第116話 騎士との再会
視点変更 アリア→レオーナ
「だ、だだだ団長!」
夕方、騎士達は変わらない嫌な白い景色と歩き疲れによって休んでいる。 そんな中、私と書記官のテントに新米の騎士が急いで入って来た。
「どうした」
「み、南から謎のモンスターの接近を確認しました!」
「大きさは?」
「か、かなり大きいです!」
そう騎士が言った直後テントの中が微かながら一定のリズムで揺れる。
「……取り敢えず見に行く」
「同行します」
「は、はいこちらです!」
私はモンスターを恐れている騎士と書記官と共にテントの外へと出た。
テントから出ても揺れは徐々に強くなりながら続いていた。 南には小さいが何かが歩いているように見える。 私達は騎士達が集まっている所へ歩いていき、近くにいた1人に様子を尋ねる。
「モンスターの姿形は?」
「あ、団長! モンスターの形は巨大な4本足で歩く……その……」
「どうした?」
私が尋ねた騎士は戸惑っていた。 形に問題が?
「いえ、そう言うのではなく……街が、歩いているんです」
「街?」
「ええ」
どういう事か分からず聞いてみるが騎士の答えは変わらない。 ……ならば自分で確認する方が早いか。
「双眼鏡を持っている騎士は居るか?」
「こちらに」
私が大きな声で騎士達に尋ねると横にいた書記官から小さな丸い筒が2つ繋がったような物を渡される。 この道具は「双眼鏡」といい、ハイナ教国で開発された物だ。 これを使えば遠くにいる、モンスターや人、建物等を見ることが出来る。
私は書記官の手から双眼鏡を遠慮無く取り、遠くに居るモンスターを見る。
「……成る程、街だな」
それは部下の言う通り巨大な4本の足でゆっくりと移動していた。 そして蜘蛛で言う体にあたる部分は巨大な建物が幾つも並んでいる。 ……こんなモンスター見たことがない。 見た感じから戦争の頃に有ったという人工的に作られた使い魔が暴走したものだろうか?
「どうしますか? 団長」
「……取り敢えず手を出すな。 「平原の主」より巨大なモンスターだ何処から出て来たか知らないが、ひとまず奴から離れ、様子を見る」
「分かりました」
私の指示を聞いた書記官は軽く敬礼した後、直ぐ騎士達に指示を出す。 指示を聞いた彼らは慌ててテントを片づけ始める。
……にしてもあの魔物、高さが砦より大きいな。 こんなモンスターが存在したのか。
「……ここへ来て常識を疑うようなものばかりを見るな」
私もまだまだ若いという事だな。
「急げ、あんなの潰されればひとたまりも無いぞ」
私は自分の経験を振り返りながら、周りの騎士を叱責する……さて、あのモンスターの目的は何なんだ?
私が悩んでいると横から軽装の騎士が私に話し掛ける。 手に双眼鏡を握っているので見張りの1人だろう。
「あの、団長……」
「何だ?」
「その、あのモンスターの上に……人が居ます」
「何?」
俺が部下の控えめな言葉に聞き返すと首を縦に振る。 本気の話のようだ。
私はその話を聞いた後、手に持っている双眼鏡を使い見間違いだと思いながらあの巨大な街を見る。
そこにエルフ特有の長い耳を持つ男が白い旗を上げて立っていた。
視点変更 レオーナ→レイ
魔導隊の人が白旗を上げながらジャイアントスパイダーの前に有るテントに近づく。
蜘蛛の前方に居る俺となんやかんや有ったアリア達。 それとナハトと魔導隊の方々は眼下のテントと周りの光景を共に眺めていた。
「……格好からしてオルアナ王国の騎士ですね。 ヴェルズ帝国の首都へ突入する前だったのでしょうか?」
「うーん……それは私達にラッキーなのかな? 不幸なのかな」
「どちらかと言えば幸運でしょう。 オルアナ王国の方達に魔族の事を話せば協力……それが出来なくても撤退してもらえば被害を減らす事が出来ます」
そうナハトが言っていると騎士のテントに後100mという位置まで来た。
「よし! スト~ップ!」
俺が叫びながら指示をだすとジャイアントスパイダーマンは前足を上げていたのを途中で止め、3本足の無駄に絶妙なバランスで動かなくなる。
