第69話 港町での戦い
視点変更レイ→クルルシュム
「相手が気付いた」
「は?」
夕方の海の上、ラズがいきなり呟いた。 ライヴァン同盟とか言う土地にはまだ着いてい無いが……敵に気付かれた?
「どういう事だ。 ラズ」
「我々を見ている奴が居る。 気付かないのか?」
「気付かねーよ。 てめえのスキルに引っかかったんだろ。 どうせ」
ラズは周りの気配を察知するスキルを持っていた。 屋敷に居た時は何の為に持っていたのか理解できなかったが、そのスキルが役に立っている……何か俺が役に立たないみたいでムカつくな。
「で? 気づかれたのは良いがラズどうするんだよ」
「……今から攻める」
俺にそれだけ伝えるとラズは空中で静止する。 そして両手の平を胸の前でくっつける。 何をやるつもり何だか。
「良く分からないが……。 ラズ、俺はもうあの町に行って叩きのめしてるぞ。 良いな」
「ああ、分かった」
俺はラズの簡素な返事を聞き、まだ小さく見える町へ向かって全速力で飛ぶ。
「【召喚 ダークメガロドン】」
マックススピードになる前の俺の耳にラズのいつも小さい声が微かに聞こえた。
視点変更 クルルシュム→レイ
桟橋から見えていた2つの影の片方は空中で静止し、もう片方が勢いを増してこっちに飛んできた。
「こっちに気付いた!?」
「え、その魔族がですか?」
俺の言葉にアリアが間の抜け気味の声が返ってきた。 アリアはまだ状況が理解できてないようだ……俺も何が何だが良く分かっていないけど。 何て考えていると空中で静止していた方の魔族の近くに黒い魔法陣が出て来る。 そしてそこから黒い巨大な鮫が現れた。
「【召喚】!? 1人でやった!」
「れ、レイちゃん! どういう事!?」
俺の驚いた声を聞いてネイが慌てる……イカンイカン、相手との距離はまだ遠いんだ。 冷静にならないと。
「え、えっと……みんな! 魔族が2人こっちに来てる! しかも片方はモンスターを【召喚】した。 た、多分攻めてきたんじゃないかな?」
「多分って……」
「取り敢えずアリア! ガントにこの事を伝えに行って!」
「え、あ、はい。 取り敢えず魔族がやって来た事を伝えれば良いんですか?」
「うん!」
「私は冒険者ギルドの方に行ってくる! ミカ達なら何か出来るかも!」
アリアとネイがそれぞれ急ぎながら町の方へ走って行く。 それを眼で見送るとアイテムボックスから白いシンプルな形の杖……シャイニングワンドを取り出す。
『ご主人様、何するの?』
「取り敢えず、相手が召喚してきたからね。 私も召喚しようと思うの」
『そう』
簡素な返事をする黒猫さん。 俺はそれを聞いた後黒猫さんの方から魔族の居た方に向く。 ……さて、あの魔族が何したいのかよく分からないけど【召喚】をしたし、何か嫌な予感がする。
「取り敢えず【召喚】しておいて、何かして来たら一気に攻めるよ」
『了解』
黒猫さん横で声を出して返事をする。 いつもとは少し違う声に黒猫さんのやる気を感じる。 そう思いながら目を瞑り集中する。 そして一気に目を開け
「【召喚 リンクドルフィン】」
戦いの準備を始めた。
視点変更 レイ→クルルシュム
海に面している茶色の町が徐々に近づいて来る。 サイコロのような四角い家が集まった光景は俺の居た屋敷からじゃ見ないような町並み。 俺の屋敷は一面雪しか見れなかったしな。
「これが芸術的とか言う奴か? ハッ壊しがいが有りそうじゃねえか」
俺の手のひらがゆっくり熱くなる。 そして赤くなっている空にその手を上げ、ゆっくり町の方に降ろす。 ラズは誰かが気付いているとは言っていたが。 気付いている人は少ないようだな。
「さあ、ぶっ飛ばすぞ! 【魔法 マグマカノン】!」
俺の手から直径2m以上の巨大な溶岩を纏った岩が飛び出し、町に直進する。 さあ、怯えながら燃え尽きやがれ!
「……しかしこれで終わったらどうしようかね。 流石につまらな過ぎるし、第一ラズに何か言われそうだ」
我がモンスターを召喚したのに先に倒しやがって云々……とは言われそうだな。 あいつ根に持つタイプだし……何て思っていたがそんな考えは海から出て来た巨大な手に全て持って行かれた。
「あ、なんだありゃ?」
俺は思わずそう呟く。 そうしている間に夕日で赤くなっている巨大な手は俺の出した岩を上手く掴む。 そして俺の方に豪速球を投げてきた。
「っうお!?」
俺の方に寸分違わず飛んできた岩を俺は横に飛び回避する。 その手は岩を投げた後海に崩れるように消えて行く。 あれは水で出来ていたようだ。 恐らく【魔法】とか何だろうか一体誰が……。
『後ろから攻撃だ。 右に避けろ』
頭の中にラズの声が響く。 すると背中から強力な熱を感じ半分直感で右に避ける。 するとさっきまで居た場所を白い光の柱が通過していった。
「おい、ラズ! なんだありゃ! 当たってたら俺は消し炭だったぞ!」
『だろうな、恐らく我々に気づいた奴がやったのだろう。 これで他の奴らにも我々の事が知られた』
「……つまり相手は危険を知らせるのを第一に。 そのついで俺が倒せれば万々歳って奴か?」
『ああ、恐らく』
頭の中で響くラズの声、その内容に俺は徐々に怒りが沸いてくる。 俺を……ついでだと?
「ふっざけるなぁぁぁあ!」
『落ち着け、また来たぞ』
ラズの言葉通りまた光の柱が飛んでくるが楽々と回避する。 ついでに光の柱の飛んできた方を確認する。 そこには若い銀髪の女が緑色の独特な服を着て立っていて、手には白い杖。 こっちを見ている為、恐らくあいつが俺にさっきの柱を放ったのだろう。
「おい、ラズ犯人を見つけたぞ。 やっていいか?」
『駄目だ。 おそらく奴は遠距離のスキルが得意だ。 魔法が使えるとは言え近距離向きのお前とは距離があり相性が悪い。 お前は街に行って住人を襲って来い。 我が相手する』
「準備は済んだのか?」
『ああ、問題ない』
「ところで何体だ?」
俺はラズに質問をする。 ラズの事だから「さっさとやれ」とか言われるかと思いきや意外にも数を答える。
『30だ。 ダークメガロドンをな』
「はっ、そりゃ景気良いな。 大丈夫かよ? まだ魔力は残ってんのか?」
『問題ない』
【召喚】を30回もするとはね……俺には出来ねえ事をやってのけるな。 さて、これは俺も仕事をしないとラズに全部取られちまうな。
「じゃ、あの犯人頼むわ。 見た目は銀髪に緑色の服だ。 耳は長いしおそらくエルフ、捕り逃したら殺すからな」
『分かった』
俺はその返事を聞くと茶色の町に向かってスピードを出して滑空する。 その時、銀髪の女から光の柱を何発か打たれるが悠々と回避する。 そして町の中へ入って行く。 町は人がさっきの光の柱で何か起きてると感じたのか何人か海から遠ざかろうとする人が居たようだ。 無駄な事なのに忙しそうだな。 何て考えながら一番最初に殺す相手を上から見ながら考える。 ……そうだな
「まず最初はあの女にするか」
俺は逃げる人混みの中でも目立っている金髪で猫耳が目立つ女を狙うことにした。