第28話 女王様の初恋と騎士団長の義務
視点変更 彰→ハイナ2世
「やはり彼女は凄いですね」
「ですがここまで強いとは……」
今は大会二日目でレイさんの試合が終わったところだ。
「まさか、矢が拡散するとは……」
「本当に何でも出来ますね……あの、レイって言う冒険者」
今回の試合は開始早々銀髪のエルフの持っていた弓が白く輝き、矢を放ったと思った瞬間、矢が光の玉に成り大量に発射されその全てが相手に向かって飛んでいった。 相手の冒険者は驚いて動けないまま全弾命中したのだが相手が気絶するくらいの威力に抑えられていたようで相手は無傷だった。 自分のスキルを上手く調整して、相手に怪我をさせないようにするのは相手を殺すよりも難しいと聞いたことがある。 ……つまり彼女は相当な実力を持っているのだ。
「どうしてあんな方が今まで噂にならなかったのでしょうか?」
「彼女……レイというらしいのですが彼女が冒険者に登録したの本当に最近……大会の締め切りギリギリに登録したばかりのようです」
「まず登録をしていなかったから実力は分からないという事ですか……」
「ええ」
秘書は謎の銀髪冒険者に驚きつつも私の質問にはしっかり答える。 なかなか優秀な秘書だとこういう時に私は感じる。 どんな時でもちゃんとした答えを用意してくれていて返してくれる……頭が硬い所はあるがそういう所は彼女のいい所である。
「けど彼女と話せたら楽しそうですね」
「女王様が直々に呼び出せばいいのでは?」
「いえ、それでは彼女に迷惑が掛かってしまいます」
「そんなものでしょうか?」
秘書が首を傾げている。 ……女王という立場で命令すれば会う事は出来るだろう……しかしそれをすれば彼女は何事かときっと畏まってしまうだろう彼女は凄いと言えどエルフだ。 ハイナ教の信者の可能性が高い。
「……取り敢えず彼女が優勝してほしいですね」
「フフッ……そうですね」
「……?」
いつもは無表情で淡々としている私の秘書が少しだけ微笑んでいた。 どうしたのだろうか?
「どうかしましたか?」
「いえ……女王様がちょっと初恋したての少女に見えてしまって……」
「そ、そう見えましたんですか?」
「はい」
恋……私にとっては今まで無縁と言っても良い言葉だった。 オルアナ王国の貴族のような婚約者もいなければ、好きな人というのは精々友達レベルの話であった。 恋愛の知識なんて書籍くらいのものだ。
「最近は仕事以外の話は全部あのエルフの話しかしていませんよ? 気づかなかったんですか?」
「……全然気づかなかったです……」
私は私室以外では殆ど秘書である彼女や女官達、それに護衛の魔導隊の人達が着いてきている。 そのため大体の話し相手はいつも着いてきている人達と話すことが多い。 特に今は闘技大会のため仕事が意識して少なくされているため秘書達と会話をする時間が多くなっていた。 けれどその話の大半が銀髪のエルフに関することらしい。
「まあ頑張ってください、女王様」
「え、頑張るって何をですか?」
「そこは自分で考えてください」
「え……教えてくださいよ~」
私は珍しく良く喋る秘書と喋ったのであった。 ……私の秘書って意外とSでした。
視点変更 ハイナ2世→レオーナ
「このまま押し切れるぞ! 進め!」
私が叫んだ瞬間目の前から槍を持って突進してきたヴェルズ帝国の兵士の槍を真っ二つにした後兵士の首をレイピアで刺す。 兵士はしばらくびくびくと動くが私がレイピアを首から抜いたときにはもう動かなくなっていた。 今はオルアナ王国軍の方がやや優勢で帝国軍はゆっくりとだが後退し、ヴェルズ帝国に徐々に近づいていた。
「おい! 撤退していくぞ!」
「よっしゃあ!」
「……生き残れたぁ……」
目の前から走って逃げる帝国の兵を見て騎士達が安堵の息を吐く。 こちらが優勢だからと言って常に気を張っていたのだから無理も無い。 私もレイピアを鞘に納め座り込む。 すると横に書記官がやってくる。
「団長、帝国の国境が近いと言うことを王に伝えますが構いませんか?」
「ああ、そろそろ王の命令も聞きたい」
「かしこまりました」
書記官が恭しく頭を下げて立ち去る。 書記官は闘いはしないが後衛の指揮などもしていて疲れているはずだが息を乱さない辺り彼も騎士のプライドがあるのだろう。
「よし、今夜はここで泊まろう。 皆の者! 準備をせよ!」
「はっ!」
私の命令を聞き、部下達がゆっくりと動き出す。 皆疲れては居るが顔は活き活きしている。 テントなどの準備をしている部下達を見ていると隣に木箱持ちながら若い騎士がやってくる……戦争が始まるときに怯えていた若い奴だ。
「どうした? 何か報告があるのか?」
「い、いえ……団長さんの指揮、おみごとでした! おかげで生き残ることができました!」
「ああ、どうってことはない。 部下は一人でも生き残らなければこの戦いには勝つことが出来ない……出来るだけ部下が死なないようにするのは当たり前だ」
「団長……はい! では!失礼します!」
「ああ」
明るい顔で去って行く若い騎士を見送る。 彼のような若い将来有望な騎士がこの戦争に多く導入されている……出来るだけ彼らのようなすばらしい人材を将来にまで残さなければならない。 それはある意味私の義務なのかもしれない。