第63話 ガントの工房にて
「え~っと、ここかな?」
「多分ここ……ですかね?」
俺達はボイルの港町の建物の前に立っている。 その建物はボイルの建物に有る他の建物と比べ、少し大きめだが特に特別って感じはしない。 町に居た人達に聞きながら来たんだから多分有ってるんだろうけど……。
「本当にここが五師匠の工房?」
「もっと大きいものかと思いましたよね」
「うんうん」
豪邸じゃないにしても大きな工房かと思った。
『けどこんな暑い中煙突から煙出てるしここが工房じゃない?』
「成る程……」
今ボイルの港町はそこそこ暑い。 日本で言えば初夏位の暑さだろうか? そんな時期に暖炉とかは使う訳ないし多分鍛冶の為なのだろう。
「よし、じゃあ扉をノックするよ……」
「はい……レイさん頼みます」
『頑張って』
……何だろう、この野球ボールが知らない人の家に入ったから、取りに行こうとする感じは。
「良し!」
どうでも良いことが頭をよぎりながら俺は扉を小さくノックする。 すると直ぐに「少し待って下さい」という若い男の声が聞こえてきた。 多分ガントの弟子だろう。
「お待たせしました。 師匠から話は聞いてあります。 私が案内しますのでついてきて下さい」
扉をノックしてから数分後。 中から絹らしき服を着た若いドワーフが出てくる。 師匠って言ってるし、やっぱりガントの弟子だろう。
「うん、よろしくね」
「よろしくお願いします」
「はい、ではこちらへ」
そう言い弟子らしきドワーフは俺達に背を向け歩き出す。 しかしガント程じゃないが筋肉の付いているドワーフが敬語とか使うと物凄い違和感が有るな……。
若いドワーフの後を歩いていると工房の仕事場らしき場所に入った。 中は鍛冶をする為の炉が幾つも並んでいて何人かのドワーフが炉の前に居る。 鍛冶をしているのだろう……にしても
「……暑い」
「そうですね……」
炉が幾つも置いてあり、中は火が焚かれている……そんな事を室内でされればかなり暑くなる。 「マジック・テイル」では温度の変化は殆どなかった。 精々「暖かい気がする」とか「寒い気がする」程度でそこまで大きな変化はしなかった。
「自分も【製作 鍛冶】をしていた時はこんなに暑い中やってたのかな……」
こっちの世界じゃ鍛冶はしたくないな~っと思いながら、俺はドワーフをの後ろを歩くのだった。
「おう、お前らやっと来たか」
俺達は炉が大量に有った仕事場らしき場所を抜け大きな部屋に通された。 そこは全体的に赤い壁で独特な模様の入った布等が飾られている。 そしてその部屋の真ん中には大きなソファーが1つ置いてありそこにガントが堂々と座っていた。
「……じゃあお前ら、俺にエルフの女王からの紹介状を見せてくれ」
「はい、これ」
ガントに言われたので、俺はハイちゃんからの紹介状をガントに手渡しで渡す。 ガントはそれを受け取り紙を開いて、中容を見る。 ……何だろうやってる事は普通なのにガントがやると緊張感が凄い。
「……成る程、つまりエルフの女王はお前たちから俺に大事な話があるから一度話を聞いてやってほしいという事か」
「ええ、私から大切な話が有ります」
俺がいつになく真面目な口調で話す。 こんな喋り方したのはレイに成って最初の方以来じゃないだろうか。 俺の様子に何か察したのかガントが俺の目を見る。
「良いだろう。 聞いてやる」
「……これが、私の言いたい事の全てです」
「……成る程な」
その後、俺はガントにハイちゃんにしたのとほぼ同じ内容を伝えた。
「つまり、この大陸に「魔神」が迫って来てるから警戒をしろと?」
「まあ、大体そんな感じです」
「……」
俺の話を聞いてから黙り始めるガント。 うーん、ハイちゃんの様にスラスラとは話が進まないな。
「……お前の言いたいことは分かった」
「うん」
「だが、今に比べて戦力を増やさない」
「……え?」
ガントの解答にアリアが思わず声を出した。 それに反応し、ガントがアリアを睨む。
「ひっ!?」
その鋭い視線にアリアが軽い悲鳴を上げる。 ……ちょっと可愛いと思ったが今はそんな事はどうでも良い。
「どうしてですか?」
「正直に言えば、俺は精霊を信じてない。 俺達にはそいつらの声が聞こえないしな」
「けど!」
「さらにお前らは獣人族を連れてきた。 俺は獣人族と絡む奴は余り信用しない」
「……は?」
ガントの言葉につい声が漏れる。 獣人族とこの話、一体何の関係があるんだ?
「お前らは若いから知らないだろうが、獣人族に良い奴なんて居ない。 あいつらは物を直ぐ盗むは、嘘をついたりするからな。 お前ら命を掛ける仲間くらいはキチンと考えろ」
「……でそれとこっちの話、何か関係有るの?」
「ああ、有る。 獣人族と組む奴なんてあいつらと同類か騙された奴しかいねえ。 悪いが獣人族に騙されるような奴の話なんて信頼する気はねえ」
ガントの言葉に俺は思わず歯に力が入る。 獣人族に差別が有るって言うのは本当の様だ。
「そういう事だ。 俺はお前らの話は聞くが、それを聞いてどうするのかは俺の自由だ。 お前らはさっさと帰りな」
「……ふざけるな」
「……あ?」
俺が呟いた言葉に反応してガントが睨んでくる……が頭に血が上った俺は全く気にならない。
「獣人族にだって真面目に生きている人は居る」
「だが獣人族は盗みを働く奴が多いのは事実だ」
「だからといって差別される理由にはならないでしょ!」
「そうだな、だが俺らは獣人族にどれだけの物を盗まれたか知ってるか? 俺らが精一杯作った武器が、アクセサリーが盗まれた。 獣人族に盗まれたお陰で店を畳んだ奴も居た。 そんな奴ら信用できるか」
「別に信用しなくても結構。 ……けど差別される必要の無い人だって居る。 そういう人も居ることは知って下さい」
「……そうか」
俺はガントの言葉を聞いた後、後ろに振り向き歩き出す。
「……行こうアリア、黒猫さん」
「……え? あ、はい」
『失敗?』
「いや、警告自体はしたし充分だよ」
『そう』
2人と1匹で工房の中を戻る。 工房から出るまでにドワーフとすれ違う度に睨まれる。
「やっぱり順調には進まないもんだね……」
「レイさん……」
俺が歩きながら溜め息をする。 ……まあ、良い警告自体はしたんだ。 俺の目的は達せられた。 そう考え出来るだけ他の事を考えないようにしながら、俺は工房から出て来た。