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第137話 「魔神」との戦い

「……うっ」


 まるで目を開けるのすら重労働のようにゆっくりと目を開ける。

 地面は白い雪がうっすらと積もった固いレンガで、いまも空から降りてくる雪を力強く受け止めている。

 体は全身がだるい。 まるで寝過ぎて寝れなくなったが、起きるのが億劫……そんな状態だ。 先程までの心臓の痛みは何処にもない。


(そういえばさっきまでのマイナちゃんは……)


 あれは何だったんだろうか? 夢にしていてははっきりしすぎていた……なんて思いながら顔を上げる。

 その時、髪を結んでいたリボンが頭からスルリと落ちた。 もしかしたらマイナが死にかけだった俺を助けてくれたのかもしれない……。


「あーあ、魔王っていうのも直ぐに死んじゃったなあ」


 俺は微睡みのようにはっきりとしない意識であったが、何者かのやる気のない声で一気に意識が覚醒し、体が驚いた猫のように飛び起きる。

 その時、俺が纏っていた鎧がぶつかり合い金属音を発し、俺の事など微塵も興味がなかったであろう何かがこちらに振り向き、俺と目があった。 その何かは人の姿をしていた……ボサボサな髪は黒く。 若干高めの身長にしては細い体格。 黒く少し細い目の下には隈が出来ている。

