第125話 「王」
視点変更 アリア→レイ
「……避けろ!」
レオーナが上を向きながら叫ぶ。 その声に俺を含む残りの3人は反応し、皆上を向く。
上には火の玉、それもかなり大きい。 港町の時にラズが街を破壊するのに使おうとした【魔法】位の大きさはある。
「【魔法 スプラッシュショット】」
私がスキルを使った途端、地面から水がまるで噴水のように湧き出て、火の玉を受け止めるかの如く真正面から勢い良く向かって行った。
火の玉と水がぶつかった瞬間、俺達の周りが一瞬で蒸気に包まれる。
「うわっ!」
「ネイ!?」
蒸気で周りが白くなった中、ネイの驚いた声に反応し声を掛ける。 が周りは何にも見えず、湿度が高まったせいか体から一気に汗がでる。
「……とりあえず全員前に走るぞ! 遅れるな!」
「分かった! おい、エルフの2人も急げ!」
「は、はい!」
「ネイ、大丈夫?」
「うん、ちょっと驚いただけだから」
しかし、私としてはあの火の玉を思いっきり押し返そうとしたのだが、見事に相殺されてしまった。 あんなスキルが使えるということはラズと同等……もしくはラズ以上に【魔法】が強い魔族ということか。
「……厄介そう」
「誰が厄介そうじゃ」
私が考え事をしながら思わず呟いた時、前からレオーナでもバルテンでもない貫禄のある男の声が返ってきた。 俺が前を向くと、蒸気に翼が付いている3m近い大きさの巨大な影が映っている。 右手は何かものを持っているのか右手だけ影が大きい。
「魔族か!?」
俺の前を走っていた2人は急に前に現れた巨大な影にすぐ立ち止まる。 その瞬間、巨大な影は何も持っていない左手をゆっくり挙げる、手が青く輝き始める。 それに対してレオーナが大声を上げる。
「【魔法】だ!」
「私が守る! 【魔法 ライトウォール】!」
俺の声に反応して白い壁が俺たち4人の前に現れた、その瞬間影の手から竜巻が巻き起こる。
「強そうな【魔法】だぞ! 大丈夫か」
「とりあえず集中するから静かに! エセ貴族!」
そう言ってる内に竜巻は周りの霧を集めながら壁へと突っ込んでいく。 私が用意した壁は竜巻とぶつかり、ガラスが刃物とぶつかったときのような独特で嫌な音と共に削られていく。
「……クッ!」
「レイちゃん!」
ネイが俺に声を掛けるが、俺は壁に集中して、返事が出来ない。
しばらくすると壁を削っていた竜巻は、壁の破壊をした後にその役目を終え、周りにレンガを削って出来た砂埃を舞わせながら消える。 ……自分たちに怪我は無かったが、俺の【魔法】をこんなに簡単に破壊するとは……。 【魔法】に特化した職業の魔族か? それとも……。
「ほう、わしの【魔法】を防いだか」
「あなたこそ私の【魔法】を良く壊してくれたわね」
「なあに、あの程度の壁、壊せない訳ないであろう」
というまだまだ余裕という声を発している男。 彼の姿が砂埃から徐々に見えてくる。
魔族特有の黒い肌と翼の上に、黒に紫色の線が入っている強固そうな鎧と兜を装備して、右手には本人の高い身長と同じほどの長さの大剣を持っている。
角が出るように作られた兜からは若干皺のある、だが老いよりも経験の差を感じさせる顔つきの屈強な魔族が立っていた。 ラズ以上に圧倒的な殺気と他の魔族には無いカリスマのようなものを俺達は肌で思いっきり感じ、俺達は各々の武器を目の前の魔族に構える。
その中、俺は目の前の男にある疑問を抱いた。 先程の火の玉と竜巻……2つ共、【魔法】であった。 だが彼は剣を持っている。 魔法剣士なのか? それとも……
「あなた、剣を持っているけど魔法剣士なの?」
俺は嫌な想像が働き、思わず敵に聞いてしまう。 それを聞いた男は無表情に俺にとって悪い返答をしてきた。
「違う」
「じゃあ、何であんなに強力な【魔法】を剣を持ちながら出来るの?」
「それはわしの台詞だ。 お主だってわしの【魔法】を剣を持ちながら返したではないか」
そうだ、俺は今杖を持っておらず黄金に輝く剣を握っている。 武器による【魔法】の強化はないが、魔法の威力ナンバーワンのハイエルフの魔法と同じくらいの魔法を放つ男。 「魔神」か?そう疑問に思った時、急にクルルシュムやラズが言っていた話を思い出した。
魔族を統べていた「王」。 そして俺と同等、もしくはそれ以上の力を持つ男。
「……あなたが「王」。 いや、魔王」
「如何にも……わしは魔王。 魔族の頂点に立っていた男だ」
魔王……それは魔族という種族が成れる最後の上位種。 エルフで言えばハイエルフ……つまり俺と同じ領域の男。
そしてあの【魔法】の実力がありながら剣を握っていることから剣士としての実力、後他にも様々な技術を持っているだろう。 だから職業は……。
「後、デビルマスターって所かしら?」
「……ほう、それも分かるか。 そういう貴様はエルフマスターといった所か……その若さでわしと同じ領域に立つとはな」
「……それはどうも」
俺はできる限り、目の前の敵を警戒しながら静かに答える。
そんな時、後ろからバルテンが小声で話しかけて来た。
「お、おい。 レイ、デビルマスターって何だ」
「……とりあえず何でも出来る奴だよ。 【魔法】も【奥義】も魔族が使えるもの全てを持っている。 魔族の頂点」
「マジか!?」
「バルテンうるさい。 集中しなくちゃ奴には勝てない」
「いや、分かってるが……」
俺の言葉に反論しようとしたバルテンだが、直ぐに口をつぐむ。 彼もAランクの冒険者。 奴の実力をオーラのようなもので感じているのだろう。
俺はそんな彼に顔を魔王に向けながら、話しかける。
「とりあえず、奴には私1人で挑む。 みんなは何とかして「魔神」の元へ向かって」
「な、おいレイ!?」
「ほう……自分の身を犠牲にして仲間を先に行かせるのか?」
「大丈夫バルテン、直ぐ行くから」
私が魔王を警戒しながら、バルテンに伝える。
彼はしばらく無言になると俺の後頭部に強烈な痛みが発生した。
「痛っ!? ちょっ、バルテン!?」
その痛みに振り向くと、バルテンが剣の柄を俺に向けながら若干イラッとした表情で立っていた……こいつ、柄で叩きやがった。
俺が不満の表情で訴えると。 バルテンが何か言おうとする……が、その後ろからネイがおこな感じで俺に突っかかってくる。
「ダメだよ! ……あの人は私でもかなり強いって分かる。 あんなのをレイちゃん1人に任せられないよ!」
「……おい、俺の台詞を取るな。 まあ、お前じゃこいつには勝てないだろ? だから手伝ってやる」
「……む、失礼な」
「それに奴は私たちを通す気は無さそうだ」
レオーナの言葉で再び魔王の方へ向く……確かに、奴は俺に対して何もしてこないが、逆に俺たちが攻めればいつでも倒せるように体を構えている。 彼としては戦うと言う事より「魔神」の元へ行かせないという考えなのか?
「分かった。 みんな気をつけてね。 とりあえずみんな死なないことが第一だから!」
「うん!」
「分かった」
「てめえに言われるまでもねえよ」
各々が返事を武器を構える。 こうしてハイエルフと魔王。 ……2つの種族の頂点が、今ぶつかり合う。