第26話 魔女っ子アリア登場!(魔法は使えません)
「レイさん……何でこの服なんですか?」
「ん?可愛いでしょ?」
「いや可愛いじゃなくて……」
今は朝、ハイルズの道を二人と一匹で散歩している。 二話くらいの時間を掛けて俺がアリアに着せた服は「暗黒魔女☆クラン」の装備を一式アリアに着せた。
「暗黒魔女☆クラン」とは俺の元の世界で一時期ブームになったアニメで「マジック・テイル」キャンペーンを行っていたので大まか内容は知っている。 異世界から誤って俺達の世界にやってきた少女クラン。 彼女の異世界に帰る方法を主人公とクランが探すという設定だけなら日曜午前にやってそうなアニメだ。 しかし小さい子供が観るにはグロとエロ両方の意味でPTA辺りから苦情が殺到しそうな内容になっている。 ……まあ大きいお友達には受けたらしい。
今アリアが着ているのは異常にスカートが短く袖がないゴスロリのような服。 そして人形が履いていそうな赤いリボンが付いている黒いサンダル、そして頭には黒いカチューシャ。 ちなみに黒いいかにも魔女な感じの尖り帽子もあり、どちらにしようか悩んだがカチューシャの方が似合ったのでカチューシャを着けてもらっている。 この装備一式は「マジック・テイル」では1ヶ月に一度あったイベントの一つで宝くじを買い、宝くじが当たればレア装備が貰えるという通称ぼったくり宝くじの3等賞がこの装備であり俺が当てた物だ……まあ一度も使わなかったけど。ちなみにこの宝くじが1回ごとに景品が代わるので一度当てた人も何回も宝くじを買ってしまう……何て恐ろしい連鎖だ!
「しかしレイさんって本当に色々な服持ってますね」
「まあ、持ってるだけなんだけどね」
『殆ど新品だった』
まあこの世界に来たのがつい最近だから殆ど新品で当たり前のような気がしなくもない。
「まあ、アリアみたいな美人に着てもらえるなら服も幸せだよ」
「褒めても何も出ませんよ」
『何だかんだ言ってアリアもノリノリだね』
「こんな綺麗な服は滅多に着れませんから……恥ずかしいけど」
アリアも何だかんだ言って気に入ってくれたので俺も頑張ったかいがあるぜ……けど女の子着替えを普通に手伝う男(中身は)って何なんだろうね、もう男としてのプライドは無くなっちゃったけどね……。 しかもそれに対して何とも思わなくなっちゃったよ……。
「うーむ……アリアは料理って出来る?」
「……どうしたんですか? ……まあ最低限は出来ますけど」
『何か作って欲しいの?』
「いや、甘い物が食べたい」
「甘いもの……お菓子とかですか?」
「全然食べてないからね~」
ハイルズの露天を眺めていて俺が一言アリアに聞く。 「マジック・テイル」ではアイテムに砂糖などの食材というアイテムが有り、スキルの一つ【製作 調理】で食材を合体させ料理を作ることが出来、使うと色々なステータスを上げたりすることが出来る。 ちなみに【製作】には他にも【建築】【錬金】【鍛冶】などが有り数は少ないが【奥義】や【魔法】とは違い種類は少ないがスキルにレベルが有りレベル1~レベル100までありレベルが上がれば作れる物の成功率が上がったり作れる物の数が増えたりする。 【製作】は「マジック・テイル」ではそんなに重要視せず【建築】だけがカンストしているだけで他はせいぜいレベル60くらいしかなかった。 ……まあそんな話はともかく今俺は甘い物が食べたい! ケーキが食べたい! 料理はおいしいけど甘い物を食べたくなるときはあるよね。
「ですが、砂糖はかなり高いですよ?高級食材ですから」
「え、マジで」
「はい、まず市場に出回りませんから。 私も砂糖を使った食べ物はハイルズから来た司祭さんとかが持ってきたお土産くらいでしか食べた事ないですよ」
「え、司祭ってお土産とか持ってくるの?」
司祭って教会とかでも偉い人だよね? そんな人が村の教会にお土産?
「ああ、お父さんとその司祭さんが昔からの親友らしいですから」
『司祭って事は大出世だね』
「むしろお父さんが全然出世出来てないとも……」
『アリア、お父さんだって頑張ってるんだからそういう事言わないの』
「猫になんか諭された!」
『猫じゃない黒猫さんだ!』
なにやらアリアと黒猫さんが口論を始めた……こうして見ると魔女と黒猫でなかなかお似合いな二人組だな。 ……ってそんな事はともかく
「アリアのお父さんはともかく私はケーキを食べたいの! どうしたらいいかな?」
「う~ん、ケーキは女王様の直属の料理人くらいしか作れないと思いますよ?」
『じゃあ、やっぱり大会を優勝するしかないね』
「……よし!優勝しよう!」
「……レイさん、本来の目的を忘れないでくださいね」
「大丈夫、大丈夫ちゃんと女王様に言いたいことは伝えるよ」
「しっかりしてくださいね……」
アリア……ちゃんと「魔神」の事を覚えていたのか……実は大会の事で頭がいっぱいでしたとは言えないな……。
「ねえ君」
「ん?」
夕方、街で露天や裏路地を散歩して店を回った後宿屋に帰ろうとしたところ後ろから知らない人に声を掛けられた。 とりあえず俺たちは振り向いた所そこには金髪で肩までかかる長い髪が特徴的なヒューマンらしき男が立っていた……その男は腰に剣を納めており長いマントを羽織っている。
「君は確か闘技大会に出ていたよね」
「私?まあ出てましたよ」
「とても強かったらしいね」
「そんなに私の事を見ていたのですか」
「まあね、君の格好は目立つじゃないか」
彼は微笑みながら俺と会話をしている彼は一見すると優しそうな男だが、彼の俺を見る目は全く笑っていない……それどころか周りをいつも見下してそうな目だ。
「とりあえず言っておくと君は僕に勝てないよ……たとえ使い魔を持っていてもね」
『私が何で話に出るの?』
黒猫さんがやや不機嫌そうに答える……黒猫さんもあの男の周りの雰囲気にやや不快感を覚えているようだ。
「君の動き……はっきり言ってまだ対人戦は初心者だよねレベルはそこそこ高いようだけど……それじゃあ僕には勝てない」
「あなたはそれを言うために私に声を掛けたの?」
俺はわざとらしく肩を上げて呆れた風にため息を着く。 それを見て目の前の男は目尻上げる。
「僕の名前はバルテン・リヴィル。 オルアナ王国の有名貴族リヴィル家の三男にしてAランクの冒険者だ。 君がこのまま勝ち進めば決勝で僕と闘う事になる……憶えておくと良いよ」
「そりゃ、どうも」
バルテンという男はマントを翻しながら俺たちの元から離れていった。
「うっわー面倒くさそうな男」
『けど、確かに強そうだった』
「そうだね……なんか雰囲気が違ってましたよあの人」
黒猫さんは冷静にアリアがやや怯えて俺の言葉に反応する。 しかしバルテン……これはまさかのライバル登場という奴か?