第121話 いざ!突撃!
視点変更 レオーナ→レイ
「これからヴェルズ帝国首都へ「魔神」討伐作戦を行う!」
ジャイアントスパイダーの中にたまたま見つけた広場で騎士と魔導隊が横に並び直立している。 その前でレオーナが右手を大きく振り上げ、演説をしている。
俺が【召喚】していた夜が明け今日が「魔神」との戦いの日だ。 俺やアリア達は魔導隊の列に入り、レオーナの話を聞いていた。
「まず、この戦争はヴェルズ帝国との戦いであった……だが、帝国の兵は姿を消し、人がいないという不気味な現象を目撃するばかりであった。 だが、それには理由が有った。 ヴェルズ帝国に魔族を率いた「魔神」が現れ帝国の人間を滅ぼしたのだ!」
そう言いながら右手を振り上げるレオーナ。 それに呼応し、声を上げる騎士。 一方、魔導隊はその様子を不思議なものを見る目で見ている。
「軍人だけでなく、一般人をも徹底的に消し去るこの所業、まさしく悪である。 だからこそここで、私達騎士団と「魔神」の存在を察知した魔導隊。 2つの国の戦力が結集して戦う時だ。 今こそ私達の力でこの大陸に平和を手に入れるのだ!」
レオーナはそう締めくくった。
「ねえ、ナハトは演説とかしないの?」
レオーナの演説が終わった後、騎士団と魔導隊の各々が最終チェックを始めた頃、俺は武器を確認しているナハトに尋ねた。
「ええ、ハイナ教国には余りそう言ったものは……。 女王様はあれに似たような事は行いますが、魔導隊ではしたことが無いです」
「へえ……」
「それよりもレイ様、レイ様は見たところ手ぶらですが、何か武器は?」
「え、武器?」
ナハトが俺に対して迷いながら聞いてくる。 そういえば持ち歩くのが面倒だし、アイテムボックスから直ぐ取り出せるという理由で手には何も持って居なかった。
「ほら、アイテムボックスの中に入ってるんだよ」
「ああ、あの防具が出て来た不思議な箱ですか……」
アイテムボックス自体は魔導隊に防具を上げる時に目の前で使っている。 なので簡単に納得してくれたみたいだ。
「あのような便利なスキルが有るとは、私達は知りませんでした。 流石女王様に認められた方です」
「別にそういうのは関係ないと思うよ……」
相変わらずだが、魔導隊の人達は女王様……ハイちゃんが相手の位の基準の1つみたいだ。 こういう会話を度々するとハイちゃん凄さを少し実感する。
「申し訳有りません、話がズレました。 とりあえずレイ様は武器をしっかりと所持しているのですね?」
「そうだよ。 わざわざ心配してくれてありがとね」
「いえ、これも皆で帰る為です。 女王様はそれを望んでいます」
「……そうだね」
ハイちゃんは俺が帰って来れると信じて送り出してくれた。 ナハトだって俺を信じてくれてる。
「よし、ナハト勝とうね!」
「ええ、必ず」
俺とナハトはこの後、笑いあった。 互いに再び会おうと。
「ちゃんと武器は持ちましたか?」
腰に届きそうな長い銀髪と宝石の様な青い目をし、不釣り合いな純白の鎧を纏っている少女……つまり俺が近くにいるエルフの人達に声を掛ける。 すると元気な声が返って来る。
「はい! 有ります」
「薬は?」
「手持ちの薬、治療室の薬。 大丈夫です」
「よし、オッケーだね!」
魔導隊はもう準備が完璧。 後は騎士団次第と俺の武器だな。
「【魔法】も大事だけど……今回は少数で戦うし、近接武器の方が良いかな?」
俺はアイテムボックスを呼び出した後、しばらく悩む。 魔族相手だし光属性かな……。
「あれ? レイちゃん、考え事?」
俺がそんな風に武器について悩んでいると横からネイが俺の顔を興味深そうに眺めて現れる。
「あ、うん。ちょっと武器を」
「あー、そういえばライヴァン同盟以来何も持ってないね。 前の白い杖は?」
「……食べられた」
ラズとの戦いの時、俺がサメにぱっくんちょされかけたのだが、その時に俺のお気に入りの白い杖……シャイニングワンドは見事鮫のお腹に入ってしまったのだ。
「そ、そう」
