第65話 迫る黒
「……ライヴァン同盟って本当に木が無いね。 岩ばっかりだよ」
「……ねえレイさん、わざわざ町の外に出る必要って有りましたか?」
日が傾いて来た夕暮れ位のとき、ボイルの港町の入り口付近。 俺達はそこで野宿の準備をしていた。
「逆にアリア、路上の上で寝たいの?」
「確かにそれも嫌ですけど……外だとモンスターに襲われるかも知れないじゃないですか」
「そこは大丈夫。 私達で見張りをするから」
「いや、そうじゃなくて……」
「町で起きたら周りに人だかりが出来ててみんな私達を見ている……」
「すみません、ここで良いです」
良かった。 アリアは納得してくれたようだ。 そう思い取り敢えず顔をネイの方に向ける。 ネイは相変わらず暗い顔をしていた。
「大丈夫?ネイ」
「うん……まあ大丈夫だよ」
耳と尻尾が垂れたままそう答える。
「けどレイちゃんとアリアちゃんもごめんね……わざわざ私の所為でにこんな事になって」
「いや、私達は大丈夫だって。 ね、ネイ」
「ええ、野宿は一回した事が有りますから」
にしてもネイは俺やアリアの心配ばっかりしてるな。 多分自分の事は言われ慣れてるけど他人を巻き込むのは余り慣れてないって感じかな。
「大丈夫、大丈夫……あ、みんなこれ上げる」
「何ですか、これ。 マント?」
俺はアリア達に黒い布を渡す。
「うん、マントだよ。 毛布代わりにでも使ってよ」
「あ、はい……って肌触りがかなり良いんですけど」
「そう? 大した物じゃないけど」
アリア達に渡したのは「闇隠れのマント」夜に装備していると敵に見つかりづらくなると言うCランク装備だ。 ランクも低いし俺はマントは余り装備しなかったのでアリア達の毛布代わりにした方が有用だろう。
「本当にごめんね。 レイちゃん……」
「良いってば」
しかしネイ、同じ言葉しか話さないな……謝ってばかりだし。 かなり落ち込んでいるようだ。
「取り敢えずオルアナ王国にどうやって行こう?」
「っていうか行っても話を聞いてもらえますかね?」
「無理じゃない? 流石に王様と話をするのは……それに今戦争中だし」
ネイが久々に謝罪以外の言葉を発する。 今まで後回しにしていた理由がそれだし、今も戦争中だから王様と会うのは厳しいだろう。
『ハイちゃんにまた紹介状を書いて貰うとかは?』
「しても良いけど……流石にハイちゃんもそこまで暇じゃないんじゃない? それにやっぱり戦争の事の方が優先順位高そうだよ」
「うーん……あ、そういえばレイちゃん達ってさ五師匠の人に何の話をしたの?」
「……え?」
「いや、レイちゃんがハイナ教国の女王様から紹介状を貰っていたのは分かったけど何の話題をしたのか知らなかったからね~」
そういえばネイにライヴァン同盟に行く目的を話していなかった。
「レイちゃんが五師匠の人との話し合いの後どんな話をしたのか聞こうと思ったけどタイミング逃しちゃって……」
「あ、じゃあえ~っとね……」
ネイと結構居たのに教えてなかったんだな……と思いながら俺はネイに「魔神」の事を教えるのだった。
「成る程成る程……そんな事が」
「ネイは信じるの? この話」
ネイは俺の話を聞いている時、静かに目を閉じて聞いていた。 そして目をゆっくり開いてこう言った。
「まあ、レイちゃんは嘘を言わないって分かってるしね。 それに嘘の為にわざわざ大会とかに出るわけ無いじゃん」
「あ、それもそうだね」
ネイが明るい口調で俺にそう言ってきた。 少し明るくなってきたな……良かった。
「ま、ここじゃあ出来ることは無いし、明日冒険者ギルドでオルアナ王国へ行ける内容の依頼を探そっか」
「レイさん、その後はどうするんですか?」
「後で考える!」
『……流石、ご主人様』
俺の背中からバーンと煙が出てきそうな位の勢いで言い切ると黒猫さんが呆れた感じの目で見てくる……やめて! 何か辛くなるからそんな目で見ないで!
視点変更 レイ→クルルシュム
「わざわざ攻め込まなくちゃいけないなんて……どういう事だよ。 ラズ」
「……知らん。 王がそう言ったのだ。我々は言うことを聞くしかない」
隣で飛んでいるラズが氷の様な表情で俺の言葉を返して来る。 相変わらずつまらない奴だな。 今下は初めて見る穏やかな海が赤く染まっている。 これは夕暮れといい太陽が沈む時に起きる現象らしい。 俺の住んでいた屋敷はいつも吹雪だったからこんな景色は初めて見る。
「にしても王はアレだろ? 「魔神」とか言う男に負けちまったんだろ? だったら俺達でも簡単に倒せるんじゃねーの?」
「無理だ。 「魔神」の力を見ていただろう。 あいつは王よりも遥かに強い。 それに王は戦争を生き残った数少ない者の1人だ。 我々のような者が何人集まろうと……」
「あーはいはい、分かりました。 分かりましたよ」
ラズは王の話になるとかなり長くなるので話を途中で切る。 しかし王の何処が良いんだか……あいつ何時も偉そうにしてるだけじゃないか。
「まあ良い、しかし何で海の上を通って行かなくちゃ行けないんだか……その、ライヴァン同盟とか言う所に」
「王からの命令だからだ」
「まあそうだけれどもよ……何か理由が無くちゃ不満だっての。 わざわざずっと飛び続けて翼が疲れてきたっつーの」
「知らん。 我々は王がそう命じた。 それだけを知っていればいい」
ラズの頭は何も考えてなくて軽そうだな等と思いながら俺達は空を飛び続ける。
「まあいいや王がどう理由があるか知らねえが、楽しみじゃねえか?」
「何がだ?」
「攻め込むのは面倒くさいが人を徹底的に殺せる事がだ! 今までは「魔神」が来るまでこんな事無かったしな!?」
「そうだな」
何時も無表情のラズの口が軽く吊り上がる。 何だこいつもやる気満々じゃねえか。




