第128話 召喚されしものとの戦い
視点変更 レイ→レオーナ
魔王と言う男から現れた黒い煙に覆われた何かに私とバルテンは捕まり、恐ろしい速さで魔王から無理矢理距離を取らされる。 しかもその何かは何処も似たような特徴の無い街を前後左右めちゃくちゃに移動しているため、私の位置が掴めなくなる。
「……くっ、こいつの手から離れられない」
捕まっているバルテンがずっと抜けられないか抵抗を試みているが、何かの黒いの手はびくともしない……私も抜けようと試すが、体は痛くはないがしっかり捕まえており、全然抵抗出来ない。
「……こうなりゃ」
私が四苦八苦しているとバルテンが何やら決心したようで、口から大きく息を吐く。
「バルテン、何を……」
「スキルを使う。 【魔法 ヒートボディ】」
そう言った瞬間、バルテンの体が火で焼けたかのような橙色に輝き出す。 そしてバルテンを捕まえている手から肉を焼く匂いが起きる。
「!!」
黒い手の主はそれに耐えきれず、思わず手を離し、バルテンは地面に両足で見事に着地すると素早く手に握った剣を構える。
「団長、助けます!」
そう言うと、バルテンは目に留まらぬ速さで私を掴んでいる方の腕を切り落とす。 私はその影響で体に黒い手が着いたまま地面に落ちるが、未だに体を離さない巨大な手を上手く下にして、ダメージを受けずに着地し、黒い煙から素早く距離を取る。
「バルテン、助かった」
「……団長、気をつけて下さい」
バルテンの言葉を聞き、私は黒い煙の方に向く。 黒い煙から見えている腕は片方は焼けたのか煙が登り、もう片方は切り落とされ無惨な切り口を見せている。 このモンスターの正体はまだよく分からないが、ダメージが効かない何てことは無さそうだ。 けれどまだ奴の体はほとんどが黒い煙で覆われていて、中の姿が確認出来ないのでまだまだ油断は出来ない。
「……こいつは、魔王の【召喚】したモンスターか。 まさかの1人で。 それも不意を突かれた状態で【召喚】するとはな。 そんな奴がレイ以外にもいるとは……」
「……とりあえず団長、奴を倒しましょう」
魔王が召喚したモンスターならば、かなりの実力者に違いない。 私たちは剣を構え直し、敵の一挙一足に集中する。
瞬間、黒い煙がバルテンに向かって突っ込んでいく。 そいつは残った方の爛れた手を前に伸ばしバルテンの体を貫かんという速さで飛んでいく。 バルテンはその惨たらしい腕に剣を刺し、奴の腕に押し込みながら、押し込む力で横にずれ、攻撃を回避する。 黒い煙はバルテンの剣によって方向転換も出来ず、勢い良く真四角の住宅に突っ込んでいく。
バルテンは建物に開いた穴に向かって威勢良く声を上げる。
「甘いぞ、魔物! 私はリヴィル家三男、バルテン・リヴィル! 我が家の名誉の為に死んでもらおう!」
「……そう言うこと言うの遅くないか?」
威勢良く言ったバルテンに私は思わず言ってしまう。 そういうのは魔王の前で言うべきでは?
