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第135話 魔王戦決着……と最後の敵

視点変更 アリア→レイ


 雪が降りしきる中、氷と溶岩、2つの陸に立つ2人。 俺たちの間の空気はまるでこの後起こる事に怯えるかのように震えている。

 俺は目の前にいる魔王の気配を感じながらも、体全身で魔力を溜め込み、次の一撃を放つ準備をしている。 相手も恐らく同じようなものだろう。

 俺がこれから放つ【魔法】はエルフマスターのレベルがカンストした時に得られる最後でエルフ最強の【魔法】。 恐らく相手も魔族最強のスキルで来るはずだ。

 だが俺は魔族最強のスキルを知らない。 俺が「マジック・テイル」で見た魔王の最高レベルは350。 最強のスキルはカンストしなければ使えないので、魔王のスキルはまだ誰も知らない。 目の前の魔王はそれを放ってくる。 どんな攻撃か分からないという不安……でも、いや、だからこそ!


「本気の一撃を、放つ!【魔法 精霊王召喚】」


 俺の言葉と共に背後からガラスがひび割れるような音が響き渡る。 俺が上を向いたとき空が割れ、ガラスのように空の一部が崩れ落ちる。 空にできた穴の中は暗く、何もない闇。

 その穴から黄金の光が漏れはじめ、巨大な人の腕が出て来る。 次に、這い出るように中から巨人の上半身が姿を現す。

 巨人は体の体格からして女性だということは分かる。 だが、体からは常に黄金の光が出ていて、顔はよく分からない。


「これが、貴様の切り札か!」


 魔王は光の巨人の姿を見て目に驚きと興奮を映し出し、口元を若干緩ませ、鋭く尖った歯を見せる。


「だが……わしのスキルも負けてはおらんぞ!【魔法 地獄門召喚】!」


 魔王が歓喜を声に混ぜながら、剣を地面に突き刺し、腹の底からスキルの名を叫ぶ。

 瞬間、地面が更に大きく揺れ始める。 そして、魔王の言葉を待ちわびていたかのように、地面から精霊王に負けない大きさの門が現れる。

 門の2つの柱には骸骨がそれぞれ1人ずついて、それと同じくらい巨大な鎌が禍々しく描かれている。 扉には大量の人が細かくはっきりと描かれている。 どの人も苦しみもがいていて、グロテスクという言葉を体現している。 簡単に言えば悪趣味な門、「これぞ地獄」というのをこれでもかと表現している。


