第32話 決勝前
視点変更 ダイナン→レイ
「決勝戦は……午後1時に集合か」
「頑張って下さいね」
『眠い……』
「黒猫さん、夜遅くまで起きてちゃだめだよ」
「レイさん、猫って普通夜活動するんじゃないんですか?」
決勝戦当日午前9時。 俺はアリアと黒猫さんと共に今宿屋の食堂で朝食を食べた後の何もしていない。 大会の決勝戦には午後0時30分くらいに出れば間に合う……その為この時間はする事が無くなってしまった。
「しかしバルテンが決勝戦でどう出るかだね」
「まあ、昨日カウンターファントムの能力をレイさんが知っているという事をバルテンさんは知りましたから作戦を替えてくるかも知れませんからね……」
『カウンターファントム以外の使い魔が来るかもしれないって事?』
「はい、バルテンさんがカウンターファントム以外に使い魔を持っていればあり得そうですけど……」
『作戦は決まっている。 いまさら変えるつもりはない』
「黒猫さん格好いい!」
黒猫さんは見た目が猫だから表情が読みづらいが、今彼女はどや顔をしているに違いない。
「あれ? あなた決勝戦に出る子よね」
「ん? ……ああ! 大会に出てた色々ときわどい人!」
「……あなた、人をどういう覚え方してるの?」
アリアや黒猫さんと話していた所に突如現れたのは闘技大会に出ていた「露出している面積が服の面積よりも大きい」と評判の(俺の中で)獣人族のきわどい金髪お姉さんだった。
「話をするのは初めてだよね」
「そうだね、私の名前はレイ。 あなたは?」
「ネイよ。 よろしく、レイちゃん……ところでそっちのエルフの女の子と使い魔の名前は?」
「アリアです」
『黒猫さん』
あ、自分でさん付けするんだ。 ネイという人は黒猫さんについては言及せず静かに微笑み。
「よろしくね、アリアちゃんと黒猫さんちゃん?」
「その発想は無かった……」
『黒猫さんでいい』
ネイっていう人は見た目と違って意外と礼儀正しい人だなぁ……もっと妖艶な人かと思っていたよ。
「え~とネイさん?」
「ネイでいいよ。 何か用?」
「何でそんなエロい服なの?」
「レイさん、直球……」
『アリアも聞きたかったんだ』
ネイさんの服はどっからどう見ても水着である。 上はビキニ以外には見えない……ブラジャーな訳ないしね。 そして下は大事な所に鎧のような物がついているだけで、それ以外にはブーツだけである……完全に水着じゃない所にさらにエロスを感じる俺であった。 ああまだ心は男なんだな……俺。
「レイちゃんとアリアちゃんが疑問にしているのは何でこんな服を着てるのかって?」
「そうそう! それが聞きたい!」
「レイさん食いつき過ぎ……」
だってこんなに礼儀正しい人がこんな服なのか気になる……ギャップ萌えかギャップ萌えなのか!?
「大した理由じゃないよ」
『それでも聞きたい』
「この服を着てるとね……下心丸出しの冒険者が一緒に仕事しようって誘って来るんだよ」
「やっぱり妖艶だった!」
ネイさん……今の話し方とかじゃ想像できないくらいのやり手だった!
