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第131話 命を賭して

視点変更 アリア→レオーナ


「バルテン!」


 私の前で謎の巨大な黒い魔物がバルテン目掛けて飛びかかる。 奴は片手が焼けただれ、もう片方の手は横からバルテンに刺された影響で血をわき出しながらも、目の前の敵だけを見て突っ込んで行く。


「!!」


 バルテンはそれに対して少し驚いた風だが、反応は早かった。 剣を構え、正面から突っ込んでくる魔物をまた剣を使い避けようと試みる。

 だが、奴は今までよりも更に、速く、容赦なく、勢い良くバルテンに体全身でぶつかってきたせいで、奴の攻撃を真正面から受ける状況になる。

 バルテンも避けれないと判断したのだろう。 素早く剣の刃に手を添え、左足を後ろに下げ、真正面から耐える体勢になる。 ……だが、バルテンの体は魔物のその渾身の一撃に見事に吹き飛ばされた。 バルテンは魔物によって体が宙に舞い、真四角の家の壁にぶつかる。 そこに更に魔物がつっこみバルテンを潰しながら壁を壊し、バルテンも巻き込まれ家の中に入っていく。


「バルテン!」


 私は、叫びながら、壊された家の中へ入る。 そこには腕を振り下ろす巨大な黒い魔物の背中があった。 バルテンの姿は俺からは見えないが早く助けなければ……私はそう思い、残っている右腕と頭を狙い一気に剣を振るう。


「【奥義 クリスタルブレード】!」


 更にスキルを使い、切れ味を上げる。 だが、魔物は後ろを見ずに右腕から裏拳を私に向けて飛ばし、容赦なく私の腹に鈍器のような衝撃を与える。


「グッ……ガッ!」


 私は口から苦悶の声が上がり、裏拳の衝撃により、体はそのまま道を挟んだ隣の家の壁に吹っ飛ばされる。 壁にぶつかった瞬間、余りの威力で私のぶつかった壁に瞬時に罅が入る。 私が痛みに耐え、一瞬目をつむり……開いた瞬間、こちらに飛びかかる魔物の姿が見えた。

避ける時間は無い。 ここで私は……


「……やれ! カウンターファントム!」


 私が最悪の展開を予想した瞬間。 バルテンの声が響き渡る。 すると目の前の魔物が私の眼前で右に勢い良く何者かに殴られ、吹き飛ばされる。 そしてそこには別の真っ黒な男が、私の前の通路に真っ白な雪と対比するかのように立っており、私と目が合うと魔物が飛ばされた方向に飛んでいく……あいつは?


「団長、逃げるぞ!」


 私が呆然としているぞ、建物からバルテンが片足を引きずり、手を腹に置きながら寄って来る。 先ほどの魔物の衝撃から鎧が砕けたのか、上半身は鎧の下に着る下着だけになっている。

 私は壁から地面に着地し、バルテンと合流する。 どうやら体は怪我したが、無事なようだ。


「バルテン、あれは」

「カウンターファントム。 私の家に伝わる使い魔だ。 闘技大会で一度やられたが、昨夜【召喚】しなをした」

「いつのまに……」

「あいつは私の影に隠れる。 そして私が傷つけば相手を襲ってくれる優れものだ」


 昨夜のバルテンはそんなことしてたのか……。 私はバルテンの用意に軽く感嘆しながら、次の行動を考える。


「どうする?」

「……すまない、この足じゃ私は戦えそうに無い、勝てる秘策は有るのだが……団長、すまないが、あの魔物との戦いに行ってくれ。 今のカウンターファントムだけでは力不足だ」


 バルテンは近くの壁に体を預けながらそう呟く……彼の息は肩で呼吸し、苦しそうだ。 これでは戦うどころかスキルなんて使えそうに無いが、何かあるのだろうか?

 思わず不安になるが、バルテンの目はまだ絶対に勝つという気力と貴族としてのプライドが残っている。


「……分かった」


 このバルテンなら、絶対私を見殺しにはしない。 そう思い頷く。 バルテンはそれを見て、どこか安心したような表情をした。

 そして私は痛む体に鞭を打ち、魔物の元へ駆ける。 この体もダメージは酷いがバルテン程ではない。

私が走っている時、バルテンは小さく独り言を言っていた。


「……兄さん、不甲斐ない弟で申し訳ありません」










 2つの黒いものは互いに拳をぶつけ合い、しのぎを削り合っていた。 カウンターファントムは五体満足であり、四肢を利用し、魔物に確実にダメージを与えている……だが、敵の魔物も腕が1つしか無くなったにも関わらず、まるで暴れるかのように体を動かし、周囲の建物や壁を破壊しながら攻撃を繰り出している。 カウンターファントムには中々当たらないが、一撃を食らえば、カウンターファントムは致命傷になりそうだ。

 私は、その戦いに魔物の背後から攻めた。 流石に2人(2匹)との戦いに正面から入ることは出来ない。 背後からの攻撃ばかりだが……残念ながら私は真っ正面から戦えるほど強くはないのだ。

 魔物は激しく殴り合っているおかげで近付いてきている私には気付かない……良し、今なら!

