第70話 少女達のやる事
視点変更 クルルシュム→レイ
「……逃がしたか」
『口調変わってる』
現在ボイルの港町の桟橋。 ついさっきまで俺は【召喚】をしていたが、片方の魔族が町に向かって明らかにヤバい攻撃をしていたので【魔法 アクアハンド】で見事にガード。 さらにその魔族に【魔法 ライトレーザー】を使ったが避けられ町の中に行かせてしまった。
「流石に町に打つのは駄目だし……どうしよ」
『何か【召喚】したら?』
「やっぱりそうなるよね……」
流石に空中に居るもう片方を無視して行くわけには行かないしな……何て考えながら杖を握る。 俺の足下から魔法陣が出て来る。
「【召」
「これ以上はさせない」
いつの間にか真っ黒な男が目の前に居た。 手を手刀の形にしており、そこから黒い炎のような物が出ている。 それを空手チョップみたいに上から振り下ろして来る。
「うわっ!?」
【召喚】をキャンセルされ、手刀を済んでの所で回避する……その時俺の銀髪が掠って少し切れる。 その髪がすぐ黒い炎に燃える。 ……怖!超怖い!
「外したか……」
「あなた何時のまに……というか何者!?」
ついつい正義の味方に負ける前のモブ敵みたいな台詞を話す。 それに対して目の前に居る相手は鉄仮面の様に無表情な顔をしている。
「我々に気付いたのは貴様だな?」
「ん? まあ、そうね」
「貴様は鋭いな。 おそらく……この町では一番強いと見た」
「さあ、それはどうでしょう?」
俺は相手の言葉を適当に流しながら杖を強く握る。 それに対して敵も手から黒い炎が出て来てそれが真っ黒な杖になる……相手は魔法使いなようだ。
「まああなたが何者かはどうでもいいけど、町を襲った時点であなた達をひとまず倒す。 その後に色々聞くね」
「それは無理だ……何故ならこの町は貴様ごと全て壊すのだから!」
そう叫ぶと魔族の男の杖は黒い炎に纏われる。 そして俺の頭めがけて杖の先端が飛んでくる。
「黒猫さん!」
『【魔法 ダークホール】』
魔族が接近してきた時に上手く離れていた黒猫さんから魔法が放たれ、魔族の足下から黒い穴が現れる。 そこから手が出てきて標的を穴に沈めようとする。 その間に俺はスキルを発動しようと杖を構える。
「……こんなの無駄だ」
魔族はそう呟くと杖を強く握り、羽を思いっきり広げ……姿が瞬時に見えなくなる。 スキルの発動が出来てない内に逃げられた……。
「速!?」
魔族は真上に飛んだだけのようだ。 そして空中で杖を俺に向ける。 それを見て俺は慌ててスキルの準備をする。
「【魔法 カマイタチ】」
「【魔法 ブラックショット】」
俺の前に緑色の魔法陣が縦に出て来てギロチンの刃のような風が3つ飛んでいく。 そして相手の前にも黒い魔法陣が出て来て黒い大きな塊を俺に向けて放たれる。 1つ目の風の刃が相手の黒い塊にぶつかり黒い塊がボールのように凹みそのまま真っ二つに千切れる。 相手の魔族の顔はそれを見た時少し目を大きくし、驚いた様子。 そして残りの2枚の刃が相手に飛んでいく。
「当たれ!」
何て願ってみたが相手は難なく右に飛び避けられる。 ……相手との実力なら恐らくこっちが上なのだろう。 だが相手の方が戦い方は上手いな。 何て感じていると避けた相手の男は空中で止まり唐突に
「貴様、名は?」
と言って来た。 距離的にはちょっと遠めだが難なく聞き取れる。
「いきなり何?」
「貴様と……そこの黒いモンスター。 貴様等の実力我が思っている以上だった」
「ふんふん……で?」
『黒いモンスターって失礼な』
黒猫さんが俺の隣から異議を申しているが、それをおそらくわざと無視して魔族の男は話を続ける。
「なので貴様等の名を聞いておきたい。 そして本気で戦いたいと思う」
「つまりあなたのお眼鏡に適った……という事かな?」
「そう解釈してくれれば良い……まあ我は我々の中の位としては下位ではあるが」
お眼鏡に適うという言葉は目上の人に使う言葉だが自分はそんなに偉い人じゃないって事か? 分かりづらいな……。 にしても位が有るって事は魔族は何人も居る様だ。
「ま、どうでもいっか。 私はレイ」
