第111話 親友の幻
視点変更 レオーナ→彰
「あ、あれ?ジャイアントスパイダーが遠ざかっちゃうよ。 アキ、どういう事?」
「分からん」
大砲の前に堂々と立っていたアルナがすっとんきょんな声を上げ、俺に聞いてくる。
アルナが声を上げるのも分かる。 少し前にぴくりとも動いていなかったジャイアントスパイダーが動いたと思ったら俺達の方向には来ず、寧ろ遠ざかるように動き始めたのだ。 彼女からすれば色々と驚きだったのだろう……今はアルナの事はどうでも良い。 問題なのはジャイアントスパイダーのあの動きだ。
「あんな動き初めて見た」
「そ、そうなのアキ?」
「ああ」
周囲にいるプレイヤー達も奴の行動に拍子抜けといった感じだ。 だが、街を守る為に一歩も動かずに警戒している。
「そういえば事前通告とか無かったんだよね? ならあれバグとかじゃ無いのかな?」
「バグか……」
確かにバグなら変な動きをしてもおかしくない……というか変な動きをするからバグなのか? でも変な動きをするのはバグだとしても事前通告無しで現れるのもバグなのだろうか? 俺はそういう話には詳しく無いが、何かが引っかかった。
「ちょっと見て来る」
「え?ちょっとアキ!」
悩んでいても仕方がない。 とりあえず俺はスキルで巨大な鳥を【召喚】し体に乗る。
「危ないよアキ!」
「大丈夫だ。 問題無い」
アルナの警告無視して俺は直ぐに砦から飛び立った。
飛ぶ事約1分でジャイアントスパイダーに追い付いた。 奴は4本の岩の足をゆっくりと動かしながら大きく動いている。
「……そろそろか」
俺はジャイアントスパイダーに近付きながら身構える。
すると奴の沢山のビルのような建物がそびえ立つ半球状の体から沢山の銃のような物が現れ一斉に俺に向く。
瞬間巨大な爆発音と閃光が撒き散らされ、黄色い弾が大量に飛んでくる。 俺は鳥を操作し、横に避けながら近付く事を試みる。
「……1人じゃ厳しいか」
俺が奴の攻撃を避けると、俺に再び撃とうと銃口を全て向けてくる。
ジャイアントスパイダーの恐ろしい所は攻撃の量だ。 ただ巨大でHPが有るだけなら脅威にはなっても「マジック・テイル三大事件」なんて呼ばれる程ではない。 問題なのは先程の銃撃がHPが1でも減ると機関銃の如く連続で撃ち出して来るのだ。 更に地上には爆撃、踏みつけ。 街に大しては体の正面に付いてる大砲で……まさしく生きる要塞である。
「酷かった頃は毎日何処かの街を襲ってたからな……」
俺は奴のまだ優しい一発毎の銃撃を避けながら思い出に浸る。
初心者プレイヤーに襲い掛かる爆弾、何処の街も消し炭になり呆然とする見知らぬ個人ギルドの人達。 ジャイアントスパイダーを捕まえ、戦争に導入し高笑いをするレイこと我が親友の陸。
……うん、奴には良い事が全く無い。
「何で事前通告無しなのか……今調べさせてもらう!」
俺はそう叫ぶと一気に上の街の中に入る。 ここはジャイアントスパイダーの攻撃を唯一浴びない場所だが、ガーディアンスパイダーという厄介なモンスターが無限に湧いてくる恐ろしい場所だ。 だがジャイアントスパイダーの攻撃を避け続けるよりはマシ。 そう思って鳥から飛び降りようとした時
「……陸?」
俺の目の前に美しい銀色の髪をしたエルフが居た。
視点変更 彰→レイ
「そういえばアリア、ジャイアントスパイダーって結構高いけど大丈夫なの?」
まるで地震のように規則的にグラグラと揺れる建物の中で俺はアリアに質問をしていた。 アリアってシムルグに乗っていた時とか怖がっていたが大丈夫なのだろうか?
