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第112話 精霊の情報

「……あれは何だったんだろう」


 空が暗くなり始めた頃、ジャイアントスパイダーは立ったまま動きを止めていて、俺達は休んでいた。

 あの後、暫く呆然としていたら空が暗くなってしまい魔導隊の人達が夜見張りをすると言ってきた。 それに甘えアリア達と共に俺は建物の中で天井を見ながら寝そべっていた。


「彰だよね? あれ」


 俺はつい先ほどの出来事を思い出す。 急に現れ、急に消えた彰。 余りにいきなりな再会に頭が真っ白になったが冷静になって考えれば色々可笑しい。 というか最初から可笑しい。

 まず何で彰が居たのか。

 そして何故鳥はジャイアントスパイダーの攻撃をすり抜けたのか。 色々疑問が有る。 ……こういう時は誰に聞くべきだろうか?


「精霊……とか?」


 元々俺をこちらに呼び出した存在。 よく思えば、最初の頃の話からして神様みたいなのとも関わりが有るであろう存在だし、何か知ってそうだが……。


「でも自然現象かも知れないし、アリアに聞こうかな?」


 博識なアリアなら知っていそうだと思い隣を見る。 そこには警戒心のかけらも見あたらない静かな寝顔をした少女の顔が有った。 ……これを起こすのは少し勇気がいるので警戒心が無い安らかな寝顔から視界から外す。


「……アリアには明日聞くとして、今は精霊に聞いてみるか」


 今までは精霊が急に話し掛けて来てばっかりだったが、俺が精霊に話し掛ける事も可能だろう。 精霊を呼ぶ手段自体は有るし……。


「うん、今から精霊を呼んじゃうか」


 俺はそう呟くと立ち上がり、ジャイアントスパイダーの建築物から外へと出る。 こういう時に「相変わらずレイさんは……」とため息をついてくれる少女は俺の動きに気付かず寝返りを打っていた。










 星は見えず分厚い雲が空を覆っている中俺はバイオリンを手に持ちながらゆっくり歩く。 呼び出し方は至ってシンプル。 精霊使いは楽器で精霊を集めてスキルを使う職業。 なら精霊が余り居ない場所でも精霊を呼べて会話出来るんじゃない?と俺は考えた。

 なので今からバイオリンを使い、精霊を集めようとしているのだが


「どこで弾こうかな……」


 こっちの世界でも夜遅くに楽器の音が聞こえるのは迷惑だよな……と元の世界の俺の感覚で考える。 「どんなに良い曲でもTPOが悪ければ雑音になる」というのは死んでいない母親の口癖だった気がする。


「レイ様、どうかしましたか?」


 そんな事を考えながら呆然と歩いていると見知らぬ魔導隊の男が俺の前に立っていた。 どうやら見張りの仕事のようだ。


「あ、いや何でもないよ。 あなたの方は?」

「は、大丈夫です! 異常有りません!」


 俺が質問するとビシッと背筋を伸ばし答える男。 彼の方が戦いのプロって感じがするので敬礼されると何か違和感を感じるな……。 あ、でも騎士と姫って感じで逆に違和感無いかも……騎士と姫といえば何で赤い髭の配管工は毎回桃姫を助けに行くのだろうか? 騎士とか居ないの?


