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第110話 おかしな青年

視点変更 レイ→ハイナ2世


 街から地響きと共に4本の巨大な岩の集まりが地面を抉りながら大地から顔を出し、街を中心にアーチ状になる。 そして街が岩のアーチに支えられながらゆっくりと大地から離れていく。 どうやらあの岩はあのモンスターの足に当たる部分の様だ。

 モンスターが立ち上がる様子を私と隣にいる秘書は何も言わずに眺めている。 私の心には色々な気持ちが渦巻いていた。 あのモンスターに対する驚き、そしてあの明るいエルフ……レイへと関心と何者なのか分からない事への少しの恐怖。 でも私にはそれ以上にレイが帰って来てくれるかも知れないという思いがあった。

 前の予言聞いた事がレイの事だったら……私はそう考え、彼女達が城へ来た時からずっと不安だった。 でもあんなに凄いモンスターを召喚出来るのならば予言を覆してくれるのではないかという期待を今は少し持てている。


「行ってしまいますね……」


 離れていくモンスターを見ながら秘書はそう呟いた。 秘書の顔は相変わらず無表情だが、魔導隊や彼女に対する不安の様な物を少し感じる事が出来た。


「女王様はあれで良いのですか?」

「はい、私達に出来る事はやりました……後は万が一の事を考えましょう」


 ……レイが「魔神」に屈してしまった時。 有って欲しくは無いけれど、もしもの事を考えなくてはならない。 私はこの国の女王なのだから。


「分かりました……女王様、城へ戻りましょう」


 秘書は私に静かに告げる。 そして私達は動く街を背に2人で私達の街へ戻る。

 大丈夫、レイは帰って来る。

 私はそう信じて一歩一歩、今は進む。










視点変更 ハイナ2世→レオーナ


「やった……のか?」


 炎の竜巻はバリエンスの叫びと体を消し尽くした後、暫くしてから消えた。 竜巻の中心だった場所は黒い無惨な人型が有ったが動く気配は無い……どうやらバリエンスは倒せたみたいだ。


「団長! やりました!」

「やったぞ!」

「……ああ」


 騎士達は喜んでいるが私には実感が湧かない……というよりはまだ喜びに浸れない。 まだ何か有ると私の直感が伝えてくる。


「……団長?」

「まだ、周りを警戒しろ。 私達は門番を倒しただけだ」


 私の一言で喜んでいた騎士達に緊張感が戻る。 私はその様子を見た後空を見る。 太陽はまだ高い所にあるが、銀の雪を少しずつ赤く染めていた。


「……日が落ちてきている。 ここから少し離れた所で休もう」

「はい!」


 私の指示に騎士達が綺麗な敬礼で応える。 それを見て私がヴェルズ帝国に背を向けたその時


「バリエンスがやられた」


 という若い男の声が後ろから聞こえた。

 私は素早く後ろを振り向く。 そこには薄汚れた袖の短い服を着た髪の黒い細身の青年が立っていた。 見た目は戦闘よりは村などで農家の手伝いをしていそうな雰囲気だが、雪が積もっているヴェルズ帝国と格好が合っておらず奇妙な違和感を私に与えていた。


「凄いですね。 幾ら彼が魔族の中で弱い方でもあなた方のレベルで彼を特に被害もなく倒されるとは思いませんでした」


「でもあなた達では「我」を殺す事は出来ない」と残念な響きを含みながら青年は呟いた。


「……貴様は何者だ」


 私が青年を警戒しながらどうしようか悩んでいるとバルテンが青年に向かってゆっくり歩きながら質問をする。


「……「僕」が何者か? 残念ながら答えられない」

「何?」

「いや、答えたくない訳では無いんだ。 ただ「僕」の事は余り覚えていなくてね」


 バルテンがよく分からない。 という表情で私に向いてくる……正直私も分からなくて困っている。

 気配を全く出さずに私の背後に立ったのだ。 実力は有るのだろうが、彼は何か危害を加えようとする気力の様な物が感じられ無いし彼がふざけているような気配も無い。


「「我」の事なら少しは分かるのだけれども……」

「おい、「我」と「僕」は何が違う」


 青年が呟くように言葉を発しているとバルテンが途中で聞いてくる……確かに何故から一人称を2つ使って居るのだろうか? しかも話を聞く限りだとまるで自分が2人居るような……。 私がそう考えた途端、バルテンの方を向いていた青年の顔が急に私の方に向く。


「その通りだよ耳が長いお兄さん。 「僕」と「我」は違う。 最初「僕」が本体だったけど今じゃ「我」が本体だ」

「……幽霊みたいな物か」


 幽霊と呼ばれる種類のモンスターには他人の体を徐々に乗っ取り、最終的には体を自分の物にするモンスターがいる。 そういった類のモンスターにこの青年は侵されているのだろうか? だが今の彼は自発的に行動している気がするが……。


「まあ、大体合っているね……けど「我」は悪霊以上の力を持っている。 だから君達に警告をしに来た。 あの街には入らないで」

「首都のことか?」

「そう、もし入って来たら。 ……「我」は本気で君達を殺しに来る。 「僕」にこれ以上殺させないで」


 そう言い残すと青年はゆっくりとヴェルズ帝国の首都に歩いて行く……その身構えてなさは簡単に剣で切れそうな弱さを感じるが、「攻撃したら殺す」という静かな威圧も感じられた。


「団長、どうしますか?」

「……一時撤退だ。 先程の指示と同じ、少し離れる」

「了解しました」


 不気味な青年が離れた後、書記官が普段通りの態度で聞いてくる。 今はこの冷静さが助かる。


「一体何者なんだ……奴は」


 私に近づきながらバルテンは呟く。 私もその意見には概ね同意だ。 奴は何か恐ろしい物を宿している……そんな気がした。


「とりあえず、移動の準備だ。 バルテンもしてくれ」

「了解した」


 ……分からないことだらけだから今は休憩のために離れるしかない。 私はバルテンに指示を出しながら言い訳のように心の中で思った。

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