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第133話 アリアも頑張る!

視点変更 ネイ→アリア


「……アリアちゃん」

「……」


 私たちの前に現れた者……魔族は私たちをローブの下から赤い目で睨んでいる。 だが、「戦う」という気配のようなものは感じない。 どちらかといえば「観察」という表現の方が正しい気がする。

 魔族と出会って数秒間、まるで時が止まったかのように睨み合い、相手の魔族が口を開いた。


「貴様達はぁ……そうか、もうこんな所まで来たのかぁ」

「な、何の事!」


 医療班の女性が私よりも一歩前に出て、魔族に言葉を返す。 それを聞いた魔族は視線に彼女に向け、洞穴から反響するかのような不気味な声を発する。


「貴様達は見たところ戦う人ではなぁい。 ……恐らくはぁ、怪我などを治す後ろの人間だな? ならばそろそろここを落とすのも時間の問題ということだぁ……」

「……!」


 私はその言葉を聞き、今の状況を考える。 まず私たちが怪我をした兵士を治療していた場所は、敵が入りづらい様にジャイアントスパイダーの街の真ん中辺り。 私たちの居た建物が破壊された……という事は徐々にまずい状況に追い込まれてるという事。 まだレイさんが「魔神」に勝てていないのに……。


「いや」


 まだ弱気になっては駄目。 まだ他の魔族の姿は見えない。 なら騎士や魔導隊だって頑張ってる筈、なら、あの魔族からどうにか逃げる……もしくは


「何とか、倒す」

「ア、アリアちゃん?」


 私の言葉に隣からうろたえる声が重なる。 ……私たちは闘う事に関しては強いとは言えない、というか戦ったことすら無いような人間だ。 でも何とかしてここで奴を足止めしないと……。


「ふむ、何か考えているようだがぁ……」


 私がこれからの行動を考えているときに魔族が私たちに対して言葉を発する。


「悪いがぁ、我は女子供、どんな人間でも……同情、容赦はぁ、しなぁい」


 言い終えた時、何時の間にか彼の右手には赤い宝石のはめられた黒い杖が握られていた。 私はそれを見た瞬間、隣で状況が分かっていない彼女の手を握り、近くのジャイアントスパイダーの建物に、体が痛むのを気にせず駆け出す。 その時、視界の外から魔族が何やら呟いている声が聞こえ、「パチパチ」と不気味な音が聞こえてくる。


「アリアちゃん! 魔法が!」

「はい! とりあえず建物の中に……」


 私は彼女の手を握りながら必死で建物の中に入り、そのまま近くに有った階段を駆け上る。 そして2階に登りきった瞬間


「マァグゥマァ……カノン】!」


 というあの魔族特有の口調が聞こえ


「うわっ!」

「きゃっ!」


 1階とつながる階段から肌を溶かすような熱風が入ってきて、私達の体に襲いかかって来る。 私達は体勢を崩しながら壁に打ちつけられる……どうやら1階に向かって【魔法】を放って来たようだ。 けど壁にぶつかった衝撃で体が痛むだけで済んだのは幸運だと私は心の中で思う。


「だ、大丈夫ですか?」

「う、うん……大丈夫だよ。 アリアちゃんは?」

「私も大丈夫です」


 私達はそこまで大きな怪我はなかった、けど……


「ふむ、ここまでやれば……奴らは生きてはいられぇまい。 しかし、万が一もある……この建物は全てぇ、燃やすかぁ」


 下の階から魔族の声が漏れる。 ……彼はレイさんとは違って慎重な性格のようで、ここに居たら私たちも燃やされてしまいそうだ。


「あの……」

「な、何……アリアちゃん?」


 私は隣で怯えている女性に話しかける。 彼女は私の言葉を聞き、一瞬体をビクッと震え小声で言葉を返してくる。


「私が下に降りてあの魔族の目を引きます……だから、何とかして他の医療班と合流して下さい」

「え、だ、ダメだよ! それじゃアリアちゃんが!」

「大丈夫です」


 あわあわと落ち着きのない顔をしている彼女に私は安心するように出来る限り優しい声をかける。


「私はここで死ぬ気は全く有りません」

「で、でもどうやって……」


 彼女が慌てている内に私は1階に繋がる階段が有った穴に近寄り、縁に手をかける。


「本当に大丈夫です。 ですからあなたは私が注意を引いている内に頼みます!」


 私が彼女に笑顔を向け、一気に1階に繋がる穴の中に飛び込む。 1階は階段どころか何もかもが黒く煤けていて、そこに足から倒れるように着地する……足が痛い。 レイさんなら5階くらいからも笑顔で飛び降りそうだけど、私にはこれが精一杯。 そんな弱い存在だけど……


「娘、わざわざ出て来たかぁ……」


 私の目の前には巨大な魔族。 はっきり言って絶対に勝てない。 でも、私にも頑張らなくちゃいけない理由が有る。

 レイさんともう一回会う……私はその為に、頑張る。










「わざわざ出て来るとはなぁ、そのまま隠れていれば……燃えて楽にいけたがなぁ?」

「……私はまだ生きなくちゃいけないんです」

「そうかぁ」


 私の言葉を聞き、口を歪ます魔族。


「そういうのは好きだぁ。 何故ならぁ」


 そう言った後、奴の体の周りに赤い火の玉が浮き始める。


「挫折する姿を見るのがぁ……楽しいからだぁ!」


 奴が叫び、周りの火の玉が一斉に私に向かう。 火の玉は数は多いが、それ程速くは無い。 これは奴が手を抜いているのか、それとも遊んでいるのか……。 とりあえず私にはそんな事考えている暇はなく、火の玉1つ1つを建物の中で何とか避ける。


「まだまだぁ!」


 魔族は私が避けていた内に、更に火の玉を続けて放つ。


「っ!」


 私は建物の端から端に走り回って火の玉を避ける。 その次に黒い鞭のような攻撃が、私の足を目掛けて飛んでくる。 それを私が思いっきりジャンプして避けた時


『駄目!』


 私の頭でレイさんの声が響いた。 そして魔族の口が歪んだ。


「甘ぁい!」


 その言葉と共に巨大な黒い槍が飛んでいる私の腹を目掛けて飛んでくる。

 足の鞭は囮、本命は避けた先の狙いやすくなった私!


「覚悟は良いがぁ、実力がなぁい!」


 魔族の叫びと共に飛んでくる黒い槍。 それが私にぶつかる瞬間


「な、なぁにぃ!」


 私の胸元から何かが白く輝き、光の中から水が蛇の様に唸って現れ、魔族の槍を防いた。


「貴様ぁ、我の魔法ぉ……一体、なぁにをしたぁ!」


 魔族が叫んでいるが、私も思わぬ出来事に目が見開く。

 2人の驚きの間で唸っている水は徐々に人の形になり、髪の長い女性の姿になる。 水の女性は私にゆっくりと近付き、私に膝を着く。


「マスター、あなたの危機に従い参上しました」

「あ、あなたは?」


 私の言葉に水の美女は整った顔を上げ、微笑む。


「私はセイレーン。 水を司り、マスターを守護する者です」


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