「……む、このまま体勢を低くする様に命令しても大丈夫かな?」
「レイちゃん恐いこと言わないでよ」
俺がポツリと呟いた言葉にネイが尻尾をピーンと立たせながらツッコむ。
「……ま、大丈夫だよね? ジャイアントスパイダー! このまま休止状態になって!」
そう命令するとジャイアントスパイダーマンは3本の足を曲げるようして、ゆっくり街を下に移動させ、足を街の下にしまう。 半球状の下の部分はそのまま地面にぶつかり自身の重さを利用して下の大地を押しつぶす感じで体を降ろす。
すると騎士団のテントの前に古びた街の出来上がりである。
「これって、ジャイアントスパイダーが動いたらクレーターみたいにならないかな?」
「レイさん、ハイルズがもうそうなってましたよ」
俺の隣でアリアがいつも通りのツッコミを入れる。 この子、数時間前に「何でもして良い」という凄い事言ったのにこの冷静なツッコミである。 今思えばそういう意味は無かったと分かるが今も心臓がバクバクと動いている。
何て考えていると、俺達の前に騎士らしい鎧を着た耳が長いイケメンを中心に騎士達が歩いてきた。 そして俺達の前で一礼する。
「私はオルアナ王国騎士団団長を勤めているレオーナだ。 そなたたちはいったい何者だ? エルフばかりだが、その格好からして魔導隊ではあるまい」
と言い睨んでくるレオーナという騎士。 俺はそれを聞きながらナハトを含む魔導隊の人達に視線を向ける。
今の魔導隊人達は俺が与えた装備をしている。 最初は魔導隊の服を着替えるのにやや抵抗していたが、俺の装備に対する誘惑と俺の「これを着れば死亡率が下がる」という旨の演説に負け、皆バラバラの服を着ている。 1人は青い軍服のような服だったり、アリアが着ていた魔女っ子な服を着ている女性のエルフが居たり、全身真っ黒のいかにも「悪い騎士」といった感じの鎧を着たエルフが居たり……。 コスプレ集団だとは思っても魔導隊だとは思わないだろう。 騎士団長の言葉も頷ける。
そのコスプレ集団の中から全身を緑色の法衣のような服を着たナハトがレオーナの所へ進んでくる。
「いえ、私達はハイナ教国から派遣された魔導隊です。 レイ様からヴェルズ帝国には「魔神」が居るとの情報からこちらに来ました。 この格好はレイ様から授かった装備です」
「「魔神」?」
ナハトの言葉に首を傾げるレオーナ。
「何だそれは?」
「……レイ様、説明を」
「え、丸投げ?」
ナハトから見事なまでに豪快に説明をパスされ、しょうがなくレオーナの所へやって来る。
俺の方へ視線を向けるレオーナ団長。 俺、見知らぬ人に説明とか緊張するな……しかも多分偉い人だし。
「……え、えーっとねー」
「む、すみません。 あなたとはどこかで出会いましたか?」
「は?」
俺が説明しようとしたところでレオーナに遮られ、思わず声が出る。 その時、後ろから誰かに指で肩を突っつかれる。
「ん? あ、アリア」
「レイさん、あの人って確かオルアナ王国に入った時に……」
「え? あー、あのペガサスで砦を乗り越えた時!」
あの時に確か誰かにペガサスだ何だと聞いてきた男が居た事を俺は思い出した。 確かあの人もレオーナと名乗っていた筈だ。
そのイケメンであるレオーナは俺の言葉を聞き、驚いた顔をする。
「そうだ、あなたはあの時のお嬢さん! それにペガサスで乗り越えたときというのは……」
「あ……」
しまった、失言をしてしまった。 確かあの時の目の前の騎士はペガサスを探していたし、そうでなくても砦を乗り越えたのはオルアナ王国への不法侵入に当たるのでは?
……でも今はそんな事を言う暇はない!
「そんな事は置いといて!」
「いや、私としては大問題……」
「置いといて!」
「あ、ああ……」
俺が剣幕で無理矢理ペガサスの事を有耶無耶にする。
……まあ、大丈夫だよね? 後で謝れば良いよね? と心の中で呟きながら、今のヴェルズ帝国と「魔神」の事を騎士団長に伝えるのであった。