第64話 暗くなるときだって有るんです……
「レイさん、本当に良かったんですか?」
「ん? ガントの事?」
工房から出て暫くボイルの港町を2人と1匹で歩く。
「あれで良いんじゃない? 何度も言ってるけど警告自体はしたんだし、信用するかしないかはガント次第だよ」
「まあ、レイさんがそれで良いなら良いですけど」
『で、これからどうするの?』
黒猫さんが俺に聞いてくる。 そうそう、昔の事は置いといて次の事を考えないとね。
「……うーん、どうしようかな」
「もう行ってない場所はオルアナ王国とヴェルズ帝国だけですね」
『あっちに行くの? 私死にたくないんだけど』
今、戦争中だしね。 積極的に行こうって気はしないな……。 何て思いながら歩いていると前に見覚えがある猫耳と猫尻尾を前で見かけた。
「あ、ネイだ」
「……ん? あ、レイちゃん」
ネイが俺の方に向き手を振って来る。 ……が少し元気が無いような気がする。
「どうしたの? 元気無いね」
「うーん……まあ、予想通りというかやっぱりというかね……」
「やっぱり?」
ネイの返事にアリアが首を傾げる。
「うん、獣人族には物を売らねー!って言う人が居てね。 分かってはいたけど落ち込んでいる所なんだよ」
「あ、そうだったんだ」
もしかしてライヴァン同盟に積極的に行こうとしなかったのはそれが理由? いや、でもハイナ教国には来てたし……ってあれは闘技大会が目的か。
「ごめん、ネイ。 何だか私のせいで嫌な思いさせた?」
「いやいや、私はお金を貰えたしレイちゃん達と居れて楽しかったよ。 そういえば五師匠との話し合いは?」
「え?あ、あーそれはね……」
うーん……ネイにガントの言っていた事を言うべきか言わないべきか……いや、「ガントが獣人族が嫌いらしくて……ダメだったよ♪」何て流石に言えない。
「あ、話し合い駄目だったの?」
「ん?まあね……ガントに「精霊の言う事なんて信じられるか」って言われちゃったよ」
実際そんな事言ってたし、間違いはない。
「ふーん……」
俺の言葉を聞いた後、ネイは俺を目を細くして軽く見る。 もしかして何か疑ってる?
「ねえ、ネイ?」
「ん?アリアちゃん何かな?」
俺がネイの視線に不安になっていると隣からアリアがネイに話しかけネイの視線が移る。
「私達はこれからどうしようか困っているので、ちょっと一緒に行動しませんか?」
「え?」
ネイがアリアの提案に少し驚いた目をする。 まあ、俺もアリアがそんな事を言うのに軽く驚いたけど。
「ネイはこれからオルアナ王国に行くんですよね」
「うん、多分そうなるよ」
「私達はこれから何処に行こうか迷ってますけど、多分オルアナ王国に行くと思うんで……どうですかね?」
「うーん……」
ネイがアリアの提案に迷っている。……って言うかアリア何言ってるの!? 俺は慌ててアリアに小声で話し掛ける。
「アリア、アリア」
「あ、レイさん何ですか?」
「いや、何ですか?じゃなくて。 アリア何勝手に決めてるの!?」
「あ……何というかネイが落ち込んでいるような気がしまして。 一緒に居た方がいいんじゃないかと思ってつい……」
ああ、アリアもネイが元気がない思っていたのか。
「じゃあいいや」
「良いんですか? レイさん」
「うん、どうせオルアナ王国に行くかも知れなかったしね」
「ねえレイちゃん、何コソコソ話してるの?」
「ん、いやこっちの話こっちの話」
「?」
『?』
俺の様子にネイと黒猫さんが2人で首を傾げていた……中々可愛い猫達だなぁ。
「じゃあ私もレイちゃんに着いていこうかな」
「どうぞどうぞ」
「はい、よろしくお願いします」
『うん』
ネイはアリアの提案にしばらく悩んでいたが、一緒に行動する事を決めたようだ。 まあ、俺としても次の目的地が決まったので良かった。
「じゃあ、明日から行動しようか。 とりあえず宿屋を探さないと」
「そうですね」
「うーん……宿屋取れるかなぁ……」
『ネイどういう事?』
もう今日はする事も無いのでとりあえず寝泊まりする場所を探そうとした時、ネイがポツリと呟いた。
「うーん、ここね。 獣人族への差別がちょっと有るからね」
「大丈夫だよ。 もしも取れなかったら、みんな野宿すれば良いしね」
「レイさん、女性3人でそれは……」
「アリアと最初の夜は草原で2人っきりだったのに」
「その時と今は状況が違います!」
「……あはは、まあレイちゃんとアリアちゃん。 取り敢えず宿屋探そうよ」
ネイが軽く笑いながら俺達を促す。 ネイの表情も明るくなったし良かった、良かった……まあ意識して喋ってた訳じゃないけど。 何て思いながら俺達は町を歩き始めた。
「悪いが獣人族が居るならお断りだ。泊めるわけにはイカン」
「えぇ……そんな~」
宿屋の受付でドワーフの店主らしき男にお断りされる。 しばらく歩き回ってやっと見つけた宿屋だったがネイを見た途端店主が明らかに拒否をして来た。
「そこを何とか……」
「ダメだダメだ! 獣人族が泊まっていたってだけで売上が下がっちまうんだ。 こっちはお断りだよ」
「レイさん、もう諦めて別の宿屋を探しましょう」
「……そうしよっか」
アリアにやや控えめに説得され俺は渋々引き下がり宿屋を出る。 にしても思ってた以上に獣人族って差別されてるんだな。 正直予想以上だ。
「……ごめんみんな」
「いやいや、別に大丈夫だよ」
『問題ない』
ネイが予想通りとはいえさっきの店主の様子を見てからさっきより落ち込んでいる様に見える。 猫耳も尻尾もだらんと垂れ下がって居て、顔も見るからに辛そうだった。
「私達は大したこと言われてないですから……それよりもネイ大丈夫ですか?」
「ああ……うん大丈夫だよ!大丈夫!」
必死に笑顔を作るネイ。 だが相変わらず耳と尻尾が垂れている。
「けどここ以外の宿屋見つかるかな……」
「取り敢えずまだ、探してみましょうよ」
アリアがやや声を明るくしているのが見て分かる。 誘拐されかけたアリアとしても種族が違うだけで差別されるというの知っていて何か来るものが有ったようだ。 俺達は全体的に暗く成りながら宿屋の前から移動をする。
結局、今日泊まる場所は見つからなかった。