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第129話 勝負

視点変更 ネイ→レイ


 俺と魔王。 2人の剣がぶつかり合う。 互いに正面から剣を振り、俺が剣打ち払い、後ろに引いた後再びぶつかり合う。 そんなやりとりを二桁近く繰り返している。 俺は鍔迫り合いでは勝ち目が無い……だから何とか首を切れないか何度も試みていた。

 だが、魔王もそんな意図は分かっており、俺の切りかかった剣に正確に大剣を当ててくる。

 このままでは勝ち目がない……だが、この手を止めれば俺が更に不利になる。 俺は頭の中で状況を確認しながら考える。

 そう考えているうちに魔王の剣が俺の頭を狙い、真上から振り下ろされる。 俺はその攻撃を剣で弾きながら、左へ避け、地面についた瞬間脚力で後ろに逃げる。 互いの剣が届かない距離になり、魔王が右手で剣を持ちながら、私に尋ねる。


「どうした、エルフマスター? 貴様の力はそんなものではないだろう」

「当たり前。 まだまだ!」


 私は強気で返すが、腕に感覚が微妙になくなってきている。 魔王の重い攻撃を受けすぎたみたいだ……ならば


「【魔法 レーザーショック】!」


 私は左手を前に出しながらスキルを発動する。 手は白く光り輝くと細い光が一気に魔王の所へと放出される。 魔王はそれを危なげなく横にかわす……だけど


「そんな事は予想済み!」


 俺は左腕避けた魔王に向ける。 すると放出されているレーザーももちろん魔王の所へ、黒い体を真っ二つにせんとばかりにレーザーの当たった建物を見事に切断しながら向かっていく。


「なるほど……腕から出続けているのか。 だがそんなの無意味!【魔法 ダークウォール】」


 そう言うと魔王の前に漆黒の壁が現れ、俺の魔法を簡単に弾く……流石、魔王。 エルフマスターと同じでスキルの方も完璧なようだ……やはり手強い。


「……エルフマスター、どうした? もっと【魔法】を打ってこないのか? ……それとも「魔神」のためにとっておいているのか」

「……」

「成る程な……だが、エルフの腕力ではわしの剣には勝てんよ。先程のように【魔法】を使うしか。勝ち目はない」


 魔王に勝てても「魔神」に勝てる保証は無い。 というか魔王に本気で戦った後に勝てるわけがない。 今更ながらそんなことを魔王に言われた。

 確かにスキルは少ししか使っていなかったが……。

 なんて事を考えていると魔王が大剣を握り、一気に空に飛び立つ。


「!」

「それでも本気を出さないというならば、ここで死んでもらおう」


 そう言い放つと翼を広げ、体を回転し始める。 魔王の体に黒い風のようなものが徐々に集まって来る。 黒い風は魔王の体を見えなくすると、竜巻の如く魔王の周囲に吹き荒れる。 ……これは【奥義 黒転突】……槍使いが憶えるスキルだ。 体に周囲の気を集め、周囲を暴れまくるというスキル。 これで俺を襲うつもりだろう。

 これを防ぐには今までの【魔法】じゃ厳しい。 だが他の【奥義】等は魔法の攻撃力以外は低めのエルフじゃ耐えられないかも知れない……でも【魔法】を使うとMPが


(お前がそんな事考えても無駄だし、今更だ)


 俺が悩んで居ると頭の中で懐かしい友人の声が響いた。 この声は……。


(陸は俺が何か言ったって直ぐに後のこと気にせずすっ飛んでいくんだ。 そして行き詰まったらどうしようか考える。 中学の頃から、高校に入ってからもな)


 確かこの言葉を言われたのは何時だっただろうか? 確か高校1年のある日彰と帰っていたときに不良に絡まれている同級生を見つけて……。


(ずっとそうだったのに自分の行いが間違ってるか? なんて聞かれたってねえ……。 お前にどう答えてもまた同じ事やるだろ? だったら……)


 不良に対して正面から言い合いになってその隙に彰が警察を呼んで事なきを得た。 その後に俺が彰に聞いたんだった。


(後悔しないように、まっすぐにただひたすらがむしゃらにやっちまえよ)









