第107話 燃え尽きる程ファイアー!
1つの街……そう、私には街に見えた。
門の外には巨大で規則的な形をした建物が岩のような円形の舞台に乱立するかのように存在している。 まるで皿の上に建物の模型をバラバラに置いたみたいだ。
私と周囲にいる魔導隊の人達はこの街を呆然と眺めている。
「な、何これ……?」
『モンスター?』
黒猫さんが私に対して疑問の目を向けるけど私はこんなの全く見たことがないので返答出来ない。
私が状況を確認するために周囲を見渡していると綺麗な銀髪……レイちゃんを見掛けた。 彼女はあの街をぼーっと見ている。
レイちゃんが戦わないって事は敵じゃないのかな? 何て考えながら彼女に近付いてみる。
「レイちゃん!」
「あ、ネイ」
私が彼女に話しかけると何事も無いかのように返答してくる。
「どうしたの? そんなに慌てて」
「い、いやいやいやあの巨大なのは何!?」
「あ……」
私がモンスターの事を指摘するとレイちゃんは「しまった」という表情を分かりやすく表す。 やはりあの巨大なモンスター?はレイちゃんの仕業のようだ。
私がレイちゃんに問いただそうと彼女へ近付こうとした時、アリアも合流をする。
「レイさん、何て物を召喚してるんですか……」
「あ、アリア」
「やっぱりレイちゃんが召喚したんだ……」
『予想通り』
「い、いやこれは……若さ故の過ちというか、トラウマによる暴走というか……」
レイちゃんに対して私と黒猫さんとアリアの3人でジト目攻撃を発動する。 するとレイちゃんは私達から視線を反らしながら言い訳を始める。
「トラウマ? どゆこと?」
「え、そこ聞いてくるの! ネイ!?」
私がその後も「男の娘じゃないもん」やら「一夫多妻去勢拳は強い」やら色々意味不明な事を言っているレイちゃんに聞いた所、焦った感じの声が返って来る。 そして暫くするとレイちゃんの顔がみるみるうちに赤くなっていく……何かとても珍しいものを見た気がする。
「いや、だってトラウマって……もし大変な内容だったら私達もそこを気を付けないと」
昔、ゴブリンにトラウマを持っている冒険者と森の中で珍しいキノコの採取依頼をした事が有ったが、かなり大変だった。 一匹出ただけで泣き喚き、1人で危ないモンスターが居る森の奥に入って行きかけるの頑張って止めたり、その男の泣き声でモンスターが集まったりと……嫌な思い出しかない。
レイちゃんはそういう事は無いだろうけど、もしかしたら彼女の力がトラウマで本気を出せなくなったりしてしまうかも知れない。
素直に言ってこれからの魔族との戦いはレイちゃんが必要不可欠、だから私達に何か出来る事があればという気持ちで聞いた……という事をレイちゃんに伝える。
すると彼女はさっきとは違う感じで慌て始めた。
「い、いやネイ。そこまで大きな問題じゃないから大丈夫」
「?そう」
この様子じゃレイちゃんからトラウマの事は聞けなさそうだな~。 まあ、戦闘に支障が出るような物は予めレイちゃんが聞かされるだろうし大丈夫かな?
『で、あれ何?』
私が1人で納得していると黒猫さんが相変わらずな様子でレイちゃんに巨大な建造物の正体を聞いていた。
それを聞いたレイちゃんはチャンスだとばかりに元気に話し始めた。
「あ、あれはね……」
視点変更 ネイ→レオーナ
私とバルテンの上に広がる灰色の空を5羽の赤い鳥が勢い良くバリエンスに向かって突っ込む。 鳥達の名はフレイムホーク。 オルアナ王国騎士団が捕獲しているモンスターだ。 レベルが私より高いため【召喚】することも操る事も難しいが、騎士団からはその強さ故に最終兵器に近い扱いを受けている節がある。
「隊長、下がって下さい!」
「バルテン!」
「分かっている!」
私はバルテンに声を掛ける。 彼はバリエンスに背を見せずに警戒をしながら、後ろに下がる。
「……こんな奴ら」
バリエンスは悪態を尽きながら空を飛んでいる鳥に拳を向け、構える……そして空に放つ。
すると一羽の鳥は急に力を失い大地に落ちてゆく……がやられた訳では無いようで直ぐ空中で体勢を直し再び飛び上がる。
「……技は近距離だけじゃないのか」
バルテンが苦々しい表情で呟く。 スキルかどうか分からないが、先程の動きからして奴は接近戦も遠距離も出来ると考えて良いだろう。
「モンスターを中心に戦闘を続行! 連携を重視せよ」
「了解!」
私の指示を出すとモンスターを操作している騎士達から返事が飛んでくる。 そして鳥達の動きに速さと連携が目に見えて良くなる。 そして一羽の鳥が地面すれすれまで一気に下降し、加速をしながらバリエンスに突撃する。 その時、体から赤い炎が勢い良く吹き出し雪を溶かしながらバリエンスに突っ込む。 バリエンスはその場を動かず、拳を構え直し、炎に包まれた鷹を真正面から迎え撃つ。
「こんなもの!」
「奴にやられるな!」
「はい!」
攻撃をしようとしている黒い男を見た後、私は騎士に指示を出す。
そうしているうちに残りの三羽の鳥はバリエンスの背後から一気に急降下を始める。
「団長! 【奥義】使います!」
「了解した!」
騎士の言葉と同時に三羽の鷹は体を炎にしてバリエンスへと突っ込む。 バリエンスは前から来た鷹に気を取られていたせいで後ろから来た鷹の動きについてこれなかったようだ。 そして四羽の鷹は男を中心に全員同じ速さで回り始める。 そして騎士は叫んだ。
「行くぞ! 【奥義 炎波旋風】!」
鷹達は男の周りを更に勢い良く回り一瞬で黒い巨体を天球まで届くかのような炎の渦に閉じ込める。 外から確認出来るのは爆発音と遠くにいるのに火傷しそうな炎による熱風と激しい光のみ。
「ぐぅっ!」
爆発音と熱風の中からは今まで余裕そうだったバリエンスの驚きと苦しそうな声が聞こえる。 これは男にとって予想外の攻撃だったようだ。
「ぐわあああぁぁああ!」
苦しそうな声は痛みから出る悲鳴に代わり、つい先ほどまで灰色一色で無音だった平原に紅蓮の竜巻から爆発音と共に響き渡る。
「てめえらぁ……俺はまだああぁ!」
男は最後にそう叫び……炎の渦からは何も聞こえなくなった。
「……やったか」
未だ吹き荒れる紅い竜巻を見ながらバルテンはそう呟いた。
戦闘シーンが何だか淡白……え、今まで通り? まあ、確かに……