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第52話 男たちの思い

「えっと……撤退ですか?」

「ああ、撤退だ」


 朝、私達はヴェルズ帝国の村だった場所で一夜を過ごした。 そして今、部下達にこれからの行動を説明している。


「それは……何故?」

「むしろお前は少女達の話を聞いて首都に行きたいと思ったか?」

「い、いえ……」


 少女達の話……ヴェルズ帝国の首都の方から黒い何かが来たという話。 そしてその後、村の人がいきなり消えたという事実。 これはヴェルズ帝国の首都に何か有ったと見るのが賢明だ。


「ヴェルズ帝国に入ってから兵の姿どころか、人の姿も少女達以外見えない。 これは何か有ったと見るのが良いだろう」

「ここまで来てそれですか?」

「団長、本音は?」

「……少女達を連れて戦なんて出来ないだろう」

「少女達を本国まで連れて帰るんですか?」

「ああ」


 周りの部下達から苦笑いのような声が聞こえる。 いったい何なんだ……。


「何だ? お前たち、何かおかしいか?」

「いえ、団長はやっぱり女性に甘いな~っと」

「うんうん」


 1人の部下の言葉に他の部下がみんなで頷く。


「何だお前ら、女性に優しくするのは当たり前だろ?」

「いや、その中でも団長は人一倍です。 ルーブの町で会った銀髪のエルフの時だって……」

「そうそう、口調まで変わってたじゃないですか」

「……」


 ルーブの町……確かペガサスがオルアナ王国内に入って来たという事で騒いでいた時だな。 その時に出会った銀髪のエルフ……中々の美人で有ったのは覚えている。 頭は少し変だったが。


「あれとこれでは話が別だろう」

「そうですか~?」

「どういう事だ?」

「もしも発見されたのがヒューマンの男だったら態度も違ったんじゃないですか?」

「うっ……」


 ……多分あの少女達とは態度は違っていただろうな。 直に尋問をして居たかもしれないし、本国には連れて帰ろうとは思わなかっただろう。


「……まあいい。 早く撤退するぞ」

「団長!話題からも撤退しないで下さい!」

「団長!」

「団長!」

「お前ら……」


 部下達が笑いながら私に呼びかけてくる。 全く……上官をからかうとは……。


「……お前たち、この戦争が終わったら私と1対1の稽古をしてやろう」

「え、ちょ……それは……」

「俺達5対1でも団長に勝てないのに……」

「そんな軽口が叩けるんだ。 まだ元気だな早く準備をしろ」

「は、はい!」

「了解!」


 敬礼をし、直ぐに私の前から去っていく部下達。


「……ま、さっきの会話のおかげで恐怖心は減ったかな?」


 みんなヴェルズ帝国での怪現象にビクビクしていたみたいだし、これで緊張が解ければいいが……。










視点変更 レオーナ→レイ


 お風呂に入った次の日。 今、俺達はおじいちゃんの馬車に乗って移動中である。 結局中間地点に人は戻って来なかった。 ……まあ、「平原の主」が倒されたなんて知らないから当然だけど。


「そういえば黒猫さん、昨日おじいちゃんとどんな話してたの?」

『昔の話』


 ……昔の話?そういえば黒猫さんって80歳位だっけ。 おじいちゃんの年齢は知らないけど年が近いのかな?


「昔の話?」

『うん、昔の暮らしを懐かしんでた』

「懐かしんでたって……おばあちゃんみたいだね」


 黒猫さんの言葉にネイが反応する。それに対し黒猫さんは目を細めながら『失敬な』と呟く。


 『昔の自由な暮らしに戻りたいと思っただけ』

「……何かごめんなさい」


 黒猫さんは自由が好きなんだ……。


『ま、今も楽しいけど』

「ホント? 本当だよね?」

「レイさん、何をそんなに焦ってるんですか?」


 俺は意外と周りに迷惑を掛けたくないタイプなのだ。 ……ホントだよ?


