第132話 空中戦
レオーナ→ネイ
風が背中に当たる。 それに恐怖と若干心地良さを感じながら私は真っ白な大地を落下していた。 空には巨大な骨の鳥が私などもう敵では無いかの如く、ジャイアントスパイダーへ向けて飛行を始めている。
……ここからどうする?私は頭の中で状況を整理しながら考える。 地上へ落ちれば→間違いなくアウト。 周りに掴めるような物→空中だしそんな物は無い。 空を飛ぶ→出来たらやってる!
見事なまでの八方塞がりに私は思わず頭を抱える。 ここから一体どうしたら……。
「……あれ?」
私がどうにかしようと体をばたつかせていると、視界の端に影が見えた。 ジャイアントスパイダーの方から羽ばたくように飛んでいる。 ……あれは鳥?だけど骨の怪鳥はまだ私からそんなに離れていない所に居る……なら、あれはジャイアントスパイダーから飛んできた、誰かが【召喚】したモンスター?
その鳥は徐々に私の元へ飛んでくる。 人1人は乗せられそうな大きさ……魔族にやられたのだろうか、体全身が裂傷して体毛の一部が火傷によって禿げている。 それなのに私だけを見て、堂々と飛んでいる。
あの鳥は、レイからジャイアントタートルに乗るときにレイちゃんから借りたモンスター。 確か名前は……そうだ!
「助けて! キングイーグル!」
私は名前を思い出した瞬間、思わず叫んだ。 その瞬間、鳥はまるで私の言葉が聞こえたかのように翼を折りたたみ、狙いを定めた鷹のように私の元へ一気降下をする。
だが、その間にも私は大地へと落ちていく。 徐々に白い大地が近くなっていく。 高さがみんな同じ白い建物がもうすぐそこだ。 早く、早く助けて!
建物の屋根にぶつかる直前、私は思わず目を閉じた。
落ちたときの衝撃に私は思わず声が口から漏れた。 だが、その後体に柔らかい触感を感じる……これは羽?
「というか生きてる!」
私は思わず寝ている体勢から素早く起きる。 私の下にあるのは所々赤いが柔らかそうな茶色い羽毛。 そして今、私の髪は強力な風によって揺れている……つまり、キングイーグルが私を助けるのに成功したみたいだ。
私は、私に踏んづけられているキングイーグルに思わず話しかける。
「だ、大丈夫? 痛かったでしょ?」
落下してきた私を受け止めたのだ。 私は軽いけど空中から落下する人間を受け止める衝撃は凄いに違いない。 私は軽いけど。
でもそんな不安をよそにキングイーグルは堂々と飛んでいる。 その姿を上から見て、私は意識を切り替えた。
「キングイーグル、大変だけどあの空中のモンスターを倒すの……手伝ってくれる?」
その返答は彼(彼女?)が高度を一気に上げたことでなされた。 どうやらまだやる気はあるみたいだ……なら、あのモンスターに勝たなくては。 これ以上ジャイアントスパイダーに魔族側の戦力が増えるのは避けたい。
「いくよ!」
一際強い風が私の頬を通り過ぎていった。 そして徐々に骨の怪鳥に近づいていく。 奴はまだこちらには気づいていないみたいだ。
リベンジ戦、今度は失敗しないよ!
