第130話 誰かの支えとなるために
視点変更 レイ→ネイ
「うりゃあ!」
私は一言叫び、気合いを入れると腕の力だけで丸見えの脊髄辺りに上手く乗っかる、巨大な怪鳥は私を振り落とそうと暴れるが、骨にナイフと突き刺して落ちないように耐える。 宙ぶらりんになっているよりはずっと楽だが、これからどうすれば……。 と悩みながら前を見る。 そこには真っ白けで空洞が開いている巨大な鳥の頭。 こんな全身骨だらけだけど頭に刺したら痛いのかな?と興味半分で感じてしまう。
「とりあえず頭いってみようかな?」
普通のモンスターや人なら頭は弱点だけど……このモンスターはここから見る限り、頭も骨だけで脳らしきものも魂らしきものもない。 体の関節もないのに何故か浮いてるし……そもそも生きてるの?
「……このままで居ても何も始まらないしね」
私は心を決断し、深呼吸を一回。 そして、突き刺していたナイフを抜き、ぐらぐらと揺れる骨の上を頭めがけ一気に駆ける。
「!!」
骨は何か危機感を感じたのか、大きく体をうねらせ、私を振り落とそうと必死になる。 けど
「この程度じゃ私は落ちないよ!」
私はこう見えても義賊なのだ。 不安定な足場を走るなんて散々やった。 この程度……造作も無い!なんて少しうぬぼれた瞬間、大きく骨が横に動き、私の右足が骨に引っ張られ、体勢を崩す。
そして鳥の肋骨辺りに体を打ち付け、転がるように地上に落下を始める。
「うわ、うわわ!」
思わず情けない悲鳴を上げる私。 何とかしようとナイフを骨に刺そうとするが、回転の勢いに負け上手く刺さらない。 そしてそのままひゅーっと体が空中に投げ出される。
「……あ、終わった」
私は背中に当たる猛烈な風を感じて思わず呟く。 残念ながら私はレイちゃんみたいな空を飛ぶスキルを持っていないし、この高さからじゃ……着地は絶望的。
私の視界にある巨大な骨は私にとどめを刺そうとせず、存在しない目で私をじいっと見ている。
ああ、長いようで短かった私の人生はここで終わっちゃうのか……なんて思わず心の中で呟き、私は目を瞑った。
残念! 私の冒険は終わってしまった!……え?本当に終わり?
視点変更 ネイ→アリア
「アリ………ん!」
私の耳に声が入ってくる。 けどそれが誰の声が分からない。 視界は真っ暗で頭がズキズキとする……頭を打ったのだろうか? 体は誰かに揺らされているのは分かる……でもどんな風に揺れているのだろうか?
「ア…アちゃ…!」
声が少し大きく聞こえる……体の揺れも大きくなった気がする。 その時ふと私は目を閉じていることに気づいた。 こんなことにも気づかなかったとまるで明晰夢のように呆然と思う。 そしてゆっくりと目を開ける。
「あ……良かった! アリアちゃん!」
私の前にはエルフの女性が立っていた。 肩には怪我をしたのか白い布が巻かれている。 顔は泥などの汚れで白い肌が霞んで見える。 そうだ、この人は私が手伝っていた医療班の人だ。
私は周りを見渡してみる。 どうやら私たちが治療をしていた部屋のようだ。 だが建物の壁にはぽっかりと穴が開き、巨大な石の柱が私の直ぐ横に突き刺さっている。 薬が置かれていた場所には瓦礫が落ちていて、ガラスの破片が散らばっている。 そして私の直ぐ隣には……
「……ひっ!」
赤黒い染みが辺りを染め上げていた。 所々に赤く染まった鎧や布が無造作に落ちており、他にも何か塊のようなものも確認出来た。
「あ、あの……何が……」
私は医療班の方に思わず聞く。 私の記憶があるのは必死に手伝いをしていたところだけ。 私の記憶はそこから急に見るも無惨な惨劇に変わっていた。
私の言葉に彼女は顔を伏せながら呟くように答えた。
「戦闘の流れ弾が丁度こっちにね……私は大丈夫だったけど、あなたは衝撃で頭を打ったみたい。 そして逃げられない怪我人は……」
「……そうですか」
私たちの努力は流れ弾という偶然で全て無駄になってしまった……私はそう思うと落ち込まずには居られなかった。 あんなに必死に助けた人達が……。
