第119話 決戦前夜~日常を目指して~
「……つまり、ヴェルズ帝国にこのモンスター……ジャイアントスパイダーで突っ込む。 その後、レイさん達は「魔神」を倒しに、他の皆さんはモンスターメインでジャイアントスパイダーの上で魔族を迎え撃つ……という事ですか?」
「【召喚 シャイニングユニコーン】。 ん、そうそうそんな感じ」
4人による会議は終わり、今は夜。 俺達は明日のヴェルズ帝国での決戦に向けてジャイアントスパイダーの上で用意をしていた。 とりあえず俺がやっているのはジャイアントスパイダーで戦うモンスターの【召喚】を明日の戦いに支障を来さない程度にしていた。
ネイは俺の作戦を聞いた後、闘技大会を思い出してかバルテンに対していやな顔をしてたが了承し、明日の為に寝てしまった。
今は星が見えるジャイアントスパイダーの人が居ない街中でアリアと黒猫さんの2人と1匹で焚き火を囲んでいる。
「アリアは何するの?」
「はい、私は魔導隊の後方支援をします。 基本は怪我をした人の治療の手伝いを……」
「そうなんだ。 ありがとう、アリア」
「レイさんについて行くのは、私が決めた事ですから」
「いちいち感謝されても困ります」と俺の言葉に唇をとがらせながら言うアリア。
確かにアリアに何かやらせる度に謝ったり、感謝してる気がする。 けどアリアに物を頼むのは少し気が引ける……何というかハラハラするというか……。
「レイさん、手が止まってますよ。 早く準備して休まないと……」
「あ、うんそうだね。 あ、黒猫さんの役割は」
『分かってる』
アリアに叱咤され意識を【召喚】に移そうとしたが、その前に黒猫さんに話しかける。
『ジャイアントスパイダーの上で魔族と戦えば良いんでしょ』
「まあ、単刀直入に言えばそうなる。 ナハトの言うことをちゃんと聞くんだよ」
『……私の方が年上』
俺の言葉に不服なのか、呟くと焚き火の前で丸まってしまう黒猫さん。
そうは言われても変身した時の姿の印象でどうしても黒猫さんを可愛らしい幼女としか認識出来ない。
『だったら大人の姿になれと?』
「黒猫さん大人の姿になれるの?」
『出来ないことはない』
そう言うと黒猫さんはゆっくりと体を起こし、俺の方を見てくる。 ……この目、やる気だ!
俺が黒猫さんの真剣な眼差しに思わず正座をし、向かい合う。
その後、しばらく俺達の視線がしばらくぶつかり合った瞬間!
「レイさん、黒猫さん。 ふざけてないで明日に備えてください」
アリアがため息をつきながら声を掛けてきた。 その余りにも適当な物言いに黒猫さんと共にアリアに抗議しながら顔を向ける。
「アリア、別にふざけてないよ」
『これは真剣な戦い』
「……それよりも明日の方が大事ですよね?」
そしてアリアの顔を見た白く健康的な顔は見事なまでに無表情で俺達を冷たく見ており、一定のトーンで静かに俺に話しかけてきた。 ヤバい、アリアの背後から修羅が見える。 激おこぷんぷん丸なんてレベルじゃねー!
その余りのオーラに長年野生で生きてきた黒猫さんも思わず体が震えていた。
「え、えーっとアリア、さん?」
「レイさん、黒猫さん。 明日はとっても大変なんですよね?」
『う、うん……』
「だったらふざけてないでさっさと用意を済ませましょうよ。 【補助 変身】がどれだけ魔力つかうのか知りませんけど、時間と魔力の無駄です」
『……ごめん』
あの黒猫さんがいとも簡単に謝ってしまった! 怖い! アリア様怖い!
「……レイさん?」
「う、うん。 真面目にさっさと【召喚】をしちゃうね。 そして明日の為に寝ないとね!」
俺がそう半ば自分に言い聞かせるように喋る。 するとアリアの周りの負のオーラは消えていた。 うむ、良かったアリア様の怒りは鎮まったようだ。
「そうですよ、早く終わらせて休みましょう。 皆が倒れるのは見たくないですから……」
「……」
『……』
アリアが最後にぼそりと呟いた言葉に俺と黒猫さんは黙ってしまう。
恐らくアリアとしては俺達に万全な状態で戦って欲しいのだろう。 俺達を「死んで欲しくない」っていう単純で大切な気持ちで思ってくれている。
「【召喚 ソウルリッチ】……良し、寝よっか」
「あ、はい!」
『私も』
俺が最後に白い法衣を着た骸骨を召喚した後、適当に休んでいるよう指示を出し、俺達はネイが休んでいる建物へ向かう。
「アリア」
「はい」
「魔導隊も騎士団もみんな凄い人達だし大丈夫。 みんなでハイナ教国へ帰れるよ」
「……そうですね。 大丈夫ですよね!」
俺の言葉を聞き、アリアの顔にも笑顔が浮かぶ。 その時、黒猫さん何か気になったような雰囲気で言葉を発した。
『ご主人様、この戦いが終わったらどうするの?』
「戦いが終わったら?」
『そう』
黒猫さんの言葉に思わず考える。 戦った後……全然考えなかった。 というよりは考えようとしなかっただな。
元居た世界に戻るのか、こっちに留まるのか。 そういうことで悩みたくなくて、ずっと目を背けていた。
「ん~……」
「レイさん、考えなかったんですか?」
「まあね……ハイルズ辺りで冒険者をしてようかな」
『……適当』
黒猫さんに指摘される。 でもほんとに考えてなかったし……。
「あ、アリアの村でのんびり暮らしたりするのも良いかも」
「そうですか? あそこ本当に何もないですよ」
「それが良いじゃん……アリアや黒猫さんは?」
「私は……とりあえず家に帰ってからですかね。 何か困った時はレイさんを頼ります」
そう言い冗談っぽく笑うアリア。 それは心配性のアリアの父さんが可哀相だな……まあ、呼ばれたらアリアの味方をするけど。
『私はご主人様について行く』
「うん、ありがとね。 黒猫さん」
黒猫さんはこのまま使い魔ライフをエンジョイするようだ。 ネイもこれまで通りの冒険者に戻る気だろう。
「魔神」を倒せば、俺達には今まで通り俺が何か言い、アリアと黒猫さんが突っ込み、ネイが笑う。 そんな俺が来てから少しだけの短い日常が来るかもしれない。 もしくは俺は元の世界へ帰り、彰との普通の日常。
どっちもかけがえの無いもの……だから「魔神」に勝つ。
「うん、そうだね。 アリアとあの村でずっと一緒でも良いかもね」
「え、ずっとですか!?」
「うん、駄目?」
「いえ、構いませんが……私何かで良いのですか?」
「良いよ~寧ろずっと居たい!」
「ちょ、ちょっとレイさん!?」
『私も混ぜて』
「あ、黒猫さんまで!」
アリアに黒猫さんと共に抱き付き、じゃれ合いながら寝床へ帰る道。 その姿を俺が召喚したモンスター達は、まるで羨ましいかのように眺めていた。
あ、シャイニングユニコーンが足で地面を蹴りつけている。 それはまるで「リア充死ね!」と怨念を篭めているかのよう……。
「え、嫉妬?」
モンスターも嫉妬ってするのかな?とシャイニングユニコーンを見て、ふと思った。
「……」
や、やばい! ユニコーンさん目がマジだ!