戦っているんだ」

「師匠……ガントさんの事?」


 五師匠のあの人が戦ってる。


「それで謝りたいっていうのは……その」

「……?」

「あんたが黒い奴と戦い初めてもずっと静観していた事なんだ」

「は、はあ……は?」


 いきなり良く分からない事を自白するフィルさん。 えーっとつまり戦っているのを見たのに一緒に戦わなかったって事?


「別にそんな……あんな戦いに介入する方が……」

「いや、それだけじゃない。 町の中に居る時、ずっと監視していたのも済まないと思っている」

「……はい?」


 今度の言葉は先程の急な自白以上に私の思考停止させた。 ……私ずっとつけられてたの?










「え、えっと……つまりあなたは私を昨日からずっとストーキングしてて。 その時に私に向かって魔族が襲って来た。 そしてあなたの師匠のガントさんにその事を伝えようか迷っているうちに私があなたの所に吹っ飛んできて……その時タイミング良くガントさん達が来たからあなたは私を安全な場所に運んで今の状態……って事?」

「あ、ああ……そんな感じだ」


 私の言葉にやや申し訳なさそうに頷くフィルさん。 それに私は疑問を持ったのでフィルさんに聞いてみることにした。


「ところで……フィルさんはどうしてそんなに申し訳なさそうに……」

「それはだな……その、お前を監視している時は町に悪影響を及ぼす可能性が有るって言われて監視してたんだが……お前が助けた人を見てお前は悪い奴じゃあ無いんじゃないかと思ったんだ……」

「助けた人?」

「お前が突っ込んだ家に居た奥さんだ。 俺を見た瞬間必死に助けを求めたぞ。 あの獣人族の方を助けて下さいって」

「ああ……」


 あの女性私のせいでピンチになったような……まあ、助けたのは事実だけど。


「……まあ、事情はどうだって良い。 お前はしばらくここで休め。 どうせまともには動けないだろ?」

「フィルさんはどうするんですか?」

「俺は師匠の所に行って戦う」

「なら私も行きます」

「無理だ。 お前の体じゃまともに歩く事すら出来ない」


 フィルさんにあっさり拒否される……けど


「私はもう逃げたく無いので」

「……?」


 フィルさんが私の言葉にきょとんとした表情をする。


「私にはまだ動く手段は有るよ」

「だが」

「そしてあの男を倒す作戦も有る」

「何?」


 フィルさんが私の言葉に眉を動かした。 フィルさんは私の言葉に興味を持ったようだ。


「それは私無しじゃ成立しない……それにあの男は強いよ。 ガントさん達でもキツいと思う」

「……実際に戦った奴が言うんだ。 そこは信用してやる。 後は作戦次第だ」

「その作戦はね……」


 私がフィルさんに作戦を説明する。 フィルさんはそれを聞き、少し考える。


「……確かにダメージは与えられるだろうが。 それで倒せるのか?」

「真っ正面から殴り合うよりは勝ち目があると思うよ」

「……良いだろう」


 フィルさんは私に肯定の意味で頷く。 私はもう逃げない。 戦い方も差別からも……変わるのは今しかない。


 猫から豹になるのは今しかない。

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