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第68話 光る魚と赤い夕陽

「さて、依頼依頼……」


 俺は冒険者ギルドの掲示板に顔を近づけて見る。 そこには様々な依頼の内容を書かれた紙が貼ってあり、ここら辺はハイルズと大して変わらないようだ。


「けど依頼は選ばないとね」

「そうだね……」


 獣人族を嫌うドワーフの人は商売人に多そうだ。 そう思うとあのおじいさんかなり良い人だったんだな……何て思いながら依頼を探す。


「これなんてどうですかぁ?」


 勝手に依頼探しを手伝っているミカがある紙を指差しながらそう呟いた。


「「夜に有るものをオルアナ王国まで運搬を手伝って下さい。 報酬は弾みます」……あの、ミカさんかなり危なそうなんですか」

「別に大丈夫ですよぉ。 恐らく夜光魚を運ぶんですよ」

「あー……夜光魚なのか?」


 夜光魚とはその名の通り、夜に光っている魚で「マジック・テイル」じゃ廃プレイヤーにかなり好まれた魚だ。 夜、この魚を装備してダンジョンを歩いたり、フィールドを移動していると光に釣られてかモンスターがわんさか出てくるアイテムだ。 しかも倒せども倒せどもモンスターが続々やって来るというかなり恐ろしい仕様。 下手に装備するとモンスターに囲まれ、最終的にフルボッコにされたというプレイヤーは後を絶たない。 が廃プレイヤーにとっては中々良いレベルアップアイテムである。 ちなみに夜光魚を使ってレベルアップをした後に夜光魚を投げると周りに集まっているモンスターが一斉に投げた方向に目を向けるためその内に逃げるのが廃プレイヤーにとっての常識である。 ちなみに「マジック・テイル」では廃プレイヤー達によって高値で買い取られていた。 ついでに魚を装備しながら戦うというのはかなりシュールなので余りオススメしない。


「ああ、魚釣り久々にしたいな……」


 俺は夜光魚の事を思い出し、思わず呟いた。 魚釣りは釣り竿さえあれば誰でも出来る。 あれはレベルを問わず高価な魚が釣れたりするので人によっては大事な収入源になっていたりした。


「レイさん、魚釣りって楽しいんですか?」

「ああ、アリア魚釣りもしたことないんだ。 結構時間が掛かる時も有るけど、釣れたら瞬間の嬉しさが凄いんだよね」

「へ~……」


 アリアは真剣な様子で俺の話を聞いている。 アリアは色々な物に興味を持つお年頃のようだ。


「ねえ、2人共手が疎かになってるよ」

「あ、はーい」

「あ、すみません。 ネイ」


 ネイに言われもう一度依頼を探し始める俺達。 にしても夜光魚を夜に運搬って大変そうだなぁ……。










「うーん……護衛の依頼は有るけど」

「今日の依頼が無いねぇ」


 俺の言葉をミカが続ける。 護衛の依頼は有ると言われれば有る。 しかし護衛の依頼の全てが明日以降にしか無く、今日中にライヴァン同盟から出る事が出来る依頼が無い。


「これじゃまた野宿になっちゃうね……」

「そ、それはちょっと……」


 ネイの言葉にややうろたえるアリア。 まあ、野宿はあんまり薦められる物じゃないな。 ここら辺は夜寒いし。


「【召喚】してさっさと移動しようかな……」

『それは最終手段』


 俺の呟きに黒猫さんが反応する。 まあ、ジャイアントタートルの二の舞には成りたくないし、最終手段だな。


「じゃあ、明日まで私達の寮に居ますかぁ?」

「え、ミカ良いの?」

「ええ、そして明日護衛の依頼を1つ受けては如何ですかぁ?」


 ミカがさも当たり前のように頷く。 初対面の人を簡単に自分の家に入れるなんて……。 元の世界じゃ有り得ない位の気楽さ。


「って寮? ミカ、大丈夫なの? 他の人も居るんじゃない?」

「大丈夫ですよぉ。 居るのはみんなギルドで働いてる人達ですからぁ」

「いや、そこじゃないです」


 ミカの斜め上の答えにアリアが突っ込みを入れていた。










 その後、大まかな方針とミカや他の受付嬢と立ち話をしていたら日はもう夕方になっていた。 そして赤くなったボイルの港町を3人と1匹でのんびりと歩く。 行き先は海、俺が「まだ近くで見てないし1回見たい」と言ったらアリアとネイと黒猫さんがすんなり了承してくれた。


「海……確か水が塩辛いんですよね」

「うん、そうだよ」


 アリアが初めて海に行く子供みたいな事を言っている。 海は本当に初めてのようだ。 とは言っても俺も海に行くのは「マジック・テイル」以外では初めてだが。


「海には入りたかったなぁ……」

「レイちゃん、まだ言ってるの?」

「良いじゃん、言っても」

「まあ、良いけど……海ねえ」


 俺の後ろを歩いていたネイが少し考えるように呟く。 それに反応し俺が振り向く。


「ん?」


 後ろで誰かが隠れたような……。


『どうしたの?』

「いや、気のせいか」


 俺達を尾行なんてする理由が無いし、気のせいだな。










 港と言ってもそう大した物ではなく、木で作られた桟橋がボイルの港町から出ていてそこに船が止めてある。 予想よりも簡単な作りだった。 俺達は1つの桟橋の上に立ち、沈んでいく太陽を見た。 地平線に半分くらい沈みかけの太陽によって海は赤く成っており、波で太陽がゆらゆらと揺れていた。 それを見て動かなくなるアリアとネイ。 俺は元の世界でテレビを通して何度も見た光景だったが。 アリア達は初めて見たのだろう目を開けてじいっと見入っていた。 そんな2人を俺は見ていたが不意にアリアがぽつりと呟いた。


「綺麗……こんな光景本の中だけだと思っていました」

「そうだね、私も生で見るのは初めて」


 ネイとアリアがかなりロマンチックな光景になってる……と思いながら俺の右隣に居る黒猫さんの方を見る。 黒猫さんは太陽と真逆の方向を見ながら目を細めている。


「どうしたの? 黒猫さん」

『……ご主人様、あっちから何か来る』


 ん? 黒猫さん何言ってるの?


『ご主人様、遠くが見えるスキル有ったよね』

「え、うん【補助 ホークアイ】の事?」


 取り敢えず黒猫さんに言われたように【補助 ホークアイ】を使う。 遠くに黒い……鳥?みたいな影が2つあるな。 それをさらに拡大してみる。


「え! あれ!?」

「どうしたの? レイちゃん」


 俺の声にネイが振り向いてくる。 けど俺はそっちに目を向けず、黒い何かを良く観察する。 2つの黒い何かは翼の生えた人の形をしていた。 全身に金色の装飾のされた黒い鎧、そして顔に当たる部分は黒い角が頭から2つ出ている。 ……あれは


「魔族だ!」

「え? 魔族ですか!?」


 アリアが俺の声に思わず聞き返す。 ……どこかに消えたと言われている魔族。 それがいきなり現れた。 ……何か嫌なことが起こる。 俺の直感がそう叫んだ気がした。

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