第71話 義賊の戦い
視点変更 アリア→ネイ
「待てや、女ぁ!」
「うわぁ!」
黒い男が2m近い大剣を片手で私めがけて縦に振るって来たのを寸でで回避する。 男はさらに地面に刺さった剣を自分が飛ぶ力で抜き、私を狙って今度は横に剣を振るう。 私はそれを上手く屈みこんで避ける。 切る対象に当たらず大剣は振るわれ近くの家の壁にぶつかり
「うわあ……」
壁を見事に真っ二つにした。 そしてその後ゆっくり家の壁が崩れる。 それを見て私は思わず汗が体から出て来る。 この男はヤバい。
「ちょこまか逃げてんじゃねーよ女ぁ!」
「な、何で私だけ狙われてるのよぉ!」
「お前を一番最初にやるって決めたからだぁ!」
ヤバい、この男は色んなヤバい。 少し馬鹿だ。
(けどどうしよう……逃げるだけで結構疲れる。 冒険者ギルドに行けそうに無い……誰かに応援を呼ぼうかな)
何て考えもしたが頭の中で否定する。 逃げるだけならともかくこの男と互角に戦える冒険者は恐らく少ない……ボイルの港町に居るのはもっと少ないだろう。 ……なら
(呼びには行かず、レイちゃんが来るまで避け続ける!)
レイちゃんは恐らくここに居る冒険者の中では一番強い。 彼女は彼女で戦っているのだろうけど、彼女に頼るしかない。
(私の方がお姉さんなんだけどな……)
敵の出した黒い球体を近くに有った木箱の裏に隠れ避ける。 そして球体が木箱に当たった直後、魔族によって壁に穴が開いた家の中に身を低くして猫のように入る。 私が家に入った所で黒い球体が一気に収縮し、爆発する。 その爆風に私は軽く飛ばされるが、両手も利用して何とか着地する。
「どこに行こうと無駄だぁ! 女ぁ!」
魔族の声が聞こえるが無視して建物の中を見渡す。 中は瓦礫が散乱しているが食器がまだテーブルに置いてあり、中にスープの様な物が入っている。 そして
「!」
部屋の隅に人……おそらく女性が体を丸くしているのが目に入る。 そして中に巨大な男が入って来る。 マズいここであの男に攻撃されたら!
「見つけたぁ! 【奥義 邪天の舞】」
男の大剣から黒い煙が出て来て剣が赤く発光し始め、私に対して横に振るわれる。 女性は魔族の声にビクッと体が揺れるがそれだけのようだ。
「っく!?」
私はそれを後ろに飛ぶ事で回避する。 どうやら魔族は部屋に居る女性には気付いてない無いようだ。
「まだだぁ! おらぁ!」
私が女性の方に意識が少し向いていたが、魔族の声で意識が魔族に向く。 男は振るった大剣の勢いで大剣を自分の周りで振る。 そして黒い渦の様に回りながら私に向かって来る。
「うわっ! うわあ!」
……さっきから同じ台詞しか言えてない気がする。 って現実逃避をしかけるが意識をしっかり現実に戻し考える。 どうにかしてあの女の人を助けたいが、私が女性の方に行けば恐らくあの魔族に女の人が気付かれてしまうかも知れない。
「なら逃げる! 【奥義 エアーエスケープ】」
私は足に力を込めて思いっきり飛び上がる。
「何!?」
魔族の驚きの声が聞こえるが今は逃げる事に専念する。 天井に手を着け力を込め腕を伸ばす、その結果下に急速に落下する……が落地場所は地面じゃなく。
「ぐわっ!」
ぐるぐると回っていた魔族の男の頭に両足で見事着地する。 角に当たりそうになり冷や汗が出る。 男の頭の角にお尻が刺さって死ぬとか嫌な死に方だな……。
「く、くうぅ……」
頭に衝撃が走り、流石に痛かったのか魔族の体が前後左右に揺れ始めたので私は頭からジャンプで降りる。 予想以上に効いたようだ。 あ、これチャンスじゃね? とか思ったが下手に攻撃して相手を怒らせたら危なそうだ……今までも十分怒っていた様な気もするが取り敢えず相手が怯んでいる内に
「あの、そこのあなた?」
「ひっ!」
部屋の隅で丸くなって居る女性をどうにかする事にした。 ドワーフで見た目は20台位かな?
