第72話 おかしな魔族との戦い
視点変更 レイ→レオーナ
ヴェルズ帝国の中を騎士団は歩いていく。 ヴェルズ帝国の土地はやせ細っていて地面が剥き出しの場所が多い、時々雑草が生えている位しか自然が無い。
「……にしても生物の気配が無さすぎる」
私は馬に乗りながら呟く。 単純に植物が見当たらないだけじゃ無い。 最初に入った時も感じたがモンスターの気配が全くしない。 まるで何も存在しない様な雰囲気すら感じる。 聞こえる音も騎士達や冒険者達が発する音のみ。
「騎士団長殿」
「ん?」
私は後ろから声を掛けられ振り向く。 そこには金髪のヒューマン……バルテン・リヴィルが居た。
「何かな? バルテン殿」
「騎士団長殿、ここは本当にヴェルズ帝国なのでしょうか? こんな土地に人が暮らせるとは到底思えないのだが……後名前はバルテンで結構だ。 今の私はバルテン・リヴィルとしてでは無く、冒険者バルテンとしてここに居るので」
「そうか、ではバルテン。 私も同意だ。 何も無さすぎる。 木1つ見当たらない」
バルテンも同じ事を考えていたようだ。 私達は物1つ無い平坦な道を大人数で進行していく。
「団長! 前方に建築物が!」
ふと私の部下が声を上げる。 私もその声を聞き前方を意識して見るとうっすらと建物らしき物が見えた。
「取り敢えずあそこまで着いたら、一旦休憩にしよう」
「了解しました!」
部下がいやな空気を無理やり消そうとするかのように声を張り上げた。
「これは……何だ?」
部隊が建物の近くに到着した。 建物はレンガで作られたおり全体的に赤い。 窓の位置から考えて恐らく5階立て。 年季は感じるがしっかりとした建物なので戦後の初期に作られた建物だろう。 だがこの建物にも人の居る気配が無い。
「……取り敢えず中に数人で入り調べる。 それ以外の者は外で敵兵等を警戒してくれ」
「分かりました」
「では団長、誰が調査で入りましょうか?」
書記官が俺の隣に表れ話を進める。 調査のメンバーか……
「では私と書記官、そしてバルテン、後そこの君」
「え? は、はい!」
私が近くに居た騎士……戦いの前に怯えていた若い男を指差す。
「この4人で行こうと思う。 他の者は周囲の警戒を頼みたい」
「はい!」
「団長、気を付けて下さい」
「ああ」
部下の騎士達が私に声を掛けてくる。 それを見ていた書記官が私に耳打ちして来る。
「……やはり人望では団長に適いませんね」
「その話を引っ張って来るか……」
私は呆れながらも、いつも無表情の書記官にも茶目っ気が有ることに少し驚いていた。
視点変更 レオーナ→ネイ
「ええい! 【奥義 スピンバック】」
「なっ!? てめえ! また避けやがって!」
知らない人の家の中で魔族から攻撃を寸での所で体を回しながら避ける。 家には大きな穴が1つ……あそこからどうにかして逃げたいが、魔族がちょうどその穴を背にしているので辿り着けない。
「どうしよう……」
「おい、女」
私が悩んでいると、魔族の男が私に話し掛けて来る。 私はそれに思わず体が震えてしまう。 余りの驚きに私の尻尾が一気にそそり立つ。 ……ビビりすぎたような気がするけどさっきまで殺意しか感じなかった相手が私に話し掛けて来たのだ。 驚いても良いじゃない。
「え、え~……何?」
「何?じゃねえよ女。 さっきからずっと避けやがって。 さっさと俺に気持ち良く殺されろよ、おい」
……何言ってんのこの人。 なんて思っていると魔族の顔が見るからに不機嫌になっていく。
「何だその顔は?」
「何だ?じゃないです。 そんな事言われて「はい殺されます」って言う人居るわけ無いでしょ」
「うるせえな! 女ぁ!」
私が魔族に反論した所、魔族の男が逆ギレしつつ剣を私に振って来る。 私はそれを姿勢を低くし回避する。
「さっきからずっと逃げやがって! 援軍を待ってんのかも知れないが、その調子じゃあ援軍が来る前に俺にやられちまうぜ」
まあ、確かに相手の攻撃を全部ギリギリの所で避けるのは精神的に辛い。 いつもヒヤヒヤして心臓に悪い。 確かに援軍が来る前にやられるかも知れない……けれどもその事を相手の魔族に言われるとは。
「そうは言われても……私にはこういう戦い方した出来ないから、そこら辺は諦めなさい」
「ハッ! つまんねえ戦い方だな」
魔族の男が私の言葉を鼻で笑う。 まあ、大振りな攻撃が多い彼には私の戦い方は気に入らないようだ。 私のひたすら避けてコツコツ敵にダメージを与えるやり方は闘技大会で戦った相手からも文句を言われたことも有る。 けれどモンスターと戦うと長期戦になるのは当たり前だし、力の無い私が戦うにはこの戦い方しか無かった……そして冒険者になるしかなかった私には
「……これしかない」
「あん?」
「私にはこの戦い方しか無い。 それで何が悪いの!」
ナイフを持つ手に力を込め魔族の男を睨む。 それを見た魔族は
「ほう」
何故か感心していた。 ついさっきまで私に怒っていたのに
「良い目だな。 ついさっきまでまるで猫のようだったぞ? 相手の動きをじっと見て相手の隙を狙う猫。 だが今は……豹だ」
「……豹?」
思わず私は相手に聞き返してしまう。 一応敵なのに。
「そう豹だ。 相手の隙を見るだけじゃない、相手の隙を自分で作る。 猫は獲物の動きが止まるのをじっと待つが、豹は獲物を追いかけ回して弱らせて捕る」
まあ俺の印象はそんな感じだなっと言いながら魔族の男は話を続ける。
「つまんねえ戦い方だが避けて隙を待つのは良い戦い方だと思うぜ? けどな、てめえにはもっと良い戦い方が有るんじゃねえか?」
ま、その戦い方しかないならそれはそれで良いけどな。 っと魔族は私を真っ直ぐに見て独り言のように付け足す。
「豹……」
相手を追いかけ回して獲物を弱らせる。 それって相手を攻め続けて、隙を作れと?
「さて、長話は終わりだ。 ……何で獲物にこんな話をしちまったのかね~」
魔族の男はため息をつきながらそう呟き、家の床に突き刺していた大剣を引き抜き構え直す。 私は魔族の男の話のせいですっかり無くなった集中力を無理やり復活させる。
「……さて、今度こそ覚悟はいいか?女」
「まだまだ。 私は元気一杯だよ」
武器を構えた男を前に軽く挑発をする。 それを見た男は真っ黒な顔を歪めて笑っていた。 可笑しな奴だなぁっと私は思っていた。
「さあ、この俺を楽しませろよ?」
「……あなた私をさっさと倒したいのか、長く戦いのかどっちなんですか?」
「気が変わったんだよ。 おら!さっさと始めるぞ!」
……どうやらこの人は戦闘狂のようだ。 私とは合わなそう。
「うーん、早く援軍来ないかな……」
「てめえ! まだそんな事言ってるのかぁ!」
魔族の男が私の小声の要望に反応して叫んでいた。