「あれは、あいつがレイばかり見ているからな……」
俺の言葉に目をそらしながら返答するバルテン。 なるほど目立ちたがり屋でもあるのか。
「まあいい、とりあえず深追いはするな。 確実に攻撃を当てればいけるぞ」
「分かっています……さあ、来い」
バルテンが建物にあいた穴を警戒していると、建物の中から急に巨大な音……というよりは叫び声が響き渡る。 私はその声を効いた瞬間、今までの騎士の任務の時を思い出した。
普段の騎士団は国民を守るために街を中心に巡回、それと騎士同士の訓練が基本だ。 そして時々、部隊を編成して街の近くに現れたモンスターの駆除や危険なモンスターが多い土地の調査等を行う。 その駆除や調査の時モンスターと戦っているときこうやって大きく叫ぶときがあるのだ。 大体2パターン、1つは仲間を呼ぶとき。 そしてもう1つは……。
私が騎士としての経験を思い出しているとき、謎のモンスターの叫び声が徐々に小さくなり、バルテンが警戒しながらも俺に尋ねてくる。
「一体……?」
その時、私は人がもう住めない位の大穴があいた建物から2つの赤い光が見えた。 私はとっさにバルテンに声を掛ける。
「バルテン!」
その瞬間黒い影が恐ろしい速さでバルテンに飛びかかった。
視点変更 レオーナ→ネイ
何やら巨大な絶叫が街のどこかから聞こえる。 私はその方向を一瞬振り向き向くが、直ぐ顔を前に向け全力で走る。
元々騎士団長や、あの貴族と考えていた作戦は魔王へまず2人が仕掛けて、その後更に私が首を狙う2連続の不意打ち作戦。 若干汚い作戦ではあるが、例えレイちゃんを含む3人には対処できても私は対処出来ないと踏んでの作戦だった。 けれども奴は逃げるでも受け止めるでも無く、【召喚】という方法をしてきた。 その魔王が召喚した黒い煙によってバルテンとレオーナの2人は連れ去られ、私の後ろには巨大な怪鳥が私を狙って追いかけて来ている。
「……というかあの鳥どうやって飛んでるの!?」
私はその鳥の姿に思わずツッコミを入れる。 何故ならその怪鳥は全身骨で出来ているのだ。 肉の部分なんて何処にも見当たらない。 ダンジョンに入った時に時々見かけるモンスターに食われた残骸よりも白く綺麗な骨である。
確か物好きな人にはモンスターの骨を集めて飾るのが趣味という私には理解しがたい人がいるらしいが、そういう変人はこのモンスターを見れば涎を垂らすかもしれない。
それはともかく、そのモンスターはそんな骨の姿で空を飛んでいる……翼も骨格だけなのに。 恐らくレイちゃん辺りなら「え、当たり前だよ」的な事を真顔で答えそうだが、残念ながら私はそんなことを言える経験はまだしていない。
なんて考えていると私を追う巨大な骨の鳥は私4人分は有りそうな翼を広げ、屋根の上を走っている私に対して徐々に距離を詰めてくる。 取りあえずこのモンスターを倒さないみたいだ。 私は赤いナイフを構え鳥の位置を確認しながら、距離を調整する。 ……良し、今だ!
足に力を込め、膝を曲げながら九十度体を回転させる。 その後一気に鳥の方へ勢い良く跳躍する。
「!!」
鳥は驚いたようで、体をカラカラと中々いい音を鳴らす。 私はその骨の首辺りに狙いを定め、ナイフを突き立てる。 体は骨だけど動くんだからひとまず首を狙ってみたのだ。 私のナイフはそのまま首の骨の一つに見事に突き刺さる。 そして私はナイフ一本で支えられ、宙ぶらりんの体勢になる。
「!!」
骨は声を出せないのか体を大きく揺らし、ダメージを食らっていることを表現している。 体は骨でも痛いみたいだ。
取り敢えず私は普通にダメージが通ることも分かったし、ナイフを骨から抜き、建物の屋根に飛び降りようと考えてナイフを抜こうとする……だが結構深いのか全然抜けない。 そして私が抜こうとナイフを上下に動かすと、痛いのか更に勢い良く動き、体全身を大きくうねらせ暴れまわる。
「う、うわあ!」
その余りにも揺れの大きさに1人ナイフを必死に握りながら騒いでいると、何を思ったか骨で出来た巨体がいきなり垂直に飛び、高度を上げ始める。 私が必死にしがみついているうちにみるみると四角い建物達が遠のいて行く……これでは私が降りることができない。 幾ら体が柔らかいからといってこんな高さから落ちれば墜落死は確実。
「ど、どうしよ……」
私の久しぶりのピンチに弱音を吐くが、助けは来なかった。 ……これは私1人でやらなければならない。 今までみたいに他の人に任せたり、協力は出来ない本気の1対1。
「……みんなだって頑張ってるんだ」
それなのに私1人だけ弱音になったりはしない。 私はナイフを握る手に力を込めた。