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第138話 物語の終わり

視点変更 「魔神」→レイ


 「魔神」に対しておかしいと思ったのは、かなり単純なものだ。 それは

「「魔神」は何故国一つを消しされるスキルが有るのにわざわざ接近戦を挑んだのか」という所だ。

 さっきの俺との戦いの時の接近戦。 あれは黒い霧を使って、かなり強力だった。

 けどその黒い霧は、少し前に魔王と俺を消すのに使ったものに比べると、手に纏うだけとかなり規模が小さい。

 これだけ情報があればもしかしたら……と思う。 「魔神」の出す黒い霧はかなりの魔力を消費する。 俺はそう結論付けた。

 だが、仮にも「魔神」だ。 黒い霧以外にもスキルが有るかもしれない。 俺はそう考え、ネイに言われたことを実践することにした。

 地面を走っていたが、途中から屋根の上に移動して適当な場所に陣取り、アイテムボックスを召喚する。 その後、アイテムボックスから大量の槍を取り出し、「魔神」が屋根の上に来た途端、思いっきり手に持った槍を投げる。

 つまり奇襲である。 これならば「魔神」が何らかのスキルで体を守る隙もなく、攻撃をする事が出来る。 若干卑怯な気もするが、こちらの体力を考えればなりふり構ってはいられない。


「ぐふっ」


 この奇襲は見事に上手くいき、俺が放った「神炎の槍」は「魔神」の腹に刺さり、彼の口から赤い血が漏れ出す。


 俺は手近な槍を引っこ抜き、更に投げつける。


「っ!舐めるな!」


 エルフマスターの力で投げられた槍は残像が見えるほどの速さで飛んでいくが、相手は不完全ながらも「魔神」。

 口から血を吐きながらも飛んできた槍を素手で受け止める。


「この程度では「僕」は」

「まだまだぁ!」


 俺は更に近くに刺さっている槍を引き抜く。 そして素早く投げ、近くの槍に手を伸ばし投げつける。

 手に槍が無くなればすぐ別の槍を引き抜き、更に投げる……「魔神」に居場所がばれたなら、後は「魔神」が防ぎきれないような連続攻撃をして、近づかれる前に倒す。 そのために俺は槍を何本も用意しておいたのだ。

 俺は体全身を踊るように動かし、槍を投げ、手近な槍を投げる。

 俺の槍は「魔神」に避けられ、何本かは弾かれ……何本かは「魔神」の細い体に突き刺さった。

 俺の周りに槍が無くなる頃には、男の体のあちこちを槍が貫通し、傷口から血が垂れ流しにされていた。


「……初めてだよ」


 「魔神」はそんな無惨な体を虚ろな目で眺めながら呟いた。


「こんなにも「僕」がやられるなんて……君なら「僕」を殺せそうだね」

「あなた、死にたがっているの?」


 俺は「魔神」の言葉に疑問を感じ、思わず尋ねた。俺は「魔神」が分からない。

 彼は俺を本気で殺そうとしているのは分かる。 だが、今の彼は自分を殺して欲しいような発言をしている。


「別におかしくは無い。 「僕」は「我」を蘇らせようとしているが、蘇るのを阻止して欲しいとも思っている。 「僕」の体の元々の影響かもね」


 彼は俺の問いに不気味な笑みを浮かべながら答えた。


「だから遠慮する事はない。 本気で「僕」を殺しにきなよ」


 「魔神」がそう呟いた瞬間


「何!?」


 空気が震えた。

 そして俺の視界に異変が起こる。 周囲に幻覚のように歪んで何かが見える。

 それはこの世界じゃ見たことは無いが、俺は知っている。 コンクリートで出来ていて、周りには透明なガラスが取り付けられた天高くそびえる柱。


「ビル……!?」


 そうビルだ。 何十階という高さのあるビルが蜃気楼のようにグニャグニャと揺れているのが見える。

 その異常な景色に俺が驚いていると「魔神」の小さな声がはっきりと聞こえた。


「そうしないと……世界ごと消えるよ?」










「別に「我」が意識してこうした訳じゃない。 「僕」が居る世界と別の世界。 2つの世界は近かったけど、ぶつかる事は無かった。 でも「我」が蘇ろうとしているせいで一気に距離が近付いちゃったみたいだね」

「このままだと……」

「もちろん、ぶつかり合ってアウト。 その後どうなるかは知らないけど、君にとっては良くない事が起こると思うよ」


 「魔神」はゆらゆらと揺れるビルを見ながら静かに話す。 「魔神」からしてみればどうでも良い事のようだ。 ただ、俺を挑発する為に言っている。 そんな事は直ぐ分かった。

