第113話 久々の校舎にて
視点変更 レイ→彰
「よー? 彰大丈夫か~?」
「あ、聡。 俺の足がそっちに飛ぶぞ」
「うおっ!?」
久々に平凡な私立高校に登校した日の朝休み。 聡が話し掛けてきたので椅子から素早く立ち上がり体を捻りながら素早く蹴りを決める。
聡はその一撃を腕を使い上手くガードする。 ……流石聡、一部の女子から「二年の受け」と言われるだけはある。
「何だよ~久しぶりに登校したっていうから見に来たら元気いっぱいじゃねえか」
「お前も相変わらずだな」
「まあねえ、学校の雰囲気は相変わらずだよ~。 彰と違って悪い意味で」
「そうか……」
学校は相変わらず何処か暗かった。 特に2年生は俺が前登校した時よりも更に明るい雰囲気の様なものが減った気がする。
「俺としてもやだよ……。 何かクラスでテンション高いの俺だけだし」
「お前は寧ろ下げろ。 うざったい」
「はぁー……彰はキツいね~」
そういいながら俺の机に顔を乗っける聡。 そんな普段通りの彼を眺めながら俺は昨日の出来事を思い出す。
「マジック・テイル」でレイを見つけたとき、俺はすぐにジャイアントスパイダーに飛び移ろうとしたがジャイアントスパイダーには着地できず、見事に落ちてしまった。 その後落下ダメージで暫く呻いているとジャイアントスパイダーの姿は何時の間にか消えていた(急ぎながら俺の所にやってきたアルナによるとまるで溶けるように消えていったらしい)。
この奇妙なジャイアントスパイダーは「マジック・テイル」のプレイヤー達のちょっとした話題になり、会社もヤバいと感じたのか「マジック・テイル」は緊急点検となってしまった。
そのせいで「マジック・テイル」はプレイ出来なくなり、やることがなくなってしまった俺はしょうがなく高校に久しぶりに登校して来た……という訳だ。
「何だ~彰すっかりニート状態じゃないか」
「うるさい」
「ま、2年にも彰程じゃないけど学校休んだ奴居たし、気にすんな気にすんな」
「……そう言えばそうだったな」
聡の言葉を聞き陸が消えた日の後を思い出す。 俺がまだ学校に出席してた頃、確かにちょくちょく休んでいた人が気がする……その時は俺も落ち込んでいたからはっきりとは覚えていないが。
「……聡」
「ん?」
「お前はこれどう思う?」
俺は聡にポツリと聞いた。 それに対して首を捻る聡。
「何が?」
「陸が消えた事だ……お前はどう思う」
「どうねえ……」
聡は暫く顎に手を付ける動作をして
「俺としては家出はない……というか自主的にやったとは思えないなぁ」
「え?」
思いの外聡がまともが回答をしてきたのに驚き、机にばたりと伸びている彼を見る。
「何? その目?」
「いや、続けてくれ」
「……まあ、いいや。 陸姫はさあ、何というか周りの人に迷惑掛けるのが嫌って感じじゃん?」
「……確かに」
「だからあいつが誰にも言わずに消えるなんてまず無い、有り得ない」
「ま、当たり前だけど」と付け足しながら聡は言う。 それは俺も分かっている。 中学の時ならまだしも今はそこまで鬱って訳じゃ無かったしあいつの事だから家族の事とか考えて出る気を無くしそうだ。 ……そう言えば陸には妹が居たな。 今どうしてるだろうか?
「それに夜でしょ? やっぱり事件の匂いしかしないなあ」
「あいつ……男だぞ?」
「最近、男の娘って需要有るんでしょ?」
「知るか」
こいつの事を少しでも見直したのはバカだった。 俺は机に張り付いている馬鹿を剥がしながらそう後悔した。
視点変更 彰→レイ
「どうしました? レイさん」
「……何かイライラする」
ジャイアントスパイダーの上で目を覚まし、魔導隊の方々と食事を取った。 その後、魔導隊の皆様が見張りをしてくれちゃうので建物をアリアと探検していたところ何だが無性にムカついて来た。
それを聞いたアリアは隣で不思議そうな顔をして
「はあ……」
と反応に困ったの丸見えな声を出す。
「誰かが悪い噂でもしたのかな?」
「そうなんですか?」
「アリア、何か元気ない?」
さっきからアリアの返事が譫言気味である。 ……まあ、俺の話題に反応しづらいってのも有るのだろうけど。
「あ、すみませんレイさん。 ですが、ヴェルズ帝国まで何時着くのか気になっちゃって」
「ああ、成る程」
アリアの言葉に俺は納得する。 そりゃ強敵が居るというヴェルズ帝国へ行くのだ。 一応エルフマスターの俺も不安だが、いたって普通のエルフである彼女の不安はもっと大きいだろう。
……っていうかヴェルズ帝国にどれぐらいで着くのか分からないって今更ながらヤバくないか?