「【魔法 アイスドラゴン】」


 俺は剣を魔王に向け、静かに言い放つ。 瞬間、俺の背後から氷の巨大な竜が現れる。 体全身は青く、鱗の一枚一枚まで全てが氷で出来ており体と同じくらい大きい翼を広げ、赤い宝石のような氷の目で黒い竜巻を見据えている。


「……そのスキルは!」

「やって」


 魔王が初めて驚愕の声を出しているのを無視して私は静かに告げる。 すると氷の竜は大きく翼を広げ、口から冷気を出し、


「グギャアアアアァァ!」


 空気を揺らすような叫びを上げ、一気に魔王の元へ突っ込んで行く。 空を舞う雪は竜が通った後、光り輝き竜の通った跡を美しく示す。


「……面白い!」


 魔王は俺が出した竜に驚きの声を上げたが、直ぐ声に喜びが混じる。 そして黒い竜巻は一気に凍りの竜とぶつかり合う。

 瞬間、周囲に爆音が走る。 氷を砕くとき特有の音と竜の咆吼により空気が震え、強力な2つのスキルの衝突により白と黒の爆風により雪や埃による煙が巻き起こり、魔王の姿が見えなくなる。

 しばらく音が鳴り響いていたが、2つの音が徐々に小さくなり、煙の中から1つの影が帝国の地を踏みながらこっちに来る。俺はそれに剣を向け、すかさずスキルを発動する。


「【魔法 アイスウェーブ】」


 俺が発動した瞬間、立っていた大地は氷に変わり、俺を乗せながらうなりはじめ、魔王に向かっていく。


「……っぐう! 【魔法 マグマウェーブ】!」


 魔王もスキルを使い、マグマの波に乗り、対抗してくる。 2つの波は周りの建物を巻き込みながら互いにぶつかり合い、蒸気がわき出し、マグマは固まり新たな大地と化していく。 白と赤、2つの領域の境目。 そこに俺と魔王は立つ。魔王の右翼はいつのまにか折れていた……恐らく俺の氷の竜の戦果だろう。


「……なるほど、これがお主の本気だな。 さすがはエルフマスター。 【魔法】に特化した種族なだけはある」

「ええ、あなたも本気、出しなよ? 朝だからとか言い訳はさせないけど」

「……そうだな。 それも作戦だ。 それでもわしやっと五分だな」


 俺の言葉に魔王は納得したかのように頷く。 魔族は夜の間ステータスが上がるスキルがあるからこの時間帯にしたのだ。 奴としては本調子では無いだろうが、こうしなければ魔王には勝てない……。


「……そうだ、エルフマスター、提案がある」

「何?」


 俺がどうやって魔王に勝とうか考えていると、魔王に唐突に思いついたように声を上げた。


「お主、わしを倒した後、「魔神」と戦うんだよな?」

「もちろん、その予定だけど……」

「わしと戦った後、勝てるのか?」

「……わかんない」

「だろうな」


 魔王は一体何を言いたいのだろうか? 俺が思わず怪訝な顔をすると。 笑いながら提案してきた。


「ならば、一発勝負をしよう」

「は?」

「勝負だ。 勝負。 各々本気のスキルを一発。 互いに打ち合って勝敗を決める。 簡単だろ?」


 つまり、次の一発で終わらせようという事のようだ……。 俺としてはMPは出来るだけ貯めときたいし、勝負が早く終われば、騎士団や魔導隊の被害も少なくて済む。 けれど


「何で急にそんなこと……」

「簡単だよ。 わしとしても早く息子達の援護に向かいたい。 お主は「魔神」の元へ向かいたいのだろう? 2人とも早く決着を付けたいという事で利害が一致している。 ならば互いにさっさと本気で打ち合えばいいだろう。 どちらが上かも簡単に決められるし、無駄な魔力を消費せずに済む」


「ま、下手に手を抜けばわしのスキルのお陀仏だがな」と魔王は付け加える……なるほど、魔王も自分の種族を守るためにここで止まっているわけには行かないって事か……。


「良いよ、受けて立つ。 互いにスキルは一回だけ、打ち負けた方は潔く負けを認める」

「ああ、それで良い……」


 魔王はそう呟くと俺に背を向け、堂々と距離を取るために歩いて行く……その後ろ姿は無防備だが、俺はその背中に攻撃をすることはせず氷の大地を歩く。 白と赤の境界線から同じくらいの距離で俺たちは向かい合い、互いに一瞥し


「「いざ!」」


2人の声が重なった。



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