第74話 赤く染まった銀の髪
「さて……クルルシュムを助けに行くか」
港にある我の出した巨大な隕石を一瞥し町の方を向く。 街は我の出した隕石で少し崩れたがまだまだ壊れていない。 クルルシュムが町に向かったのだからもっと派手に……っというかここら一帯が平地になっても可笑しくは無いのだが。
「……クルルシュムは遊んでいるのか?」
奴は王の命令なのにこの任務を遊び半分で受けたからな。 ……それでこの町の状態。 奴はふざけてるのか?
「……まあいい、ここから【魔法】で町を潰すか」
飛んでいる我の足元に魔法陣が浮かび上がる。 そして我の頭上には巨大な火の玉が現れ徐々に大きくなっていく。そしてその玉は【魔法 ジャイアントメテオ】の大きさを優に超えてもまだ大きくなる。 そして【魔法 ジャイアントメテオ】の大体3倍位になった所で大きくなるのが止まる。 火の玉の膨張が止まってから我は右手を上げ、指を町に向ける。
「では、さらばだ! 【魔法 メガフレ」
我が声を上げ魔法を放とうとした瞬間だった。 我の後方の海面が勢い良く水柱をまた上げる。 我は【魔法】を放つのからそっちに意識が向き、その方向を向いた時に20mは有る巨大な物が我に飛んでくる。
「クッ!」
我はそれを横に飛び回避し、そのせいで我の上に有った火の玉は消えてしまう。
「一体何が……」
我は呟きながら投げつけられかけた物を確認する。 それにはエラがあり、巨大なヒレそして何でも飲み込みそうな巨大な口。 その何かが勢い良く海面に叩き付けられ、浮かび上がって来る。 ……まさか
「ダークメガロドン?」
「そう、あなたが私に襲わせた魔物だよ」
我はダークメガロドンが飛んで来た方角に顔を映す。 するとそこには銀髪の女が立っていた。 緑色の服は無残に破け、白い肌には刃物で傷つけられたような後が幾つも有り、左肩はダークメガロドンに噛みつかれた跡が有る。 頭からは血も流れており、銀の髪は所々赤くなっているが、それよりも両手がもっと酷い。 手のひらは真っ赤に染まり白い肌が見え無い程だ。 左腕は左肩の影響か、だらんと垂れており整った顔と相まって無惨な感じになっている……がそれ以上に女の目は力強かった。 右目は充血しているが、水色に近い色素の薄い目は全く濁っていない。
「貴様、どうやってあの群れを」
「簡単よ。 海で戦ったの」
我の質問に簡単に答えるレイ。 ……あのダークメガロドンを倒した? しかも1人で30体を?
「あり得ん……」
「有り得ないのはあなたの方よ、ラズ。 あんなにダークメガロドンを出されたせいで食べられそうになるわ、杖を壊されるわ……もう嫌なこと尽くしよ」
確かに今彼女は杖を持っていない。 だがそれならどうやって倒したんだ、この女は。 魔法使いなら【魔法】の威力を上げる杖が無くちゃ戦えない筈……っと思った所で彼女の手を思い出す。
「まさか、素手で戦ったのか!?」
「そうよ」
我の言葉に単調に答えるレイ。 そして言葉の後にこう付け足した。
「そしてもう終わりよ。 ラズ」
レイがそう言い放った瞬間背中に悪寒が走る……まるで冷たい手が触れたような感覚。 我は思わず後ろを振り向こうとするが、体が動かない。 何かの魔法か?