「取り敢えず早く逃げて。 魔族の意識がはっきりする前に」
「え、あ、はい!」
私は魔族の後ろに有る家に開いた穴を指差しながら彼女に伝える。 女性は魔族の姿に怯えるが首を縦に振ってくれた。 そしてややへっぴり腰になりながらも穴を通って逃げる……もっと手間取るかと思ったが意外にスムーズにいったな。
「おい……やりやがったなぁ? 女」
ちょうど女の人が逃げた頃、魔族の男の意識がハッキリとしたようだ。 2つの金色の目が私を睨む。 ……私も逃げて置けば良かったかな~っと後悔しながらも、ほとんど面積の無い服にくっついているポーチから手のひらサイズのナイフを取り出し構える。
「ほう……ようやくやる気になったか?」
「いや……まだまだ逃げる気満々だよ」
私は精一杯の勇気で口の端を上げた。
視点変更 ネイ→レイ
「【魔法 ファイアボール】」
「【魔法 ダークショット】」
海上で2つの球体がぶつかり相殺する。 その後、桟橋に居る黒猫さんの周囲に魔法陣が表れる。
『【魔法 ダークハンド】』
黒猫さんの魔法陣から黒い手が全部で20本以上表れ、ラズに向かって行く。
「この程度」
ラズは杖を上げ、黒い手が届く前に魔法陣を発生させスキルを使う。
「【魔法 ファイアバックショット】」
ラズの杖を中心に小さな炎の弾が飛んでいき、黒い手を次々に迎撃していく。 こっちから見るとまるで赤色だけの花火の様だ。 俺は迎撃しているラズに杖を向けさらにスキルを使う。
「【魔法 ライトレーザー】」
杖の先端から光が放出される。 ラズはそれを下に下降する事で回避する。
『また逃げられた』
「うーん、一発でも当たればいけるんだけどな……」
魔法を使えば迎撃され、相手が魔法を使うから迎撃する。 さっきからこんな撃ち合いが何回もされている。 攻撃の威力はラズより俺の方が断然強い、だが相手は四方八方に飛び回るため中々当たらない。
『私の魔法も当たらない』
「うーん……」
黒猫さんと会話しているとラズが黒い槍のような物が何本も飛ばしてくる。 俺はそれに対して透明な壁を張り、槍の進行を防ぐ。
「接近戦に持ち込もうかな……」
『決闘の時に使った魔法は? ザ・ジャッジって奴』
「あ、あれかー……」
黒猫さんの言葉に少し考える。 【魔法 ザ・ジャッジ】は種族がホーリィエルフで職業が光魔使いの時に覚える光魔使いの中で一番強いスキル。 攻撃範囲はどの【魔法】の中でも一番広く威力も高い……だが弱点も多い。 まず、このスキルの準備中自分の使うスキルは【召喚】以外全部無効になる。 分かり易く言うと盾が表れるスキルを使った後に【魔法 ザ・ジャッジ】の準備をすると盾が消えてしまうのだ。 つまり【魔法 ザ・ジャッジ】の準備中は他の誰かに守って貰う必要がある。 次に【魔法 ザ・ジャッジ】は発動するのに何故か特殊なポーズが必要になる。 他の【魔法】は余り特殊なポーズは指定されていない(杖の先端を相手に向ける等は有る)が【魔法 ザ・ジャッジ】には下ろしている右手をゆっくり上げ、空を指差すという独特なポーズをする必要が有る。 しかもそれを20秒掛けてゆっくりと……発動に時間が掛かるスキルは他にもあるがこのスキルは別の意味で勇気のいる【魔法】なのである。
「あ、あれは今回は使えない……んだよなぁ」
『そう』
黒猫さんは簡素な返事をする。 ごめん黒猫さん正直ここで【魔法 ザ・ジャッジ】をするとラズの絶好の的になるんだ。 なんて事を話し合っていると俺達を守っていた透明な壁にひびが入る。
「あ、やば! 黒猫さん逃げて」
『分かった』
私が一直線の桟橋の海の方に走ると黒猫さんは町の方に逃げた。 そして俺達が壁から離れたらちょうど槍が貫通する。 そして槍がそのまま桟橋に刺さる。
「……」
ら、ラズよりも俺の方が攻撃の威力は有る……けど。
「ラズの攻撃に当たったらヤバそうね……」
『そりゃそうでしょ』
俺を刺したバルテンや殴ったカウンターファントムも凄かった。 けどこの男はあいつ等よりも恐ろしいと感じていた。 正直、「平原の主」よりも……。
「……何とかしないと」
魔族は1人じゃないし、ラズが召喚したモンスターも居る。 しかもこの威力……【魔法 ザ・ジャッジ】以外の威力の高い【魔法】も準備してる間に攻撃されそうだな。
「どうする……」
槍によって分断され、崩れかけの桟橋に立っていたらラズがさらに黒い槍を俺に放ってくるのを見て俺はすかさず桟橋からジャンプし、スキルを使う。
「【補助 水上移動】」
海面に両足で着地するが、海中に足が入る事無く水面をそのまま走る。 そして水の上を走る俺にラズは空中から突っ込んできた。 ……俺に魔法を打っているだけじゃきりがないと思ったのだろうか?
「……ちょうど良い」
俺は白い杖を力を込めて握った。 接近戦に挑んでやろうじゃないか!