「さあ……やるぞ。 エルフよ」


 私が現れた巨大建築を見ていると、魔王の声で意識が目の前に戻る。

 魔王は大剣を片手で高らかに持ち上げ、俺に対して一度笑いかける……そして


「さあ、いけええぇぇええ!」


 叫びと共に剣を振り下ろす。 その瞬間、門が開いた。










 門の中から出てきたのは、大量の鎖だった。

 鎖の先にはナイフや鎌、剣やチャクラムのような様々な刃物が付いている。

 そんな凶器の群れ一つ一つが全て、俺を狙って金属をわめき散らしながら飛んでくる。


「精霊王さん!」


 俺は門から来る地獄の使いが出る瞬間を見た後、直ぐに背後の女性に振り向きながら声を掛ける。

 俺が振り向いた時には精霊王は右手に巨大な黄金の弓を持ち、そして俺の方を静かに見ている……どうやら準備は万全な様だ。


「うん、思いっきりやって!」


 俺の言葉と同時に精霊王の左手に光が集まり、直ぐに真っ白な矢が現れる。 その後、彼女はこちらへ向かって来る凶器の群れを睨みつけ、矢を弦に掛け、勢い良く引き伸ばす。


『……ふっ!』


 そんなかけ声とともに、黄金の弓から矢が放たれた。

 純白の矢は飛びだった瞬間、形をなくし黄金のビームと化して地獄の門目掛けて飛び、立ちはだかる津波のような凶器達へ向かっていった。


「何っ!?」


 声を上げたのは魔王だった。

 精霊王の放った一撃に当たった鎖は皆、光の中前へ進もうと抵抗するが直ぐに塵となって消えていく。


「いっけぇ!」


 俺の叫びと共に、光の矢は更に速度を上げ、地獄の門を破壊しようと飛んでいく。


「……っ!成る程、貴様の一撃は一点に集中されている! わしのスキルのように大量の敵を攻撃は出来ないが、その分強力な威力を誇るのか!」


 「だが、まだ負けん!」 魔王の叫びと共に俺に食らいつこうと飛んでいた武器の群れが、急に引っ張られるように引き返し始める。

 そして、鎖を消滅させながら確実に進んでいた光線が途中で魔王の鎖と相殺する。


「!鎖を全て、私の一撃と相討ちにするために!?」


 魔王は鎖を攻撃から、光の矢を守る為に、光の矢の射線上に鎖を全て動かしたのだ。

 これにより、一番前の大量の鎖が消えた瞬間、また大量の鎖で防ぎ、その鎖が無くなった瞬間、新しい鎖が……という質より量の密集作戦。

 それにより俺の一撃は止められ、気を抜けば一瞬で形勢を逆転される気の抜けない状況になってしまった。


「……っ!」


 大量の魔力を消費したせいか視界がかすみ始める。 足が長い間走ったかのようにがくがくと震える。


「エルフマスターよ……貴様は良く戦った」


 魔王の声が聞こえる。 視界がぼやけていて姿が分からない。


「だが、貴様の魔力は尽きかけている……もう限界だ」

「」


 言い返そうとしたが、口が開かない。


「それ以上、魔力を込めれば命にもかかわる。 やめておけ、ただ苦しいだけだ」

「……そん、なの、変わら、ない」

「なに?」


 俺の口から声が、蛇口から水が零れるかのようにやっと発せられた。


「私が、あきら、めれば、「魔神」に、やられる」

「そうだな……だが、もう限界だ。 それならここで諦めて死んだ方がマシだろう。 潔く死ぬのもある種の美学だ」

「それは、お断り、だ!」


 俺が「否定したい」その一心で力一杯叫んだ瞬間、心臓辺りで焼けるような熱さを感じた。

 その瞬間、精霊王の体の光がいっそう輝き、光の矢は鎖の群れを再び、噛みちぎるように消し去りながら突き進み始める。


「なっ!」


 魔王が驚嘆している間に矢は異形の門の中へと飛び込む。

 一瞬、周囲に静寂が満ち、門の中から莫大が光と爆音が溢れ出し始める。 グロテスクな造形の門が4つに砕け、骸骨の柱は罅が入り、ゆっくりと倒れ始めた。 もう門からは鎖は、武器の群れは出ない。


勝負は決した。










 俺は門が…崩れる様子を見て安堵し、体全身の力が一気に抜ける。 その瞬間、先程の心臓の痛みに似た、体がまるで焼けるような痛みを強く発し始めた。


「うっ!?」

「エルフマスター!」


 俺が呻きながら氷の足場に倒れ込む。

 視界はかすんで見えないが、何者かが叫びながら駆け寄って来る足音が聞こえる。 恐らくは先程まで戦っていた魔王だろうか。

 敵同士なのに何故か不安感はなかった。


「エルフマスター! 最後のあれは生きるのに必要な魔力まで使ったのか!」

「ぁ……」


 どういうことか聞こうとしたが、声が全く出ない。

 体が熱い、全身から嫌な汗が湧き上がって来る。

 魔王と戦っていた時とは別の恐怖が体に入り込んで来る。


「ここまでになると今のわしでは……だがまだ手段は!」

「魔王、何をしているのかな?」


 魔王が何かしようとしているのが分かった。 だが、魔王が行動に移す前にその背後に新しい音が聞こえた。


「な、何故こちらに!」

「うん、とっても楽しそうな事をしていたみたいだから「われ」が興味を持ったんだ……でも残念。 もう終わっちゃったみたいだし、そっちの女の子はもう時間の問題かな?」

「……」


 俺の近くにいた魔王の気配が動き、金属音が近くに響く。 恐らく魔王が武器を構えたのだ。 対象は恐らく、新しくやって来た「何か」。


「どうしたの? 「ぼく」に剣なんか構えちゃって?」

「……申し訳有りません「魔神」様。 ですが、今の貴方は満足に黒い霧は出せない状態でしょう。 ならば今がチャンスかと」

「ふ~ん、そんなボロボロの状態で? 多分、君としてはそこの女の子に何とかして「われ」に勝って欲しいみたいだね。 君のせいでもう虫の息なのに」

「……」

「確かに今の「われ」の技は満足には使えないね。 でも……」


 「何か」は一旦言葉を切り、しばらく無邪気な子供のように笑っていた。 まるで、魔王の必死な姿を嘲笑っているように俺には聞こえた。


「君と女の子と巻き込む位の範囲は攻撃出来るよ」

「!!」


 「魔神」の言葉が終わった瞬間、巨大な轟音と共に、何かが飛び立つ音が聞こえた。


「あははは! もしかして、女の子に攻撃が当たらないように逃げるのかな? ざぁんねん! そんなのじゃ「われ」の攻撃からは逃げられない!」


 「魔神」は狂ったように笑っていた。 笑って笑って笑い続けていた。

 その時、おれの耳が新しい音を捉えた。 まるで水か何かが溢れ出るような不気味な音。 そして俺のかすんだ目でも、周りを黒い何かに囲まれ始めているのを感じた。

 まさかこれはクルルシュムが言ってた……。

 さっきまで熱かった体は途端に冷え、まるでまるで冷水のプールに入っているかのように体の感覚が無くなっていく。

 これが、死なのか……俺は、まだ死ねないのに……


 消えかけの意識の中。 頭の中はべったりとくっ付いたように笑い声が響いていた。

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