 何というか「不健康そう」というのが姿を見たときの第一印象だった。

 だが、そんな貧弱そうな彼からは考えられないような、人に恐怖感を与えるには充分な位の殺気を体全身から放出していた。


「凄いね。 「我」の攻撃を受けてもそんなに元気なんて」

「あなたが、「魔神」?」

「うん、そんな風にも呼ばれているよ」


 「ま、名前なんてどうでもいいけどね」と腰に右手を掛けながら笑う「魔神」。 俺は彼には戦う気がないのかと訝しむが、彼のスキルを考え警戒する。


「どうして君はあんな状態で、「我」のスキルを受けたのに生きられているの?」


 そんな俺を知ってか知らずか、軽い調子で話しかけてくる「魔神」。


「……あなたは何のためにこんな事をしているの?」


 それに対して俺は彼の質問を完全に無視して質問を返す。


「何のため? 理由は簡単さ。 「我」を蘇らせるためだよ」

「我?」

「そう、「我」はね。 遥か昔の戦いで聖なる神とハイエルフに破れ、彼らによって封印されてしまった」

「ハイエルフに……」

「そう、でもある日。 この体の持ち主がね。 「我」が封印されている場所にわざわざ入って来たんだ」


 「そしてその体を「我」が奪い、「僕」が生まれた」そう青年は笑顔で言った。


「「我」は今は休眠中さ。 だから「我」の代わりに「僕」が、世界の魔力を集めているところなんだ」

「「魔神」を完全に目覚めさせる為の?」

「そう」


 そこで「魔神」は言葉を切り、まるで握手を求めるかのように手を前に出す。


「君は「僕」と「我」を倒しにきたのだろう?」

「ええ」

「なら、「僕」は君を倒すだけだ……例え君が弱っていても容赦はしない」


 言い終えた瞬間、「魔神」は武器を持たずにこちらに駆け寄って来る……とは言ってもその速さは人間とは思えない速さで一気にこちらへの距離を詰めてくる。

 今の俺の魔力や体力はマイナのおかげか分からないが回復していた。 だが、強力なスキルが使える程ではない。

 上手く考えて戦わなくては一気にやられるのは目に見えている。


「っ!」


 俺の前まで来た「魔神」の腕が黒い霧を纏いながら首に伸びる。

 俺はそれに対して、手が触れるギリギリのタイミングで後方にジャンプする。

 「魔神」は俺が避けた後も更に手を伸ばしてくるが、手に持っている剣を文字通り魔の手となっている「魔神」の腕を切る為に精一杯横に振る。


「む?」


 「魔神」は俺の斬撃が降りかかる瞬間、体を後ろに曲げブリッジのような体勢で回避され、空振りに終わる。 だが、この避け方のおかげで「魔神」の動きが止まる。

 俺はその隙を逃さず、ヴェルズ帝国の規則的な街の横道に短距離選手のようなフォームで入る。

 今出せる限りの力で走りながら俺は頭の中で考える……先程の動きからして「魔神」は強力なスキルが有るだけじゃなく、高い身体能力も有るみたいだ。

 国一つをも覆う黒い霧。 そして俺と同等、またはそれ以上の高い身体能力。流石は「魔神」。

 今は逃げられてはいるが、追いつかれて黒い霧を受ければ今度はひとたまりも無い。


「……あれ?」


 その時、おかしい事に気が付いた。 いや、ちょっと変という位で俺の勝手な想像かもしれない。 でも変だ。


「あっ」


 意識が別のことに集中していたせいか、走ってる途中に剣を落としてしまった。


『だから戦ってる途中にアイテムボックスから武器を出して持ち替えたらどうかな~なんて』


 その時、頭の中で声が響き渡る。 確か首都に突撃する前にネイが俺に言ったんだ。 俺がどんな武器を使ったらいいのか悩んでいた時に、ポロッと当たり前のような表情で


「そうだ!」


 俺は剣を拾い直してある作戦を思いつく。 俺の先ほどの違和感とネイの作戦。 この二つが有れば……もしかしたら!










視点変更 レイ→「魔神」


「……どこにいった?」


 「僕」は走り回りながら思わずつぶやく。 あのエルフの女の子が逃げたのを追いかけるのは難しくないと思っていた。 何故なら地面には彼女の足跡がはっきりと残っていたからだ。

 この街はうっすらとだが雪が積もっており、今も雪がさんさんと降って「僕」の肩にぶつかり、水となって「僕」の服に濡らしているのが少し気持ちいい。

 雪が地面に積もっているならば当然だが、その上を歩けば足跡が残る。

 現在、人は「我」のおかげで殆ど居ないので大半は誰にも踏まれていない真っ白な雪。 だから、「僕」から離れる足跡はちょっと追えば直ぐに見つかった。

 「僕」はその足跡を暫く追っていたが途中できれいさっぱり途切れていたのだ。

 今の「僕」は、その足跡が丁度途切れた場所で首を傾げながら立っていた。


「うーん……」


 少し考えたが分からない。 恐らく彼女がここで足跡を無くしたのには理由が有る。


 自分の位置を分からなくする為?……だが、何で?

 逃げる為?……それは無い。 彼女の目は「僕」に、「我」に勝つことを諦めてはいなかった。

 ならば簡単だ。 「僕」に勝つ為に何かしらの用意をしているのだろう。 待ち伏せか、体力を休めるために身を隠しているのか。 どちらにしても……


「「僕」のやることは1つだ」


 彼女の居場所を見つけ出し、倒す。 「僕」がするのはそれだけ。

 今の彼女の魔力はそこまで多くは無く、「我」を蘇らせるには物足りないかもしれない。

 けれども彼女を放置しておくのは良くない。 「僕」の直感がそう告げている。 ここで倒さなくては「我」が完全に復活しても、彼女に倒されるかもしれない。


「……そうか」


 足跡を眺めていると、「僕」はある事に気がつき斜め上を見上げる。

 そこにあるのは真っ白な家。 この街に着てから散々見て来た良くある家。


「彼女は上に登ったのか」


 おそらくあのエルフはここからジャンプして家の屋根に飛び乗ったのだろう。 自分の行方を誤魔化すために。

 それは時間稼ぎか、それとも……。


「まあいい」


 「僕」は空中に浮き、屋根の上を確認する。 そこには白い雪が積もっている所に足跡が残っている。

 ……やっぱりか。「 僕」は予想通りだったかことに思わず口元を緩ませる。


「さて、この足跡は……」


 「僕」は足跡を目で追い始めた瞬間、「僕」の耳に轟音を入る。 その音の向きに振り向いた瞬間


 遠くの建物の屋根に大量の槍が突き刺さっており、そこにあのエルフの姿を見かけ……

 「僕」の体に赤い長槍が勢い良く突き刺さった。

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