第18話 またまた決闘
俺はダッシュでドレスを着ているエルフに話しかけに行ったのだが……。
「お嬢様!危険です!」
「え?」
ヒューマンの執事がいきなり前に出てきてドレスを着たエルフの人のちょっと間の抜けた声が発せられた。
「え?何?私危険なの?」
「当たり前だ! いきなりお嬢様に走ってきて……アントシア卿に雇われたのだな?」
「は? アントシア卿?」
「とぼけても無駄だ!」
いきなりヒューマンの執事が意味不明な発言をしてきたと思ったらいきなり殴りかかってきた女の子に殴りかかってくるとかおかしくね? こっちはかよわい(見た目は)エルフの美少女(自称)だぜ?
「そりゃ!」
「な、何!?」
だがエルフマスターは伊達じゃない! 執事の腕をうまくつかみ一気に上手投げをする……こんな技「マジック・テイル」には無かったがレベル500というステータスのおかげで相手が男だろうと難なく空手の技が出来た。
「クッ……!」
「……とりあえず、話を聞いてくれますか?」
「アントシア卿に雇われた者に聞くことなどない!」
「……とりあえず話を聞きません? アントシア卿の使いとは思えません。」
「ですがお嬢様!」
『なになに? 何が起こったの?』
「さあ……?」
俺に追いついてきたアリアと黒猫が今の状況に首を傾げていた。
状況説明後
「すみません……まさか冒険者ギルドで依頼を受けてきてくれたとは……。」
「申し訳ございません私の執事が不届き者で……。」
数分後……とりあえず二人から話を聞いた所、大体の状況は掴めた。 目の前に居る執事曰くエルフのお嬢様はとりあえずオルアナ王国の貴族で執事はお嬢様に仕えているらしい。 そしてエルフのお嬢様にお見合いの話が出たのだがはっきり言うと相手があまりいい男じゃなかったらしい。 お嬢様曰く「自分の父親の自慢ばかりして何にも出来ない坊ちゃん」でお嬢様は遠慮したのだが、その男がしつこく訪問してくるのでエルフが中心の国……ハイナ教国に逃げてきたのだが、ここにもやってきたので追い払う為に決闘を申し込んだらしい。
お嬢様の方が勝ったら二度と関わらないこと、男の方が勝ったら婚約の話をお嬢様が受諾するとのこと。 それで決闘をしてくれる人を探していたのだが今日まで誰も依頼を受けてくれなかったのでしょうが無いから執事に出てもらおうかと思っていたらしい。
「ふむふむ……じゃあ私が出れば問題無しだね!」
「本当ですか!?」
「まあ、私をいとも簡単に倒したのですから実力はありますね。」
なんだこの執事偉そうだな。
「まあ、みなさんとりあえずここで待っていれば決闘の相手は来ますのでしばらく一緒に待ちましょうか。」
「は~い。」
「レイさん! もうちょっと気を引き締めとかないと……。」
『大丈夫でしょ? ご主人様だし……。』
とそのままお嬢様なエルフとしばらく喋りながら待つことになった。
「ふむふむ……つまり今のオルアナ王国は腐っているというのかね?」
「その通りです! いつもいつもヴェルズ帝国と戦争ばっかり! もっとハイナ教国やライヴァン同盟と親睦を深めるべきです!」
『何でこんな会話になった……。』
「……お嬢様は今の王国に不満があるそうなので。」
喋ること約5分最初はあのお菓子がおいしいという話をお嬢様の方から喋ってきていたのだがしばらくしてから急に政治の話になり、お父様のあそこがだらしがない、ここがダメだという話にいきなり変わっていた気づいたらオルアナ王国の不満を彼女はぶちまけていた。 本当にどうしてこうなった……。
「ちょっと? 聞いていますか?」
「あ、うん。 聞いてるよ?」
「まず、今の国王になった途端のヴェルズ帝国の批判から、貴族は所詮己の駒という発言から……自分の支持率が低いという事に気づいているのかしらあの王は。」
「あ、うん、どうだろうね~。」
はっきり言って分け分からない。 分かったのは今の国王がろくでもないっていう事ぐらいしかない。
この話をどう聞き流そうか考えていると、目の前に場所に不釣り合いな鎧を着たドワーフらしき毛むくじゃらの男と派手な青い服を着たヒューマンの男、そして燕尾服を着たヒューマンのじいさんが広場に現れた。
「げっ……アントシア卿。」
「あの人がですか?」
「ええ、お嬢様に何度も求婚をしてくる。 ストーカーまがいの坊ちゃんです。」
『明らかにナルシストだね……間違いない。』
「黒猫さん……そういう事は黙っとかないと。」
「アリアもそう思ってるんだ。」
アリア意外とひどいこと考えてるんだな~と内心思っているとあちらの集団が気づいたのかこっちに歩いてくるのだが派手な服着た男の歩き方がかなり自身満々だ。 歩き方でその人の性格が分かるっていうのは本当のようだ。
「御機嫌ようアントシア卿。 ちゃんと約束は守ってくれますか?」
「もちろんだよ、ちゃんとそっちも約束は守ってくれよ? それにしてもそちらは誰が決闘をするのかな? そちらの体の細い執事さんかな?」
アントシア卿の言葉を聞き、後ろのドワーフの男が豪快に笑う。 逆に執事の方はやや苦い顔をする。 あのドワーフに俺が勝てないとでも思ったのだろうか?
