第62話 ハプニングと強さの理由
視点変更 ???→レイ
「よ~し、私はここでお別れしようかな」
現在ボイルの港町、俺達が昼食を食べ終えた頃ネイがそう独り言を言いながら立ち上がった。
「ねえ、ネイはこれからどうするの?」
「ん? ちょっと町を探索してから、オルアナ王国にでも行こうかな~って私は考えてるけど」
『そう』
「そう言うこと。 じゃあね~みんな」
呑気な口調でテーブルから離れていくネイ。 ライヴァン同盟に来たのに直ぐに移動しちゃうのか……やっぱりネイはライヴァン同盟に長く居たくないのか。 何て俺は思っていたら、俺は有ることを思い出した。
「ネイ」
「ん?」
冒険者ギルドの扉を開けようとしていたネイに俺は声を掛ける。
「何? レイちゃん」
「そういえばこれ、渡し忘れてたよ」
俺はそう言い、袋から白金貨を一枚取り出す。 それをアリアが見て「ああ、そういえば」と呟く。
「言ってましたね。 そんな事」
「え、ああ……まさか本当にくれるの?」
「もちろん!」
まあ、自分で言うと嫌な奴だがお金はあるし、お礼はしないとね。 俺はやや目をまん丸くして驚いているネイに白金貨を野球ボールの投げ方で投げる。 すると白金貨が真っ直ぐにネイの元に突っ込んで行き……
「うわっ!?」
「きゃあ!?」
ネイの後ろの扉に白金貨が思いっきり突き刺さり、大きな衝突音が響く。その後にネイと冒険者ギルドの受付嬢の悲鳴を上げる。 ……あれ?威力高過ぎじゃね?
「あの……レイちゃん、扉に刺さって抜けそうに無いんだけど」
「う、うわー……」
ネイが扉に刺さった白金貨を触りながら困ったように報告する。 その後、別の白金貨をネイに手渡し事は収まった。 まさか、自分の体がここまで人外だとは……物を投げるときはもうちょっと考えないとな。
「まあ、次こそは本当にじゃあね~」
「じゃあね~」
白金貨を貰ったネイが意気揚々と冒険者ギルドから去って行く。 あの人のスルースキルもかなり高いな。
『行っちゃったね』
「本当だね……」
しかしハイルズからライヴァン同盟まで来た仲間と別れるというのは結構寂しいもんだな……。
「では、私もそろそろ行きましょうかね」
「あ、記者さんも?」
俺が冒険者ギルドの扉を眺めていると、横にいた記者さんも立ち上がる。
「はい、面白いニュースは有りましたが、もっと記事を集めなくちゃいけませんから」
「面白いニュースですか?」
記者さんの言葉に首を傾げるアリア。 俺達は大したこと言ってないし、基本記者さんの言葉を聞いてただけだ。 何か言ったっけな?
「ついさっきの奴ですよ! 壁に白金貨が突き刺さってるなんてちょっとしたニュースですよ!」
「ああ……そっか」
確かにちょっとした珍事件だな……これ。
記者さんとも別れた後、俺達は冒険者ギルドから出て、ボイルの港町を探索していた。
「にしても何で港何だろ?」
「はい?」
俺がふと思った事を口にした時、アリアが首を傾げた。
「いや、港って魚を穫るために有るんじゃないの?」
「レイさん、港は船が停泊する場所ですよ?」
「あ、そうなんだ」
てっきり港って漁する場所だと思ってたけど違うんだね。
「けどここの港は何のために?」
『アルハラ島に行くためじゃない?』
「アルハラ島?」
黒猫さんがぼそっと言った言葉に俺は聞き返す。
「何それ?」
「レイさん、前にネイが言ってたじゃないですか。 火山がある、ライヴァン同盟にとっては重要な島」
「あ、ああ……言ってたね。 そんな事」
確かにそんな事言ってたかも知れない。
「その島に行くための港ね……納得」
「……で無駄話は置いといて、レイさんこの後どうするんですか?」
「無駄話で片付けちゃうんだ……」
土地の目的とか結構大事だと思うけどな……あ、でもまだ俺にはやらなくちゃいけないことあるな。
「そうだ、ガントの工房を探さなくちゃ」
ハイちゃんが話を聞いてくれる様にしてくれたんだ。 しっかりガントに伝えなくちゃ。
「さて、探すか」
「とりあえず聞き込みをしますか?」
「そうだね、私達だけで探したら迷っちゃうだろうしね」
「ですよね……」
アリアが何か思い出したのかテンションが少し下がる。
「まあ、大丈夫だってとりあえず道行く人に話し掛ければ大丈夫だって!」
「そうですよね! 今回はちゃんと人だって居ますしね!」
2人で意気込みながら歩き、その後ろを黒猫さんが着いてくる。 さて、ガントの工房を探すぞ~!
視点変更 レイ→彰
「ねえ、アキ。 黒猫さんってどんな感じ?」
「ああ、少し使ってみたがかなり強いな。 あいつが一匹居るだけで戦闘がかなり楽になる」
今、俺はアルナと小さな町を歩いていた。 今は大した用事も無く、精々2人で露天を見て回っている程度だ。
「へえ~、黒猫さんってやっぱり凄いんだ」
「ああ、苦労して捕まえた甲斐が有るってもんだ」
話だって大したことはしていない。 自分達の身の上話だったり、「マジック・テイル」にある噂話をする程度だ。
「そういえばアキ、最近ヒューマンマスターの人がカンストしたらしいよ」
「へえ……」
ヒューマンマスター……ヒューマンの最上位種である仙人に成った者だけが辿り着ける職業。 それをカンストしたのか。
「アキのお友達がカンストしたの何時だっけ?」
「……確かあいつが消える1週間前かな」
「あ、結構最近だったんだ」
アルナがやや驚いた声を上げる。
「そんなに驚く事か?」
「い、いやちょっと驚いちゃって……そういえば「経験の腕輪」をヒューマンマスターの人も持ってたみたいだね」
「じゃなきゃ最上級職をカンストはまだまだ出来ないだろ」
「経験の腕輪」……それはチャレンドラゴンのレアドロップアイテムの名前だった。 初めて手に入れたのは陸だった。 「経験の腕輪」の能力は倒したモンスターの経験値を1.2倍にするという物。 それでも十分良いアイテムだが、運営側の設定ミスによって大変なチートアイテムに成っていた。 経験値の増える量は1.2倍ではなく間違えて12倍に設定されていたのだ。 それを知ったプレイヤーの行動は様々だった。 チャレンドラゴンを倒しまくる者、運営を非難する者、「経験の腕輪」を使う人を非難する者とりあえずかなり荒れていた。 その後、それに気づいた運営が1ヶ月後に直したが「経験の腕輪」を使用したプレイヤーと未使用のプレイヤーには大きな壁が出来てしまった。
「ま、それもそうだね。 私には全職業カンスト何て夢のまた夢だもんね」
となりで体を伸ばしながらそう言うアルナを見ながら、俺は考えていた俺がもし「経験の腕輪」を手に入れていたらどうなっていたのかと……。 陸みたくレベルをカンスト出来たのかと……いや、多分出来なかった。 陸は本当にレベル上げや捕獲をする事しか考えていなかったから出来た事なんだ。 あそこまでは到底できない。
「あいつだからこそ出来た事だな」
「……? アキ、どうしたの?」
陸はやると決めたら終わるまで徹底的にやる奴だ。 それは現実でもゲームでもやることは何一つ変わらない。 なんと言うかおかしな奴だったんだな……っと俺は心の中で呆れていた。