 私がチャンスを逃さないように走る速度を上げ、一気に距離を縮める。 その瞬間魔物は連続攻撃により、不安定な体勢ながらも蹴りをカウンターファントムの腹に叩き込む事に成功し、カウンターファントムを思いっ切り吹き飛ばす。

 そして蹴った時の軸足だけで私の方へ方向転換し、私を潰さんと右腕を振り下ろす。 それに対応することが出来ず、私はそのまま痛々しい腕の餌食になりかけるが……


「っく!」


 私は魔物の拳を剣を使い、正面から受け止める。 その衝撃で体から嫌な音が鳴るが、ピンチの為か痛みはない。

 けどこの均衡も柄のま。 片足が地面についたせいで、魔物のプレスが更に重くなる。

 ……私は負けるのか。


「いや、まだ負けれない!」


 バルテンの秘策が残っている。 ここで諦めるわけにはいかない!


「【使用厳戒奥義】解禁!」


 私は剣が顔にまで近づきながら、叫ぶ。 これはオルアナ王国騎士団の中で普段使ってはならないスキル。 その能力は強大だが、そのスキルの反動により今の騎士では下手すれば生命の危険も有る……だが、そんな事は言ってられない。


「【奥義 生命解放術】!」


 私が叫ぶと体の内側から、何かが破裂する音が聞こえ、激痛が走る。 それと同時に私の剣が魔物の右腕に徐々に拮抗し始める。


「ずりゃあっ!」


 私の剣が叫びと共に一瞬だけで魔物の腕を弾き、体が自由になるその一瞬で体の重心を一気に下げ、魔物の足下を狙って蹴りを入れる。 俗に言う足払いである。 スキルを使う前なら魔物の足はびくともしなかったかもしれない。 だが今の私の足は常人では出せない速さで奴の足に当て、魔物のバランスを崩した。

 その隙を利用し、私は上手く後方に避ける。 これで何とか魔物の腕の餌食になるのは避けられた……だが、魔物はまだ生きている。

 私が剣を握り、立ち上がっている途中の魔物を見据えていると、魔物の横から這うように走る怪物が獲物を襲う肉食獣のように魔物に襲いかかって来た。


「な……!」


 私は急にやって来た敵に思わず声を上げる。

 魔物に襲いかかったのはバルテンが【召喚】した黒い怪物だった。 だが、腕は4本に増え、体の骨格も立つことを考えていない形に変形している。 顔も角は有ったが、人らしい造形だったのに今は口から獣のような牙が生え、片腕の魔物の肉を喰らわんとばかりに噛みついている。

 先程も充分人外であったがこれは……もしかしてこれがバルテンの「秘策」なのか?

 私がこの黒い2つの魔物の取っ組み合いを再び呆然と眺める。

 雪の上で絡み合う2匹は明らかにカウンターファントムが優勢であった。 4本の豪腕を巧みに生かし、2本の腕で魔物の攻撃を防ぎながら残りの2本の腕で容赦なく殴り、隙を見ては口の鋭い牙で首を狙う。 それを避けようと魔物は抵抗出来ず、餌食になり、肉を抉られ、血が魔物の首から吹き出す。

 暫く魔物は動いていたが、カウンターファントムによって首を取られたことにより、その抵抗を止めた。周囲一体の雪は赤く染まり、白いキャンバスに赤い絵の具をまき散らしたような、出鱈目で凄惨な景色が広がっている。

 カウンターファントムらしき怪物は暫く黒い肉塊を殴り続けていたが、不意に動きを止め、6本足で私を気にせずに歩き始めた。この方角は……。


「バルテンの所へ戻るのか?」


 この怪物はバルテンの使い魔。 ならば主の元へ戻るのは当たり前といえる。

見た目があんな異様だから使い魔かどうか忘れそうだったが……。


「取り敢えず、戻るか」


 私はバルテンの様態も気になるので這うように移動する。 カウンターファントムの跡をついていき、凄惨な現場を後にする。

 ……バルテン、無事だと良いが。










 私とカウンターファントムがバルテンの元へ向かっていると彼を遠目に見つけた。 バルテンはさっきと同じ場所に座っていた……だが


「バルテン……?」


 先ほどと様子が違う。魔物に襲われた後の彼は大きく息を吐き、苦しそうでは有ったが、まだ生気が見られた。

 だが、今の彼は肩が動いておらず、腕も項垂れて、顔も下を向いている。 そして最もおかしいのは……


 彼の胸に剣が突き刺さっていた。


「バルテン!」


 私は思わず叫び、私の前を歩いていたカウンターファントムを抜かし、バルテンの元へ駆け寄る。 近寄ると彼はわずかながら息が有るのが確認出来た……だが、もう長くも無いのは決定的だ。