「貴様、何をした!?」
「あなたの目が届かない海中でね、ちょっと使い魔を【召喚】させて貰ったわ」
「何!? だがそんな気配は……」
「そう言う使い魔なのよ」
そう言いながら血だらけの右手で握り拳を作るレイ。 そしてこう彼女は宣言した。
「じゃあ、今から思いっきり殴るから」
視点変更 ラズ→レイ
俺が召喚したのは相手の体を移動できなくしたりする妨害系のスキルが多いディペンドゴーストだ。 「マジック・テイル」に有った使い魔を買えるお店(NPCが経営)で一番高い値段がついていた使い魔の1つ。 【補助 探知】等には引っかからない使い魔で相手に気付かれない内に相手を【魔法 金縛り】で動けなくしてしまうという対人戦で使うと優秀過ぎる奴だ。 今ラズの後ろには白い人影のような物……ディペンドゴーストが立っている。 俺からはただ立ってるように見えるが、あれでも一応魔法を使っているのだ。
「【補助 飛行】」
とりあえずディペンドゴーストの【魔法 金縛り】に制限時間が有るので素早く決めようとスキルを使う。 すると背中にはラズの羽とは対称的な純白の魔力で出来た羽が俺の背中に現れる。 俺が飛びたいと願った瞬間純白の羽が動き海面から一気にラズの目の前に飛ぶ。
「なっ!?」
目の前に来たことに驚いているラズを無視し、拳を構えラズの腹に向かって思いっきり拳を放つ
「【奥義 クラッシュパンチ】!」
勿論スキル付きで。
「ゴバァッ!」
ラズは思いっきり殴られたせいか可笑しな声を上げ、斜め下に飛んでいく。 その時ダークメガロドンとの戦いの傷が痛む……特に拳が。 ちなみにディペンドゴーストはラズが殴られる直前に横にズレ攻撃を避けていた。 ……とまあ、それはさておき位置の関係上思いっきり町の方に吹っ飛んだラズ。 あの速さじゃあ町に被害が出る……という名目でラズに向かってさらなるスキルを使う。
「【魔法 ライトウォール】」
すると墜落中のラズのちょっと先の所で白い壁が生まれ、ラズはそこに叩き付けられる。 そのラズに対して私はまた右手に力を込めラズの居る所まで一気に加速する。
「なっ……や、やめろ……」
「町を襲おうとした言い訳は後で聞きます。 【奥義 爆裂パンチ】!」
俺の言葉と共に血で赤くなった握り拳がスキルでオーラの様な物が出て来る。 そして勢いを全く殺さずラズの腹へ突っ込む。
「……!」
白い壁に黒いヒビが発生し、隕石の落下地点の様になる。 ラズは声を上げず口から血を吐き出し、俺にもたれるように倒れた。 ……お、俺も腕が折れそうだ。
「……や、やりすぎたかな?」
ピクリとも動かないラズに少し心配になり【補助 サーチ】を使う。
ラズ 魔族 レベル442 ♂ 黒魔術師 HP 44/4756 MP 565/8020 状態異常 気絶
気絶は一定時間行動が出来なくなる状態異常……つまりまだ生きているという事のようだ。 うん、息もほんの少し有るから大丈夫だろ……きっと。 何て思いながら地面に置き、体を色々な物でぐるぐる巻きにするためにラズを肩に掛ける。
「うっ、重……」
傷だらけの体(俺も恐らく重傷)で担いだら思わず口から出てしまった。 そして飛びながらボロボロの港へ飛んでいくのでした。
俺が水中に居る間にラズによって壊れた港。 その近くに俺は着地する。 そして少し雑にラズを降ろす。 そして俺はあるスキルを使う。
「【召喚 黒猫さん】」
そう言うと俺の前に黒い魔法陣が現れ、その中心に黒猫さんが現れる。
『死んだかと思った』
そして黒猫さんが開口一番にそう言ってきた。
どうして黒猫さんがまだ生きてるのかというと理由は簡単。 水中でダークメガロドンと格闘中に黒猫さんがやられそうになっているのを見た俺がやられる寸前に召喚解除をしたのだ。 その事を思い出しながら黒猫さんを見ていると急に視界がぼやけ始める。
「……ん、何か眠くなってきた」
『ご主人様、魔力の使い過ぎと血の流しすぎ』
確かに今回はスキルを使いすぎた。 しかも魔力を回復するアイテム(今存在するのか不明だが)も使わずにだ。 それに普通の人が見たら救急車を呼ぶような血だらけの姿に今なっている。 そりゃあ意識も朦朧として来る訳だ。 それでも何とか意識を保ちながら【補助 アイテムボックス】を発動し、中から鎖を取り出し黒猫さんの前に置く。
『これは?』
「く、黒猫さん……それモンスターの捕獲に使う鎖だからそれを使ってラズをぐるぐるに巻いて……それならラズでも逃げられ無いと思うから」
『分かった』
そう言い猫の姿から銀髪黒コート少女の姿になる黒猫さん。 そして俺の鎖を手に握り、気絶しているラズの所へ向かい恐ろしい速さで何回か蹴りを交えながらぐるぐる巻きにしていく……あ、黒猫さん怒ってる?
「終わった」
「うん、ありがとう……」
鎖で巻いた後もしばらく蹴っていた黒猫さんが俺の所に寄ってくる。 その時
「……うっ」
「ご主人様?」
強い目眩がし、俺はその場に倒れ込む。 ……これじゃもう1人の魔族を倒しに行けないなぁ。 何て思いながらぼんやりと空を見る。 もう赤い面積も減って来た空。 俺の見ていた空に銀が混ざる。 黒猫さんが覗き込んでいるようだ。
「ご主人様、しばらく寝てて大丈夫」
「黒猫さん……でも」
「大丈夫」
俺の独り言の様な小さな声に黒猫さんは小さく微笑んでそう答えた。 黒猫さんが笑ったの初めて見た、可愛いなぁ……。 何て思いながらゆっくり目を閉じる。
「私とネイとガント達が何とかするから」
その言葉に何処か安心感を覚えながら俺は眠った。