「あ、それは大丈夫です。 何というか……下が見えないので」
「あ、成る程」
まあ、ジャイアントスパイダーぐらいの大きさになれば落ちる心配は無いしな。 なんて戦う前とは思えない話題を話していると、急に火薬が爆発したような音が周囲に鳴り響いた。
「ひゃっ!?」
『うるさ』
「レイちゃん、この音何!?」
「……ジャイアントスパイダーが攻撃をした?」
恐らく、ジャイアントスパイダーが攻撃した音だ。 ジャイアントスパイダーは敵が近付くと勝手に攻撃を始めるようになっている。 つまり、俺達の周囲に敵が来たという事か?
けど敵というのはジャイアントスパイダーの考えなのでもしかしたら味方かも知れない。 「マジック・テイル」の時の敵味方は戦争中の国を基準にして判断されていたが、この世界の基準が分からないからな……。
「よし、ちょっと見て来る」
「え? レイさん?」
「……何か止めた方が良いと思うな」
俺が「嵐で心配だからちょっと田んぼ見に行って来る」というノリでアリア達に伝えると心配されてしまった。
けどジャイアントスパイダーが攻撃している物の正体ぐらいは見とかないとな。 俺はそう考え岩のようだが意外と軽い扉に手を掛け、外に出る。
「あ、レイさん!」
「まあ、何とかなるでしょ」
『だよね』
1人を除いて仲間から心配されない事に軽く涙が込み上げてきながらも俺は素早くジャイアントスパイダーの街を走り抜けるのであった。
夕焼け空の中、ジャイアントスパイダーが攻撃をしている原因は1羽の鳥だった。 ジャイアントスパイダーの沢山の銃撃を軽々と避けながら、こっちに近付いてきている。 ジャイアントスパイダーの銃撃を初見であそこまで避けられるって凄いな……それともジャイアントスパイダーと戦った経験が有るモンスターなのだろうか?
何て感心しながら眺めていると鳥の上に人が居るのが目に入った。
「……魔導隊の人かな?」
恐らくまだハイナ教国の中だろうし、【召喚】出来るのは魔導隊位か? けどバルテンみたいに個人でモンスターを持っていた例もあるし……等と悩んでいると鳥は銃撃を避け、俺の所に向かって来る。
地味な黒い髪に獣人族であることを主張する猫耳。 あの顔は……
「彰!?」
彰だった。 俺を「マジック・テイル」に誘った親友が何でこんな所に?
「……!?」
どうやら彰も驚いた様で何か叫んでいるが彼の声は全く聞こえない。
そして彼は慌てながらも鳥から飛び降り、ジャイアントスパイダーに着地しようした瞬間
「え?」
彰はジャイアントスパイダーには着地出来ず、ジャイアントスパイダーをすり抜けて落ちた。
彰にとっても予想外だったのだろう。 俺の方を向き、驚いた表情しながらジャイアントスパイダーの浮いた床に消えていく。
「彰!」
俺は叫びながら彰が消えた場所で駆け寄る。 そこには穴も彰が居た跡も無く、純粋に無機質な床が有った。
「一体何が……」
俺は思わず呟いた時、巨大な爆発音……ジャイアントスパイダーの攻撃音で顔を上げる。 空中には彰が乗っていた鳥がジャイアントスパイダーの銃撃を先程よりもギリギリで避けているのが見えた……あれは彰が【召喚】したモンスターなら、彰はまだ生きている。 そう考え立ち上がる。
その瞬間、鳥に巨大な蜘蛛の攻撃が一発当たった。
「あ!」
俺は思わず叫んだ……が鳥は当たっていないかの如く必死にジャイアントスパイダーの攻撃を避けようとしている。 心なしか鳥の姿が薄くなっているような……。
「いや、薄くなっている」
徐々に……まるで空に溶けるようにゆっくりと、けれど変化が分かるくらいの早さで。
鳥はしばらくジャイアントスパイダーの攻撃を避けた後、跡形もなく消えていった。 途端ジャイアントスパイダーの銃撃もぴったり止む。
「……」
俺は彰と鳥の奇妙な光景に理解が追いつかず、爆発音を聞いて出てきた魔導隊の人達が近寄ってくるまで思わず呆然としてしまった。