「とりあえずアリアちゃん、ここにはもう薬は無いし危険だから、場所を移そうと思うの。 他の医療班は多分大丈夫だから」
「はい、そうですね……ここに居ても何もなりませんから」
どうやら彼女は私が目が覚めるのをわざわざ待っていたみたいだ。 何時流れ弾来るか分からない、そして魔族が来るか分からない場所で1人。
私は雪が降る空の下を歩きながら思わず考え込む。
「でも、あなたが助かって良かった」
「え?」
私の隣で右手を押さえながら歩く彼女から掛けられた言葉に思わず声を上げる。
「……正直言って、あなたが居なかったら何をしていいか分からなくなってた。 1人で途方に暮れていたと思うの」
「私は何も出来ないですよ……」
今までも何も出来ていない。 今回だって足手まとい。
私が思わず悪い方向に考えが向かい、俯きながら歩いていると、医療班の彼女は曇った空を眺めながら口を開いた。
「……私はね、エルフだけど【魔法】全然使えないの。 それに剣も上手くない」
「そうなんですか」
「ええ、小さい頃から何を教わっても出来なくて、何か役立つ事がしたくて魔導隊に入ったの。 でも剣も【魔法】も駄目だった」
そう言うと「本当に酷いのよ」と恥ずかしそうに彼女は笑う。 その様子から察するに本当に下手なようだ。
「でも諦めきれなくてずっと練習してたの。 でも全然出来なくて、その時私を教えてくれていた人にね。 「医療班にならないか」って言われたの」
「それで医療班に?」
「ううん、私としては「お前には実力が無くて邪魔だから目立たない場所にいろ」って言われたと思って、1人で勝手に拗ねて入らなかったの」
そう語る彼女を見て、私は少し意外に感じていた。 医療班として動いていた彼女はしっかりしていてまさしく適任だった。 でも昔は全然そうだとは思えなかったなんて……
「そして私はね、新人だけの実地演習に無理言って出たの。 そして私のせいで仲間を傷つけちゃった。 その時に私はその人を無我夢中で治療したの。 座学で覚えた血の止め方。 昔お母さんから教わった森に生えてる薬草……全部使って何とか助けることが出来たの」
「その時、初めて知ったの」と話を続ける。 大人が昔を懐かしむように、誇り高い英雄が子供に冒険譚を聞かせるかのように
「医療班を勧めたのは、邪魔だからじゃなくて、私に才能があったから。 ……医療班って正直地味なのよね。 戦闘は基本みんな持たされる薬とか使って治しちゃうし、普段は薬だとか武器の確認とか支給品を渡したりする裏仕事……でもね」
そう言うと、一度呼吸を置き、明るく笑った。
「どんな裏仕事でも助かってる人がいてくれてるの。 アリアちゃん、あなたがどう思っても、あなたが居たおかげで私は心が救われたの。 それだけは事実なんだからね」
「……そうなんですか?」
「ええ、もちろん」
私の言葉に対して、彼女は堂々と答える。 私は一瞬だけレイさんと姿を重ねて見えた。
……レイさんだったら多分「何その質問?」って首を傾げながら堂々と同じ結論をしてくれるだろう。
「さあ、アリアちゃん。急ご! 多分他の医療班も怪我人が多くて困ってると思うの!」
「はい、そうですね」
私は医療班の言葉にはっきりと返す。 レイさんの為になるのかは分からないけど……取り敢えず私は今出来ることをしなくちゃ。
私がそう決心した時、私の後ろから、何か大きなものが地面に着地した音がした。 私はその音に反応して自然に顔を向ける。 そして思わず足を止める。
「アリアちゃんどうし……っ!」
私の方を向いて彼女は心配そうに声を掛けてくれるが、彼女の絶句した声が聞こえる。 私はそっちに目を向けず、後ろの「奴」から目を離せなくなっていた。
「奴」……フードで隠した顔はまるで煤のように黒く、体は黒いローブで覆っている。 右腕には「奴」の体の二倍近くある巨大な杖を握っている。 そしてひときわ目立つのがローブからは特徴的な黒いコウモリのような翼。 それが元々大きな体躯をより大きく見せている。
「……血ぃのぉ匂いだぁ」
「奴」……魔族はそう伸ばしながら呟くと、フードから除く目を私たちに向ける。 そして一言
「次はぁ……お前らだぁ……」