 でも


「……決まっている」

「ん?」

「私のやることは決まってる」


 最初から


「あなたを倒す為に……私は」


 俺はアイテムボックスを素早く出し、中から一本の剣を出す。 もう槍は無い。 でも遠距離の武器を用意している内に「魔神」は攻撃してくるだろう。 ……なら一気に近づいて

 その剣を掴んだ瞬間、俺は屋根を跳躍する。 「魔神」の元へと真っ直ぐに。

 「魔神」は全身に槍が刺さっていたが、何とか右腕を動かし、近くに刺さっていた槍を体から引き抜く。


「そうだよ! それで良いんだよ!」


 その槍を空中を跳んでいる俺に対して突き上げる「魔神」。 俺はそれに対して前から迎え撃ち、槍の先端に剣の刃を当て、横に弾く。

 俺による傷のせいか「魔神」の力はかなり弱っている。 それでも「魔神」。 接近してきた俺に、黒い霧をまとった右腕で対抗する。 周囲の景色は更に歪み、ビルの他にも街路樹や車なんてものも見えてきた。 ……一刻も早く奴を倒さなくてはならない。

 俺たちは腕と剣をぶつけ合う。 雪の積もった建物の屋根に降り、剣を振り、拳が飛んでくる。 それをどちらかが避け、別の所に移動するのをどちらかが追いかける。

 まるで踊りのように2人は首都を飛び回る。 俺の耳には周りの音は何も聞こえない。 本当に無音なんかもしれなかったが、俺の振るう剣の金属音と「魔神」の拳の空気を打つしか聞こえない。

 互いに決定打を当てられずにただただ時間が経つ。 このままではいけない……でも焦るな。 焦って勝てる相手じゃ無い。

 そう心の中で念じながら剣を振るう。


「……なっ!?」


 俺のその一閃は「魔神」は体をひねりながら自分に刺さっている槍で受け止められた。 それによって一瞬動揺した。


「甘いね!」


 「魔神」はその一瞬を逃さなかった。 手が黒い光を纏い、俺の右の太ももをつぶしかねないほどの力で掴む。


「ぐっ!」


 その瞬間、俺の右足に焼きごてをされるような激痛が走り、触れられている部分が何かが入るような異物感に口から悲鳴が漏れる。


「さあ、これで終わりだ!」


 「魔神」の勝利を確信した声。 その声を聞いたとき、俺は剣を握り直した。


「私はまだ……終われない!」


 右手に握った剣をただただがむしゃらに振るう。 その剣は勢い良く「魔神」の肩に深々と刺さる。


「な、何!?」


 「魔神」の驚愕の声を聞きながら、肩に刺さった剣を更に振り下ろす。 剣は「魔神」の体を痛々しい音を立てながら、下まで一気に落ちていく。 その軌跡からはまるで「魔神」の闇の濃さを表すかのように大量の血を吐き出した。













「「僕」が負けた……か」


 「魔神」は右手を足から離し、呆然と呟いた。 俺の剣の切り口から血があふれ出し、口からも大量の血を吐き出すが、顔は穏やかだった。

 「魔神」の体はその後、体全身から黒い霧があふれ出す。


「「我」は復活出来なかった……でも満足だ」


 そう呟くと「魔神」は消えた。 いつの間にかビルの姿は影も形も無くなっていた。 まるで存在なんてしていなかったのように。

 あっけない終わりだった。 そう思った途端、先ほどのまどろみとは比べものにならない程の疲れに襲われる。

 体は膝から崩れ、雪の中に倒れる。


「レ……ん!レイさ…!」

「ア、リア?」


 真っ白な視界の中、誰かの声がする。 大事な人の声……アリアだ。

 彼女を悲しませたくない。 そう思い体に力を加えようとしたが、まるで鉛のように動かない。


「レ…さん! 起き……さい!」


 俺はアリアの声を聞き、心の中に暖かさを覚えながらゆっくりと目を閉じる。

 戦いは終わった。 これからはどうしようか?


 アリアと一緒にのんびりと過ごそうか ネイや黒猫さんとも一緒に新しい場所へ冒険をするのも良い


 ハイちゃんともお食事したいな あの生真面目なメイドさんとも話してみたい


 色々としたいこと一杯有る。


 でも大丈夫。 これからは、ずっと、みんなと……






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