「まあ、それはさておき黒猫さん」

『何?ご主人様』

「これからもよろしくね」

『いきなり何? 別に良いけど』


 黒猫さんが俺に変な人を見るような目を向けてくる。 まあ、いきなり言われたら何されるのか警戒するか……。


「今のうちに友情の再確認だよ。 ね?」

「いや、ね?って言われましても」

「レイちゃん、何時にも増して変な事言ってるね」


 俺の行動にアリアが「返答に困った」という表情を、ネイが何故か優しい目を俺に向けていた。


「やっぱりレイちゃんは妹として欲しいな……」

「ん?何か言った? ネイ」

「いや、何にも~」










視点変更 レイ→彰


「あ、アキ! 久しぶり!」

「久しぶりって……一週間前にも会っているんだが……」

「私はほぼ毎日ログインしてるの!」

「アルナって……大学生だよな?」

「良いじゃない! 辛い大学受験も終わり、今は素晴らしいキャンパスライフを送ってるんだから」


 赤いレンガが特徴的な町……アカシの町に俺とアルナは居た。 俺達がここに来た目的は近くのダンジョンに居る「ハーブガーディアン」というモンスターを討伐するため。 「ハーブガーディアン」とは昔の魔法使いが作ったと言われているゴーレムの一種らしい。 設定によると昔魔法使いが栽培していたハーブ等の薬草を守るために作られたゴーレムだから「ハーブガーディアン」……名前が単純だな。


「そういえばハーブガーディアンをなんで討伐したいんだ?」

「ふふふ……それはねハーブガーディアンを倒した時のアイテムが欲しいからさ!」

「普通な理由だな」


 どうやらアルナは「ハーブガーディアン」のドロップアイテムが欲しいようだ。 「ハーブガーディアン」のドロップアイテムには貴重な薬草が多いので、それが欲しいのだろう。


「ま、いいや。 さっさと行こうぜ」

「う~ん、やっぱアキまだまだ元気無いね」

「……まあな」


 まだ陸は見つかっていない。 最近は町で結構な騒ぎに成っている。 そして俺は何もしないで「マジック・テイル」をしている。 何も出来ない俺は親友失格なのかも知れないと俺は最近悩んでいる。


「……友達が心配なのは分かるよ。 けど警察や学校の人が動いて見つからないんだよ。 待つしかないよ」

「俺には待つ事しかできないのか……」

「アキ……」


 俺は悔しかった。 今まであいつの事を親友だと思っていたのが自分だけな気がして……。


「あ、アキ、あれって黒猫さんじゃない?」

「……え?」


 俺はアルナの言葉を聞き、顔を上げた。


「ほら!あそこ!あそこ!」

「……あ」


 アルナが指を赤いレンガの屋根に向けるそこには黒い小さなコートを着た黒い塊……黒猫さんらしき猫が居た。


「ねえ! あなたの友達って黒猫さんを捕獲してないんだよね?」

「え? ああ、まだしてないから欲しいってよく言ってたな」


 あいつはモンスターを捕獲するのが好きだったからな。 黒猫さんも欲しがっていた。 確か「変身したらレンみたい何だろうな……」とかよく分からない事を呟いていたので覚えている。


「じゃあ、黒猫さんを捕獲してさ!  友達が帰ってきた時に渡そうよ!  おかえりって言いながら!」

「アルナ……」


 アルナが俺に向かって笑顔で言った。


「だけど「ハーブガーディアン」は?」

「それはそれ! 黒猫さんを捕獲したら直ぐ行くよ!」

「……ああ」


 この時の俺は泣いていたかもしれない。 アルナが陸の事を考えてくれている事を知って、そして俺は決意した。


「そうだな……あいつの事を待ってやる。 あいつの事を世間が忘れても、あいつが自分の事を覚えて居なくても……ずっと待ってやる!」

「うん!その意気だよ!アキ」


 だから絶対どこかで生きていろよ! 俺が黒猫さんを渡してやるから!


「良し!捕まえるぞ!」

「うんうん、やっぱりアキはこうじゃないと」

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