「レイ様?」

「あ、ごめんごめんぼーっとしてた。 そうだ、ちょっと楽器を演奏したいんだけど……どうかな?」

「演奏ですか? 構いませんよ」


 「暇でしたので」と彼は笑いながら承諾してくれたので遠慮無くバイオリンを準備する。 そして弓をゆっくり弦に触れさせる。

 瞬間、綺麗な音色が起きた。 男の驚いた声が軽く耳に入る。

 まるでそよ風のような優しさの有る音はジャイアントスパイダー中に響き渡っている気がした。 俺は音を聞きながら静かに目を閉じる。

 手は勝手に音色を組み合わせ曲へと変えていく。 俺の周りに光が集まる気配がする。

 この音が俺の中に染み渡った気がした。










「ヨンダ?」

「呼んだ」


 俺が弓を弦から離し、目を開けると周囲には緑色の光が沢山浮遊していた。


「成る程、楽器を使って精霊を集めていたのですか……」


 隣で仕事を忘れて目を閉じながら俺の演奏に聞き入っていた魔導隊の男は感心した声を上げている。 おい、仕事しろよ。


「あ、あの~ちょっと席を外していただけません?」

「あ、これは失礼しました!」


 魔導隊の男に軽く注意をすると彼は慌てた感じで自分の仕事に戻る。 うん、これで俺が彰の幻の話を気兼ねなくする事が出来る。


「デ、ナニ? ワタシイマイソガシイ」

「あ、そうなの? じゃあ率直に聞くよ……」


 俺がつい先ほどの出来事を出来る限り伝える。 すると精霊は暫く何も言わず、光が強弱を繰り返しながら輝いた後


「「マジン」ノエイキョウガコンナニハヤイナンテ……」


 と呟くようにかなり重要そうな事を発した。


「「魔神」?」

「ウン、アナタノトモダチラシキジンブツガデテキタノハオソラク「マジン」ノセイ。 ソレハセカイガツナガリハジメテルヨチョウ」

「世界が繋がり始めている? 「魔神」のせいで?」

「ウン」


 精霊が言うには彰の幻は「マジック・テイル」のリアルタイムの彰の様子で、俺が今いる「マジック・テイル」の世界と俺の元居た世界がくっつき始めた影響らしい。 それで2つの世界が繋がる元凶が「魔神」だとか……そういえば世界が云々ってハイルズに来る前に聞いたな。


「フタツノセカイガブツカルトイロイロユウゴウシテタイヘンナコトニナル。 ヘタスレバセカイノホウカイモアル」

「「魔神」ってそんな事も出来たんだ……」


 どんな原理かは分からないが「魔神」には2つの世界をぶつける力も有るようだ……そんな事すれば「魔神」自身も危ないのに何でするのだろうか?


「……ホンノウ?」

「あ、精霊も分からないのね」






「ソウイエバワタシタチハコレイジョウキタニイクコトハデキナイ」

「え、そうなの?」


 唐突に精霊は宣言してきた。 前の話と繋がらなかったので反射的に返してしまう。


「キタノホウハ「マジン」ニヤラレチャッテ」

「あら、そうなの?……ってクルルシュムが言ってたっけ」


 ヴェルズ帝国には木一本残って無いと確かクルルシュムが言っていた。 精霊達は森の中に多く居る存在だから相性が悪い……どころか最悪なのだろう。


「ワタシタチハモウチカラニナレナイ」

「あ、良いよ良いよ。 彰の幻を教えてくれただけで十分」


 俺の悩みを解消してくれたのだ。 これ以上高望みは出来ない。 と感謝の言葉を伝えると精霊が思い出したかのように何か伝えた。


「ア、デモセイレイノヌシノショウカンハデキルヨ。 アレ、レイノマリョクデヨビダス【マホウ】ダカラ」

「へ?精霊の主?」


 俺が精霊に言った意味深な発言に聞き返すが光は霧散してしまった。 どうやらここにいられる精霊達の限界が来てしまった様だ。 それが近くに森が無いからなのか、「魔神」に近づいているからかは分からないが欲しい情報は手には入ったので、アリア達の居る建物に戻ろうと歩き出す。


「精霊の主……【魔法 精霊王召喚】の事かな?」


 一時的に精霊王と呼ばれる強力なモンスター?を召喚し攻撃するハイエルフの最高【魔法】だ……あれは精霊ながらもヴェルズ帝国で発動が出来るのか。


「まあ、「マジック・テイル」でも気にしたことは無いけど……」


 確かあのスキルは火山の中だろうが、森の中だろうが、砂漠のド真ん中だろうが発動出来たし気候や土地は関係無いようだ。


「使うかどうかは別として。 それはかなり心強いな」


 王とはいえ精霊だからこの世界じゃ影響出るかと思ったがそんな事は決して無かった様だ。

 俺は「魔神」との戦いにほんの少し希望を持ちながら、暗い夜の街を歩いていった。

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