「それで、トラブルは無かったんですか?」
「う~ん……何回か宿で押し倒されたりはしたけど……みんな股間を蹴ったら即KOでね……」
「宿屋でリアル夜の格闘試合!」
「レイさん朝から元気ですね……」
アリアはこういう話を聞いたのは初めてなのか顔を赤くしつつも俺に突っ込む。 俺はこんな時に限って男だった頃の精神が復活したのかテンションはうなぎ登りである。 ……大会前なのになんでこんなに緊張感ないんだろう……。
「ま、それは初心者の時の話でね。 この服はかなり軽いし動きやすくて、職業的に便利なんだよ」
『何の職業?』
「義賊だよ、義賊」
「あ~盗賊の上位職か」
義賊は素早さの高さと防御力の低さが特徴である盗賊の上位職であり、ステータス上昇系のスキルを多く憶える職業だ。 ちなみに盗賊のもう一つの上位職、忍者は義賊よりも攻撃系のスキルが多いのが特徴だ。 この話は彰からの受け売りであり俺は盗賊系の職業には詳しくない。 ……エルフは盗賊にはなれないからな。
「あ、私は用事があるからこれで……決勝じゃ、あの偉そうな奴を倒してね。 私あいつに一回も攻撃を与えられずに負けてちょっとイライラしてるから」
ネイさんはそういうと手を振りながら宿屋から出て行く。 ……しかしネイさんって
「なかなか刺激的な人だったね」
『猫みたいに自由な人だった』
「黒猫さんに言われるなら相当ですね」
「そろそろ出ないとマズいんじゃないですか?」
「大会初日みたいに急ぐのは勘弁だしね。そろそろ行こうか」
『了解』
ネイさんが出ていった後も宿屋の食堂で話し合いをしていたらいつの間にか0時25分になってしまったので宿屋から闘技場に出発する。 まだ時間は残っているが日本人の特徴である几帳面さに従って早めに出ることにした。 そして行き慣れた闘技場への道を歩いているとアリアが心配そうに話し掛けてくる。
「けど、レイさん……本当に作戦立てたんですか?」
「ん?まあちょっとは立てたよ」
『少しだけだけどね』
「……本当に大丈夫ですよね?」
『心配し過ぎ』
「大丈夫だよ、私を誰だと思っているの?」
「世間知らずで天然な美少女エルフ?」
「アリア……それって告白?」
「違います!、私のレイさんに対する印象です!」
『その印象に美少女が入るんだ』
やばい、アリアに褒められた……ちょっと嬉しい。
「そ、それはそうとして……レイさん、最近目線が増えてきましたね」
「目線?」
『こっちを見る人が増えた』
「……ああ、大会で有名になったのかな?」
アリアと黒猫さんに言われ気づいたが俺を笑顔で指差して母親に何か言うマナーは悪いが微笑ましい子供がいたり、俺に対して何か警戒するような眼をしている冒険者がいたり……何か凄く目立っているな。
「う~ん、目立つのは嫌いなんだけどな……」
「レイさん……冗談は寝てから行ってくださいね」
「ひどっ!本当だよ!」
『でも魔法とかガンガン使ってたじゃん』
「う、それはそうだけど……」
俺が陸だった頃は本当に目立つのが嫌いだったんだけど、レイになってからはかなり目立っていたようだ……ああ浮かれているんだな~俺。
「じゃあ、私は観客席に行きますから。 頑張って下さい」
「うん、行ってらっしゃーい」
『頑張る』
ハイルズでたくさんの人に見られているのに気付いてから約20分……ようやく闘技場の受付にたどり着いた。 アリアは観客席に、黒猫さんと俺は選手待ち合い室にむかうのでここで別れる。
「あれ?ダイナン?」
「お、お嬢さん方か」
選手待合室に向かう途中でダイナンに会った。 彼はどうやら昨日、俺が回復魔法で直した後も念の為にと病室に1日泊まったらしい……魔導隊に見張られながら。
「全く、冒険者だからって誰でも乱暴な奴ばっかだと思っているのかねぇ、魔導隊の奴らは」
「まあ、しょうがないんじゃない?ダイナンはエルフじゃないし」
「まあ、ハイナ教国だし、信用されないのは覚悟してたけどな」
『ダイナンって見た目怖いしね』
「ははは!それもそうだな!エルフにはこんな筋肉ムキムキな奴いないもんな!」
筋肉ムキムキなエルフ……会いたくないな~体が細いからこそエルフだよな。
「まあ、俺の事は放っておいて」
『放っておくんだ』
「そろそろ決勝戦始まるだろ? あの貴族に一発ぶん殴ってくれよ」
「了解!ダイナンの仇は取るよ!」
「俺はまだ死んでねえ!」
ダイナンと冗談交じりの会話をしていた所、選手待合室に到着したのでそこでダイナンと別れ部屋に入る。
「黒猫さん、準備出来てる?」
『もちろん』
「よし! じゃあ待とうか!」
『普通ここは「行こうか!」じゃない?』
黒猫さんに何か言われるけども俺は気にしない……だって実際待つんだし、しょうがないよね。
決勝戦が始まるまで、あと少し……。
「なんか締まり悪いね……」
『……?』
今回で決勝を終わらす筈がついつい書いてしまい次回に持ち越し……次回こそ大会を終わらせます……何とか