「いえ、私です。 私の相手はそちらのドワーフの方ですか?」
「おう! アントシア卿に依頼された! お嬢さんだからと言って手加減はしないぞ?」
「こちらこそ。 本気でいきますよ?」
俺たちのにらみ合いを見ていたアントシア卿がやれやれといった風に俺とお嬢様を見てくる。
「おいおい、まさかこのエルフの少女が決闘の相手かい? 言っておくけどこっちのはAランクの冒険者で一人でウルフを狩った事もあるぞ? 本当に大丈夫か?」
「ウルフってレベル20くらいしかないじゃない。 問題無いわ。」
アントシア卿をにらみ返しつつも反論をするがアントシア卿はただの空元気だと思っているようだった。
さて広場で勝手に決闘なんてしていいのかと思ったがどうやら決闘することはあらかじめ報告してあるようだ。 周りには魔導隊の人達が結界を張っていたり、審判をしたりするようだ。 他にも野次馬が集まってきている。 野次馬の中にはエルフの民間人らしき人もいれば、冒険者のような服装の人もいる。
「ルールを確認します! 降伏、もしくは気絶したほうが負け! さらに戦闘不可能と魔導隊の人に判断されても負け! それでいいですね?」
「おう! それでいいぞお嬢さん!」
俺のルール確認に対して相手のドワーフが返事を返す。 俺はヴァイオリンを構える。 魔導隊の人が結界を張っていて外には衝撃が来ないらしいが俺が本気出せば壊せそうで怖いので加減ができる精霊術士の装備で行く。
「では両者共準備はいいですね?」
「おう!」
「はい!」
「では、開始!」
魔導隊の審判の合図から決闘の火ぶたは落とされた。
視点変更 レイ→アリア
結界の外からレイさんを見る。 レイさんの装備は前の決闘の時と変わらず白いワンピースにヴァイオリン、そしてヒール付きのパンプスを履いている。 周りの野次馬にはあきらかにレイさんに闘う気があるのか?という目を向けている者もいる。
「ねえ……本当に勝つ気があるのかしら?」
「さあ……。」
依頼者の二人は心配そうにレイさんを眺めている……まあ、闘うのに武器がヴァイオリンなら当然の反応だろう。
「レイさんなら大丈夫じゃないですか?」
「そうは言いましても……。」
「では、開始!」
まだお嬢様は心配そうにしているが、決闘の合図が起きた。
レイさんに相手の冒険者が一気に近づく。 相手の冒険者は大きな体に斧といういかにもな姿だ。 レイさんは素早く弦を動かし、ヴェイオリンを弾き始める。
「あの人は本当にやる気があるのか?」
周りから馬鹿にする声が聞こえるが、レイさんは聞く耳を持たずに弾き続ける。 意外とちゃんと曲を弾いていて周りの野次馬には「良い曲だ……。」などと呟いている人もいるが相手の男が斧を振り上げたのを見て私は思わず叫んだ。
「レイさん!」
「問題無い!」
あ、ちゃんと返事してくれた。 ……それはそうと相手の男が斧を振り下ろすギリギリの所でステップを踏みながらかわす、その時も曲のテンポが全く変わらない。 その後すぐに相手の鎧に蹴りを入れたのだが、蹴った瞬間に相手の鎧にヒビが入り相手は吹っ飛び結界にぶつかる……レイさん高性能すぎない?しかもワンピースだからパンツが見えかけましたよレイさん。
「グッ!?」
「モンスターの突進をくらったみたいだ!」
結界を張っている魔導隊の人達が苦悶の声を上げる。 レイさんの蹴りでモンスターくらいって何者ですかレイさんは!? そして蹴ったレイさん本人は周りに白い球体がいくつか集まりながら一言発する。
「さあ、行くよ!」
その言葉と同時に白い球体からビームがいくつか飛ぶ。 前の決闘の時のも使った技だ相手の男は苦しみつつも急いでよけるが白い球体がいきなり爆発し、男がさらに吹っ飛ぶ。
「あれはまさか……精霊から力を借りて【魔法】を使っているのか!?」
野次馬のエルフがボソリと呟く。 そういえば前の決闘の後にそんな事言っていたような気がしなくもない。 周りがざわめく中、レイさんが男に対して聞く。
「降伏してくれれば、もう痛い目に遭わないで済むけど?」
「ふざけんなよ! お嬢さん!俺をなめるなああぁぁ!」
男が叫びながらまさしく、最後の力でレイさんに突っ込むがレイさんはため息をつきながら一言。
「そう、体がどうなっても知らないわよ?【魔法 フェアリーボム】」
レイさんが言った途端、レイさんの周りの白い球体が全部一気に輝き爆発する。
「うわぁ!」
「結界が壊れたぞ!」
「目がぁ! 目があぁ!」
「別に失明はしてないだろうから早く確認をしろ!」
魔導隊の人が混乱している中、レイさんの鈴のような声が一つ。
「あの~。 相手の方が気絶したので勝ちで良いですよね?」
爆発による煙の中汚れ一つないワンピースを着たレイさんが優雅に立っていた。