ジャイアントスパイダーへ向かう怪鳥をキングイーグルは背後から追いかける。 速さはキングイーグルの方が早く徐々に距離を詰めていく。 そして怪鳥の尾まで手を伸ばせば届く、という所まで来た。
「とりあえず、私をあの骨の周りを飛んで邪魔をして! 私が何とか攻撃してみる!」
私の言葉を聞いた後、キングイーグルは怪鳥の骨を1回突き、巨大な骨の体と平行するように飛び始める。
怪鳥がそれにより、私たちの存在に気付き、体の向きを私に変え、顔を私の真っ正面に向ける。 その時、私の姿に一瞬驚いたような隙が出来た。
そこに私はバッグから取り出した、予備のナイフを投げ込む。 勢い良く放たれたそれは頭蓋骨の目を通り、骨の内側に突き刺さる。 ……けど、そんな事は一切気にせず私を食べようと舌とかは無い真っ白な嘴を開け、私を食べようと勢い良く突き出す。 キングイーグルはそれをすれすれで避け、今度は体を回転させながら怪鳥の横を飛び、大きく周りながら再び、怪鳥の横に付く。 まるで小鳥たちによる追いかけっこみたいだ。 とはいえいつも下から見ているほほえましい光景と違って私はキングイーグルの上で落ちないように耐えているのに精一杯な位、激しいものだが……。
そんな事を考えているとキングイーグルは急に体を垂直にし始めた。
「うわぁ!」
思わず、軽い悲鳴が私の口から出てしまうが、キングイーグルのちょい固めの羽毛を掴むことで事なきを得る。 そんな私を無視しながら、キングイーグルは私を怪鳥の肋骨へ……まるで攻撃しろと言わんばかりに近づける。
「……よし!」
私は意気込み、赤いナイフを取り出す。 そのナイフを握り、左腕一本で体を支えながら、骨に対して横に一閃を加える。
骨にぶつかった瞬間、ナイフからは火花が飛び散り、骨を赤く溶かして見事に突き刺さった。 そこから、私の腕力とキングイーグルの飛行能力を利用して、横に生えている肋骨達を溶かしまくり、怪鳥の胴体が片方だけ何も無いという不格好な姿にする。
流石の怪鳥もこれには怒ったのか、正反対に居る私の方を向こうと体をうねらせる。 そして翼を一度大きくはためかせ私の後ろを本気で追ってくる。
「キングイーグル、一旦離れて!」
私の言葉に従い、骨の塊から離れようとキングイーグルも翼をはためかせる。 速さはこちらの方が速いから徐々に距離が離れていく。 けどあんなに切られてもまだまだ普通に飛行している。 どうやったあのモンスターを倒せるのだろうか……。
私はそんな事を不安に思うが直ぐに頭を振り、嫌な考えを捨てる。
……あのモンスターが傷ついても動くなら、動かなくなるまで切りまくる!
「よし、ここで一気に急ターン! 後、上手くあの骨の下に入り込める?」
私は充分に距離を離した後、キングイーグルに指示する。 彼はその瞬間、一旦翼を折り畳み、私が上に乗っていることを思わせない早さで、見事に旋回してみせる。
巨大な怪鳥は私が何やら襲いかかってくると分かったのだろう。 嘴を開け私達を警戒するかの如く、無い目で睨みながら飛んでくる。
キングイーグルは正面から来る巨体に動じず、翼を広げ迎え撃つ。
そして2つの鳥が互いにぶつかりかねない所まで来た瞬間、キングイーグルがギリギリで下に避ける。
「良し、これなら!」
完璧な動きで私の指示に従ってくれた事に感謝しながら、ナイフを下から骨の嘴に容赦なく突く。 肋骨の時と同じようにナイフは骨を溶かし、深々と突き刺さる。 私はそのナイフを両手で掴み、何とかコントロールを取る。
するとキングイーグルがまっすぐに飛ぶ事で真っ白な頭の骨を溶かしながら進むことになり、怪鳥の頭を真ん中の所から一気に切っていくことになる。
「……!」
これには骨の鳥を頭を振り抵抗しようとするが、私はナイフを離さぬよう腕に力を込め頭部から、背骨へ、そして尾の先まで一気に切り裂く。
私に切り裂かれた後、骨の怪鳥は体をバラバラに崩しながら呆気なく地上へと落ちてゆく。
……あのモンスター、結局どうやって動いてたんだろ?
落ちてゆく頭部を見ながらふと思ったが、今はそんな事を考えているわけにはいかない。
「これからどうしよ?」
キングイーグルの上で呟く。 ひとまずはレイちゃんや団長さん達と合流するのが先かな? 私はそう考え、地上を見下ろしながら、ゆっくり人影を探す。 そうしている瞬間
「バリン」と何かが砕ける音がした。
私はその音に驚きすぐ顔を上げる。 すると……
「……ひび割れ?」
空がまるでガラス板のように亀裂が入っていた。