「バルテン!」

「……ああ、団長」


 私が声を掛けると、彼は小さく返し、私の方へ顔を向ける。


「あの魔物は……」

「君の使い魔がやってくれた! それよりもどうしたんだこれは!」


 バルテンは剣が刺さっているのに何でも無いかのように私に声を掛ける。 そして私の言葉を聞き、彼は微笑んだ。


「団長……これ、が秘策ですよ……ちゃん、と機能したんですね……」

「秘策……だと?」


 バルテンの体に刺さっている剣を見て私は呟く。 よく見たらこの剣はバルテンがずっと使い続けていた剣だ。 ということは自分で自分を……?


「ええ、カウンターファントムは召喚主が傷つくことで暴れる使い魔……そして、召喚主が致命傷を負えば、より協力になるという能力を持っている……それを利用した、だけです」


 ……つまり、カウンターファントムがああなったのはバルテンが自分の体に剣を刺したから。 そしてバルテンの命は、もう。


「ふざけるなバルテン! 何故そんなことを!」

「団長……いや、レオーナ。 私の事はどうでも良い。 それよりも」


 その時、バルテンは一度言葉を溜め、心の底から吐くように私に聞いてきた。


「私のこの功績は、リヴィル家のものになるか?」


 ……そうか、バルテンのこの言葉で私は思い出した。 彼が何の為にここまでしてきたのか。 それは……。


「わた、しには、兄さ、ん達のような才能は、何も、無い。 長男の、グライ兄さんには、家を継ぐ地位、とそれ相応の、カリスマが、ある。 次男のカナト兄さん、には騎士団の隊長になれた……。 だが、私には……なに、も無い」

「バルテン……」

「レオーナ……私、はやっと……やっと、家のため、になれるのか……?」


 彼は冒険者になったのも、功績を挙げようとしていたのも全部家の名誉の為だ。 そして彼がAランクの冒険者になっても追い続けていたのは2人の兄の背中。 彼には大きく見えていた……いや、大きく見えすぎた。

 普通の人からすればAランク冒険者の時点で十分な名誉だ。 自慢したって良い。 誰も文句は言えない強さの証明だ。 だが、彼にはそれも矮小な地位だった。

 自分に取れるようなものならばしょうもない物だ。 兄さん達ならもっと……。

 そう思い、走り続けていたのだ、とっくに並んでいたかも知れない。 兄の背中を。

 カナトはそんなバルテンを自慢げに話していた。 優秀で真面目な奴だと……バルテンがそれに気づいていれば、私が気づかせてやれば、こんな所で無茶をしなかったかもしれない。

 私の心の中に後悔が広がる……だが、もう遅い。 バルテンの顔色はますます悪くなっていく。 もう時間も無い……ならば私の出来るのは。


「……ああ、騎士団長を命がけで守ったのだ。 これは名誉なんて物では無い。 リヴィル家から英雄がでたのと同義だ……だから、ゆっくり休め」


 最後に彼を安らかに眠らせてやろう。


















 彼の体から熱は無くなった。だが彼の表情はすっかり安心しきっていた。自分の枷が外れたような優しい笑みまで浮かべている。


「……そういえばカウンターファントムは?」


 ふと思い出し、周りを見渡す。 すると私の側に這う様な形で居た。 先ほどの戦っていたのと同じとは思えないような静かさでバルテンを見つめている。


「お前はこれからどうするんだ?」


 私が思わず、カウンターファントムに尋ねた。 黒い怪物は何も言わず、バルテンを見ている……こいつにもバルテンに思い入れというのが有ったのだろうか。 等と自分の状況を忘れ、立ち尽くしていた時……


「……!」


 私は体全身の毛が急に立つような感覚に見舞われた。 殺気と大量の魔力……この感覚は、誰かが強大な【魔法】を使おうとしているのか?


「レイというエルフか……?」


 私は思い当たる人物……あのハイナ教国から来た銀髪のエルフの事を考え、呟く。 彼女は相当強いみたいだが


「ここまでの魔力は……本当に人なのか?」


 私は体に感じる魔力に体を震わせた時 

 空に巨大な亀裂が走った。

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