「いや、別に杖は他にあるから良いんだけど。 今回の敵には接近戦で戦おうかな~って思ってるの」
「接近戦? 剣とか槍とか?」
「そうそう」
「ん~……」
俺の言葉に悩むネイ。 そしてポロッと一言。
「武器持ち換えながらとかは?」
「……は?」
ネイの返答に思わず素で声を出してしまう。 でもネイの言葉の意味が分からないのでしょうがない。
「ほら、レイちゃんってアイテムボックスとかいうの持ってたじゃん?」
「うん、有るね」
「だから戦ってる途中にアイテムボックスから武器を出して持ち替えたらどうかな~なんて」
「……」
「レイちゃん?」
「良い!」
ネイの提案に俺は思わず叫んでしまう。 「マジック・テイル」では装備を変える時、メニュー画面を開いて変更をする必要があったが、メニュー画面を開いている間も攻撃を食らえばダメージを受けるので装備を変えるには安全な場所を探す必要があった。 しかしこの世界はアイテムボックスから武器を出せば装備を変えられる……ならば武器さえ有れば状況に合わせて有利な武器を出せるということだ。
「その考えは無かった! 流石ネイ!」
「いやいやそれ程でも……というか今までしたことなかったの? レイちゃんならやりそうな気がするけど」
「全然無かったよ」
「平原の主」相手に槍を変えたことは有ったが、あれは戦う前に槍をぶん投げてたし武器を持ち替えて戦っていた訳じゃ無い。
ずっと「マジック・テイル」の戦い方だったからこんな戦い方はは思い付かなかった。 そこに気づくとは……ネイ、やりおる。
「流石ネイだよ!」
「いや、私は別に……というか結局レイちゃんが何を装備するか決めてないじゃん」
「……あ」
「よし、「魔神」と戦う面々は揃ったな」
「私とネイと騎士団長とエセ……あ、居るね」
「さり気なく略すな。適当エルフ」
「な、何で険悪なの……」
ジャイアントスパイダーの広場に「魔神」と戦う4人が揃った。 これから俺たちはジャイアントスパイダーで突撃し、みんながやられる前に「魔神」を倒さなくてはならない。
だが「魔神」の居場所が分からないから居そうな場所を虱潰しに捜すしかないので、かなり無茶な作戦だ。
「だが「魔神」が君の言うような存在なら、私達にも勝機はある」
「騎士団長、どういうこと?」
レオーナが俺の不安を余所に堂々とした姿で言い切り、ネイが不思議そうに言葉を返す。
「「魔神」は魔族ではなく、魔族を侵略しに来た別の種なのだろう」
「うーん、別の種かは分からないけど……聞いた限りは大体合ってるよ」
俺はクルルシュムの事を思い出しながら言葉を返す。 そういえばクルルシュムはまだあの牢獄にいるのだろうか? 彼らなら脱走を試みてたりとかしてそう……。
「それなら「魔神」を倒せば、残った魔族とは対談に持ち込める可能性は有る」
「まあ、支配と命令をしていた親玉が居なくなったら彼らもやばいとは思うだろうしね……」
更に「魔神」は強いとは魔族からすれば余所者に命令されているのだ。 「魔神」を倒せば戦いを止めてくれるかもしれない。 それが出来れば俺達も魔族も被害が少なくて済む。
「どれも可能性の話だろ?」
「だが、私達が何とかすれば戦いは終わる。 そう考えれば君のやる気は上がるだろ?バルテン」
「……そうだな。 分かり易くて良い」
レオーナの言葉に口元を歪ませ笑うバルテン。 やっぱり彼は貴族っぽくない。 何というか山賊とかのほうが似合いそう。
「……まあいいや、じゃあ作戦を始めるよ。 準備は良い?」
「うん、何時でも良いよ」
「私も構わない」
「早くしろ暴力エルフ」
俺の言葉に各々の返事をする3人。 それを聞いた後俺はジャイアントスパイダーに指示を出す。
「ジャイアントスパイダー起き上がって! その後、砦に向かって最大加速で突進! 後は近くに来る敵に遠慮無く攻撃しまくって!」
俺がそう叫ぶと地面が大きく揺れ、ゆっくり起き上がる。 俺の指示通りにジャイアントスパイダーが動き出す。
これでもう後には引けなくなった。 ついに最後の闘いが始まる。