「アリア、ちょっとナハトの所行ってくる」
「へ?あ、はい」
俺は現在地を確かめるために魔導隊の隊長であるナハトの所へ向かうことにした……あの人なら何か分かりそうだし。
「恐らく……オルアナ王国の西を進んでいるところでしょう。 この速さなら昼にはヴェルズ帝国に入ります」
ジャイアントスパイダーの上で魔導隊と話し合いをしていたナハトを捕まえ、今いる場所の事を話す。 すると彼はジャイアントスパイダーの街の端へ行き、下を覗き込みそう伝えた。
「へ~どうして分かるの?」
「レイ様、落ちないように下を見て下さい」
「ふむふむ」
俺は言われるがままにジャイアントスパイダーから覗き込む。 巨大な四本の足がガシャガシャと歩いているのは草原ではなく鬱蒼と茂った森だった。 そこに生えている木をジャイアントスパイダーはいにも返さず潰しながら歩いていた。 俺が元居た世界ならバッシングが飛びまくりそうな光景である。
「恐らくこの広い森はオールの森です。 オルアナ王国の西に位置している巨大な森で王国の砦と接しています」
「何で分かるの?……というかハイナ教国を何時の間に出ていたの?」
「少し前に砦を乗り越えましたよ。 ここから西を見て下さい」
衝撃発言をサラリとするナハトの言葉を聞き俺は西を向く。 すると雲のような物でよく見えないがジャイアントスパイダーよりでかい影が見える。 大きさは分からないがまるで地平線を守る砦の様に横に大きく所々縦に針のように飛び出ている……というか
「山脈?」
「はい、あの山脈はオルアナ王国の西に有り、ハイナ教国には無い物です。 更にヴェルズ帝国とオルアナ王国の境界に有る高原に入るとあの山脈も途切れてしまうので、ここがオルアナ王国の西に位置していると推測しました」
「ほへ~」
ナハトの長々とした説明に思わず声が出る。
周りの地形で分かっちゃうのか。 方向音痴の俺としては何とも素敵な能力である。
「ところでレイ様、このモンスターはレイ様が指揮しているのですか?」
「ん?まあそうだけど今は目的地を伝えただけで勝手にやらせてるよ」
「そ、そうですか」
俺の言葉を聞き冷や汗を流すナハト。 ジャイアントスパイダーが何か問題を起こしたのだろうか?
「いえ、そういうのは何も……ただこのモンスターがオルアナ王国を通過しなくて助かったと安堵をしただけです」
「え、あー……こんなのが入ったら大変だよね」
ジャイアントスパイダーなんかが入ったらパニック間違い無しだな。 ジャイアントスパイダーがそういう俺達の事情を理解しているとは思えないから、オールの森を通るのが近道だと判断したのだろう。 何てジャイアントスパイダーの行動でいつの間にか過ぎ去っていた災難にため息を1つつくと前に居るナハトが笑いながら俺に
「……会ったときから思っていたのですがレイ様はかなり豪快な方ですね」
と急に言って来た。
「……何か馬鹿にしてる?」
「あ、いえそんな気持ちは全く有りません。 ただそこまで曖昧な情報で動けるのを羨ましいと思ったのです」
「?」
アリアからは猪突猛進と言われるこの性格を良いというのか。
「ええ、私は万全だと確信できなければ動けない性格で……」
「いや、私もそうだけど」
万全の基準がナハトと違うだけで俺もそこまで突進する訳じゃない……と思う。 そういうとナハトは少し口を開け、「何を言っているのか分からない」という表情をする。
「そうですか? ですが位置とか何日に着くとかの計算をしないのは中々無謀……」
「そういう事言うな~!」
ナハトが真面目な顔をしながら俺を罵倒してくるので途中で止める。 彼はそれを聞き、目をぱちくりとさせる……こやつ無意識か。 無意識で馬鹿にしたのか。
「……まあ、良いや。 じゃあ、ヴェルズ帝国の首都へはどれ位?」
「この速さなら夕方頃かと」
「うーん……首都からジャイアントスパイダーが見えない場所で一晩休憩してから朝に攻めようか。 夜は魔族にとって有利だし」
確か、魔族には夜にステータスが上がるスキルが有った気がする。 1対1ならまだしも魔族が何人も居るなら出来るだけ敵が弱い状態で戦いたい所だ。
「ええ、分かりました。 魔導隊の部下に伝えておきます」
「あ、ごめん。 私が考えなかったせいで色々困ってた?」
生真面目に頭を下げるナハトに話し掛ける。 よくよく思えば魔導隊としては何時戦うのか分からなくてアリアみたいに不安に感じていただろう。 俺1人ならともかくナハトは魔導隊の隊長だし……。
「いえ、今どう動くかが分かったので十分です。 まあ、早く教えてほしいという気持ちは少なからず有りましたが……」
「あ、有ったのね……やっぱり」
表情を変えずに文句を言うナハト……いや、自覚は無いのか?こいつ。
ナハトって素で毒舌って奴なのか? 何というかナハトの部下はナハトの部下はなりに大変そうだな~っと勝手な同情を俺はする。
そんな小さな事は気にしないで巨大な岩の足は木を踏み潰して進軍していくのであった……。