『私は黒猫』
「何がしたいのか良く分からないけど。 取り敢えずあなた達はこの町を襲いに来たんだよね? ならあなた達は倒させて貰うよ」
俺は杖の先端を黒い男に向け宣言する。 この町には余り良い思い出は無いが、町を目の前で破壊されるのはごめん被る。 ミカ達も居るしな。
「……良いだろう。 我を前にそんなに意気込んだ相手は初めてだ。 我が名はラズ。 レイ、そして黒猫とやら、覚悟するが良い」
魔族の男……ラズはそう言うと杖を空に上げる。
「我と我のモンスター、そしてクルルシュム。 それを全て倒して見るが良い!」
「黒猫さん! 行くよ!」
『うん』
ラズが大きな声でそう叫び杖を俺に向けた。 俺も負けまいと黒猫さんに呼び掛ける。
俺と黒猫さんの魔族との戦いが始まった。
視点変更 レイ→アリア
「成る程な……魔族が」
今、私はガントさんの工房に居ます。 今居るのは昨日ガントさんがレイさんと「魔神」の話をした部屋。 話した内容は魔族が来たという事と魔族が【召喚】をしたという内容である。
「港の方が騒がしいと思ったらそんな事が有ったか……よし、分かった」
ガントさんが私が予想してたよりあっさりと承諾し、巨大なハンマーを肩に掛ける。
「俺の弟子達に町民の避難の準備をさせる。 お前は町民と一緒に避難しろ」
「あ、はい……ガントさん、私達の事信用しないって」
「お前が来たから行くんじゃない。 港の方の見張りからモンスターが複数近づいて来ているって報告が有ったんで準備をしていた。 そうしている内に港の方で火の玉が出たとか良く分からない報告が来ていてな……そんな時にお前が来て説明してくれたってだけだ」
「は、はあ……」
「分かったらさっさと避難しろ」
避難、まあレイさんが今は居ないし戦う力の無い私は逃げるのが一番良い。 私は仲間が頑張っているのに1人だけ逃げるような背徳感が有るが、居ても邪魔になるだけだしガントさんの言うとおりにする事にした。
「そうだ……あの獣人族はどうした?」
「え、ネイですか? ネイなら冒険者ギルドの方に行きましたけど」
「そうか……」
そう一言だけ良い何やら考えているガント。 そして小さく「もしもの時はあいつが居るしな……」と呟いていた。
「よし、お前はさっさと避難しろ。 この事は俺と俺の弟子が何とかしてやる」
「は、はい」
ガントさんがそう言い椅子から立ち上がった瞬間
「キャア!」
「港の方からから爆発か……」
外から大きな爆発音が発生し、部屋が大きく揺れる。 思わず私はその揺れのせいで尻餅をつく。
「その魔族が町に入って来たな……おい、急ぐぞ! お前ら!」
「はい!」
ガントさんが素早く工房で武器を準備していた弟子達に呼び掛けて部屋から出て行く。 そのガントさんの後を弟子の方々が着いていく。 それを尻餅ついたままの体制で見ていた私はレイさん達と工房に入った時に案内してくれた弟子の方が近寄って来る。
「あ、あなたは行かなくて良いんですか?」
「ええ、私は避難の誘導を命じられたので……お手をどうぞ」
「あ、すみません……」
弟子さんの手を利用し立ち上がる。
「町の外にモンスターの居ない洞窟が有りますので住民をそこまで避難させたいと思っております。 着いてきてください」
そう言われ私は工房の中を弟子さんの後ろに着いていく……私は何時までも誰かに頼る事しか出来ないのだろうか。私は背徳感からかふとそんな事を思った。 私には何も無い。 あるのは本で得た知識のみ。 力が無く、こういう時には役に立たない……私は目の前の弟子さんの大きな背中を見ながら自分の無能さを感じていた。
……けど
「あの!」
「はい? 何でしょうか?」
俺の呼び掛けに振り返る青年。
無能な私にも出来る事が有るかもしれない
「その、私にも仕事を手伝わせて下さい!」
「え、いえ、大丈夫です。 あなたにして貰うような事は……」
「何でもやります!」
レイさんの様に
「……では、住民の皆様を町の入り口まで誘導して貰えますか? その後は私達の指示に従いあなたも避難して下さい」
「はい、ありがとうございます!」
誰かの為に行動するという事が