第47話 槍投げはロマン
「良し、そろそろいけるかな?」
俺はスレイプニルでダッシュしながらもゆっくりと槍を水平にして頭と同じくらいの所に構える。 槍を使う職業……槍使いは接近戦最長のリーチが特徴の職業だ。 そのランサーの上位職には投げ槍士というのが有る。 名前通り槍を投げる事が出来る職業である。 「マジック・テイル」では「何故わざわざ槍を投げる必要が有るんだ……」など散々言われてたが、エルフマスターの俺は全職業のスキルが使えるので意外に重宝していた。 俺は状況によって槍を投げたり接近戦に持ち込んだりと多様な事が出来たのだ。 つまりエルフマスター凄い。
「……ハァ!」
俺は意気込んで槍を思いっきり投げる。 槍を生身で投げたのは初めてだが山なりに飛びながら黒い影に向かっていく。
「さあ……どうだ」
これで「平原の主」がやられなくても逃げてくれれば良いのだが……。
視点変更 レイ→ナル
目の前にいる巨大な獣がこちらに向かって突進して来る。 私と仲間のガインは何とかその突進を避ける。 私は息を切らしながらガインに話しかける。
「ねえ……ちゃんと中継地点まで着けたかな?」
「さあな……だが分かっているのはここで俺たちがやられちゃマズいってだけだ」
「そうね……」
私達は中継地点からハイナ教国に行く途中で「平原の主」に遭遇し、乗っていた馬車を一撃で壊された。 「平原の主」の行く先には中継地点が有る事に気がついた私達は負傷したナヤを中継地点に行かせた。 中継地点に行き危険を知らせるために。 そして出来れば私達と戦ってくれる人を呼ぶために。 そして私達は今ここで「平原の主」と闘っている……が。
「やっぱり……強い!」
「傷一つ付かないね……」
目の前にいる巨大な獣……「平原の主」は本当に堅い。 私の矢もガインの剣も全く刺さらない……まるでドラゴンの鱗のようだ。
「……来るぞ!」
「ッ!!」
私達が息を切らしながら愚痴を言っていると「平原の主」が体を震わせながら思いっきり走ってくる。 このモンスター動きは単調だが余りにも大きいのでいつも本気で走らないと逃げられず徐々に体力を削られていく。
「うわっ!?」
「ナル!?」
私が逃げようとした所コケてしまい。 草原に倒れ込む。
「ナル!」
「っ!?」
「平原の主」が思いっきり突進してきた所で目を閉じる……が。
「ガアアアアア!?」
「……へ?」
先ほどまで何一つ言わず攻撃してかた「平原の主」が悲鳴のように叫んでいる。 私が何事かと思い目を開けると
「……槍?」
「平原の主」の頭に金の槍が突き刺さっていた。
視点変更 ナル→レイ
「お、当たった?」
スレイプニルで走っていると段々と「平原の主」の姿が見えてきた。 「平原の主」は分かりやすく言うと巨大な毛むくじゃらのマンモスのようなモンスターだった……始めて見るけどどこかで見たような。
「あれって……ビッグホーン?」
ビッグホーン……「マジック・テイル」では「蒼穹の草原」というフィールドをずっと移動しているボスだ……けどあんなに大きくは無かったな。
「ああ、突伝変異ってそういうことか……」
何か角も俺が知っているビッグホーンよりデカく成ってるような……。 それにあんなに毛むくじゃらじゃ無かったし。
「まあ、いいやとりあえずあそこにいる人達を助けないと」
「平原の主」の近くに尻餅を着いてる弓を持った茶髪の人と近くに剣を持った黒髪の男が居る。 どうやら男が言っていた仲間だろう。 「平原の主」は俺の攻撃でかなり気が立っている様に見える。
「よし!行くよ!スレイプニル」
俺はとりあえず戦っている人達の救助に向かうのであった。
「大丈夫? 怪我はない?」
スレイプニルさん本当に速い。 さっき槍投げた所から結構直ぐに「平原の主」の目の前まで来た。 そして立ち上がっていた弓の人と剣を持った男が同時にこっちを見てくる。
「え……あなた!? 私達を助けに来たの!?」
「いや、援護しに来ただけ」
「まさか、中継地点から?」
「そうだけど何か?」
いやいや2人いっぺんに話しかけないでよ。 俺は聖徳太子じゃないし。
「ねえ、私の事よりも気が立っている「平原の主」の事考えない?」
「は、はい!」
「そうだな……あんたのことで頭がいっぱいになってた」
剣を持った男は苦笑しながら答えて弓を持っている人は変な声を発していた。 そういえば尻餅着いてた人よく見たら女の子だったのか……全然気がつかなかった。
「キタ!」
そんな事を考えていると「平原の主」が突っ込んでくる。 動きはやっぱりビッグホーンだが、めちゃくちゃでかいから山が向かって来るかのようでかなり怖いな。
「【魔法 ライトフォール】!!」
「うわ!」
「壁!?」
俺が使った魔法の壁に戦っていた2人は思わず声を出して驚いていた。 そこに「平原の主」は躊躇いもなく突進してくる。
「うお!一撃!?」
「平原の主」の突進は少し怯ませたが簡単に壁を壊す。 俺はそれを見てさらにスキルを使う。
「【魔法 プラントランス】!」
緑の地面から巨大な枝が出てくる。 「平原の主」はその枝に思い切って突っ込む、そして……
「うわ!へし折られた!」
「平原の主」の動きは止められたが枝は見事に折られてしまう。 ……う~ん杖持ってないからか威力がイマイチだな。
「え~っと……銀髪のお嬢さん? 名前は何て言うんだい?」
「はい?レイですよ?」
「……お前あの槍の持ち主か?」
黒髪の男が指を「平原の主」の頭の方に向ける。 そこに俺の槍が見事に突き刺さっている。
「ああ、あれ私のだよ」
「どうやって取るつもりだ?」
「……あ」
あれ、どうやって取るんだろ? 「マジック・テイル」なら一定時間経つと勝手に手に戻って来たんだが……。
「まあ、後で考えるよ」
「……お前すごい奴だな」
「いや~それ程でもあるよ」
「……あるんだ」
俺は【補助 アイテムボックス】を使い別の赤い槍を取り出しながら彼らと会話をする。 ……「平原の主」がさらに怒っているように見えるが俺の事を警戒してるのか攻撃をして来ない。
「ま、ささっとやっちゃいましょう」
「え、ちょ、ちょっとレイさん? まさか「平原の主」に勝つつもりですか」
俺が槍をクルクル回していると茶髪の少女が俺に話しかけてくる。 レイさんって呼び方アリアと被っちゃうな。
「もちろん、勝つ気満々だよ」
「無茶ですよ!……そんな事」
「無茶でもしなくちゃ。 中継地点には私の友達も居るしね」
私は槍をクルっと一回転させ、スッと構える。 ……中々格好良かったな今の。 何てどうでも言い事を考えていると。 「平原の主」が大きく前足を持ち上げる。 どうやらあっちもやる気満々な様だ。
「2人とも! いける?」
「ああ!俺はまだまだ大丈夫だ!」
「私もいけるよ」
俺の呼び声に2人とも元気に返してくる。 確かに問題はないようだ。
「グオオオオオ!」
「平原の主」は大声で叫びながら俺達の方へ突っ込んで来る。 さあ、勝負だ!