第59話 ボイルの港町での再開
ボイルの港町はハース村とは違った雰囲気がした。 まるでヨーロッパの港を全体的にオレンジ色にしたような感じだ。 まあ、また俺の偏見であるのだが。
「じゃあ、俺は弟子達の居る工房に戻る。 後で来てくれ」
「工房?」
「ああ、もしかして大きな屋敷に住んでるとでも思ったのか?」
「うん……まあ」
「残念ながら俺はそんなイメージしてるような生活はしてない」
ガントがそう言い俺達から足早に離れていった。 工房の場所位教えろよ……。 何て思っていると横からネイが話し掛けて来た。
「よし、じゃあ冒険者ギルドに行こっか」
「ああ、そうだね」
そしてネイ達と冒険者ギルドに向かう。 ……にしてもガントって人。 かなりぶっきらぼうな人だな。 まあ、そんな人も居るか。
「はい、依頼の完了を確認しました。 報酬金はこちらの200Gになります」
「うん、ありがとう!」
冒険者ギルドの受付嬢に依頼完了書を渡した後受付嬢から報酬を貰う。 ボイルの港町の冒険者ギルドはハイルズの冒険者ギルドに比べると小さめだが充分な広さの建物だ。 中にはテーブル椅子も有り雰囲気はハイルズのとそっくりだ。 今、俺達はその建物の中に居る。 アリアやネイ、黒猫さんはギルドの中にあるテーブルに腰掛けて待っている。 俺は受付嬢にお礼を言いながらそっちに向かっていった。
「お待たせ~」
『別に待ってない』
「……で、大丈夫でした?」
「うん、問題なく依頼完了だよ~」
俺はそう言いながらアリア達の前に銅貨を二枚置く。 それを見てネイが「おお~」っと感嘆の声を上げていた。
「レイちゃんやったじゃん!」
「いや、別に大したことしてないじゃん」
「まあまあ、とりあえず依頼の成功を祝ってパーッと盛り上がろうよ!」
「あ、いいね!それ!」
俺はネイの提案に普通に賛同する。 今回の依頼は結構大変だったし、ストレス解消に何かしたいと俺は思っていた所だ。
「じゃあ、何やる?」
「とりあえずここで料理を頼めるみたいだし、色々料理を食べない?」
「あ、いいね! ライヴァン同盟の料理をもっと食べたいし!」
「よ~し……すみませ~ん! 料理の注文頼めますか~?」
大体やる事が決まり、料理の注文を受付嬢に頼むネイ。 そしてその様子をアリアと黒猫さんがボーっと見ていた。
「あれ? 私達蚊帳の外ですね」
『あそこまでテンションが上がった二人を止めるのは多分無理』
「ほらほら~! アリアちゃんと黒猫さんは何食べる?」
「あ、私は……何にしましょうか……」
ネイがアリアと黒猫さんに話し掛けアリア達も話に加わる。 やっぱみんなで盛り上がらないとね。
「あ、あなたは」
「ん?」
俺達が料理を注文して待っていると冒険者ギルドの扉を誰かが開けて入ってきた。 そして、その入ってきた人は小さな声を上げた。 俺はその声に反応して顔をそっちに向けると、前に小さな女性が立っていてこっちを見ていた。 ……確かあの人は
「ガレーナニュースだっけ?」
「はい! その通り! ガレーナニュースです」
ハイルズで会い、新聞の取材を俺にしてきた小さなドワーフだった。
「レイ! こっちに来るまでに何か良いネタは有りましたか!?」
「いきなりだね……そういえばあなたは何で冒険者ギルドに来てるの? 冒険者なの?」
「え?私が冒険者ですか?」
自分が質問してたら相手に質問され、少しキョトンとするドワーフの女性。 そういえば彼女の名前何て言うんだろ? ガレーナニュースはきっと新聞社の名前だろうし……。
「あ、私は別に冒険者じゃないですよ。 ただ冒険者達に記事に出来そうな出来事が有ったかどうか聞いて回ってるだけです」
『大変そうだね』
「そうなんですよ~とっても大変なんですよ~。 話し掛けたらいきなりキレて私に殴りかかって来たり……愚痴を聞かされたり……」
「ほ、本当に大変ですね……」
ドワーフの記者が黒猫さんやアリアに愚痴を零し始める。 しかし何か事件か……
「あ、「平原の主」の事は知ってる?」
「「平原の主」……ああ、確か何者かに倒されたって話題に成ってましたね」
「平原の主」を倒したのはやっぱり話題に成ってるのか……。 俺がやったのがバレたら面倒くさく成りそうだし、黙っておくか。
「そうそうそれそれ、話題に成ってるんだ。 「平原の主」の事」
「まあね、何せ「平原の主」が通るときは商人とかが何時も大騒ぎしてましたからね~……あ、後「平原の主」に関する不思議な噂を知っていますか?」
「不思議な噂?」
ガレーナニュースの記者の言葉にアリアが聞き返す。 ちなみに黒猫さんやネイも記者の方を興味津々な様子で見ている。
「うん、もしかしたら「平原の主」は何かから逃げていたんじゃないかって噂なんですよ」
「? 「平原の主」が?」
確か平原の主ってかなり強いモンスター何だよな……それが逃げるって一体何が有ったんだろう……。 俺は「ま、噂ですけどね」と気楽に呟く記者を見ながら悩んでいた。