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第104話 他人を思うこと

何か前にも似たような話をした気がする……

視点変更 レオーナ→レイ


「ねえ、ハイちゃん」

「はい、何でしょうか?」


 白い廊下をハイちゃんと闘技大会の後の食事会で会った真面目そうな秘書さん、そして何時もの俺達の計5人と1匹で歩く。 向かう先はハイルズの北門、そこで魔導隊の人達が待っているらしい。 ハイちゃん曰わく「レイさんの事だから直ぐ行くと言い出すと思ったので頑張って準備させておきました」との事。 実際俺達は直ぐ行くつもりだったので助かるっちゃあ助かるがここまで行動が先読みされるとは……流石魔法の国の女王様って所だろうか。


「ハイちゃんも北門に行く意味有るの?」

「レイさん、私に友人の見送りをさせないつもりなのですか?」


 歩きながら俺が思った疑問を口にするとハイちゃんが言葉を返す。 口調は疑問符だったが明らかに「見送りをする」という意志がありありと感じられた。

 そこにアリアが心配そうな顔でハイちゃんに話し掛ける。


「いや、見送りは嬉しいんですけど女王様仕事とかは……」

「問題有りません」

「え?」


 そのアリアの疑問に答えたのは生真面目そうで真顔の秘書さん。 手に持っていたファイルのような物をめくり淡々と言葉を発する。


「女王様にはこれから街の人々との交流が入っておりましたが、魔導隊への激励兼見送りという予定に変更しました。 何の問題も有りません。 それに北門に行く間にも交流は可能です」

「は、はい分かりました……何か大変そうですね。 秘書って仕事」

「いえ、別段大変でも有りません。 元来こういう性格なので」


 アリアの驚いた感じの返事にピシッと答える秘書さん。 この2人って似てるけど何か違うな……どこらへんだろ? アリアの方がアクティブとか?

 2人は相性が合ったのかアリアが秘書さんに仕事の話を質問している。 秘書に興味が湧いたのだろうか?

秘書のアリア……。


「うん、似合うな」

「似合うね~何時も真面目にビシバシやるけど時々ドジをしそうな感じとか」


 俺が勝手に1人で妄想していると隣でネイがうんうんと首を縦に振りながら肯定をする……ってネイは何で俺の考えが分かるの!?


「そりゃレイちゃん、ずっと思ってたけど考えてる事顔に出過ぎ。 私じゃなくても分かるよ」

「え、そう?」

「うん、黒猫さんも分かるよね?」

『時々ぼーっとしてたりして分かり易い』


 ……黒猫さんにも言われてしまうとは、俺ってかなり顔に出てるようだ。 今更だが少しショック。

 それを歩きながら聞いていたハイちゃんも微笑みながら小さく笑う。


「あ、ハイちゃんも~!」

「すみません、とても微笑ましくて……本当に良い仲間が居て羨ましいと思っていました」

「そう?」

「はい」


 俺の疑問の声に頷くとハイちゃんは少し上を見ながら俺に話し掛けて来る。


「私はずっとこの城で過ごして来ましたから。 そんなに遠慮が無いというか……心から笑いあえる人は余り居なかったんです」


 そう言いながらハイちゃんは目を閉じる。 まるで草原の風を感じるような静かな……それで居て優しい雰囲気に周りが包まれる。


「でもレイさんが初めてでした。 あんなに最初からフランクな感じで話し掛けて来て、自然体で笑ってくれたのは……それはとても嬉しかったです」

「そうなの……」


 ハイちゃんが目を開け優しく微笑む、その時俺はその顔に少し寂しさを感じた……いや、感じない筈がない。 数少ない友人が命がけの戦いに行くのに自分では止められない。 出来るのは死なない様に祈るだけ。 それを笑顔で見送らなければならない……それはどれほど辛いのだろうか。 俺は考えた事無かった。


「レイさん」

「ん?」

「帰って来たら、また私と食事をして下さりませんか?」

「……うん、さっきも言ったでしょ。大丈夫、帰って来るよ」


 ハイちゃんの寂しそうな表情はもう見たくない。 俺はそう感じながら力強く返事をした。










視点変更 レイ→サラ


「何してるの?アルカ。 今は仕事中よ」


 私が書類の整理をしながら歩き回っているとカウンターで明らかに関係無い本を読むアルカを見掛けた。 幾ら冒険者が居ないからといって堂々と暇をつぶしているのは問題なのでアルカに話し掛ける。


「……ん、今本読んでる」

「それは分かるけど……今あなた仕事中でしょ」

「でもこっちも大事なの」

「……アルカ何の本なの?」


 アルカの言葉に疑問と興味が湧いたので聞いてみる。 ついさっきのレイちゃん達の件の後だしレイちゃんの言った「魔神」とかの話に関係する物かも知れない……何て思いながらアルカの本を覗く。

 その本はとても年季が入っているが丁寧に保存されているらしく貫禄のような物を少し感じる。 この本どこかで見たような……。


「って精霊神話じゃない」

「うん、そうだよ」


 彼女が読んでいたのはお父さんから貰ったという本。

 アルカならこの本を一語一句覚えるまで読んでいそうなイメージが有るが何故今読んでいるのだろうか。 幾らハイナ教にエルフの中でも熱心な方だからといって彼女は仕事との分別は付いている……と思うのだけれども。


「ちょっとレイちゃんの話で思う事が有ってね」

「思う事?」


 私が聞くと彼女は「うん」と口数少なく返答するのみ。 色々聞きたいことはあるが、この様子じゃ聞けそうに無いので仕事が終わった後にでも聞くことにしようと私は考える。


「怒られるのは私じゃないしね……」


 まあ、いっか……と私は1人で勝手に納得し自分の仕事に戻った。










「もう……確かに教えは大事ですが、ちゃんと仕事を他者の為にするというのも有るんですよ」

「はい……」


 数十分後、やはり彼女は先輩の受付嬢に怒られていた。 先輩の言葉を聞きうなだれながら聞くアルカが少し可愛らしい……先輩は本気で怒っている訳では無さそうだしアルカが怒られるには十分な理由の気がするので、特に何も言わず遠くから眺める。 決してやましい理由は無い。

 暫くしたらアルカが先輩から解放されたのでアルカの元に近寄る。 怒られた後で若干涙目だが私はスルーをしながらアルカに話し掛ける。


「本の事?」

「うん、暇でも仕事中なんだからって怒られちゃった」

「まあ、言われて当然ね」

「酷いサラ!」

「一応私は警告はしたわよ」

「そ、それはそうだけど……」


 私が冷静に返すと半泣きで突っ込むアルカ。 その何時もの様子に少し安心感を持ちながら会話を続ける。


「ところでアルカ暇なの? なら私の仕事手伝わない?」

「え?サラがそう言う事言う珍しいね。 量多いの?」

「依頼の紙が多くて大変なの……後、報酬額とかの計算がまだでね。 暇なら手伝ってくれない? ちょっと会話でもしながらね」


 そう言いながらキョトンとしているアルカにウインクを1つする。 すると彼女は私の言いたいことが分かったのか笑顔で頷く。


「分かった! じゃあ何すれば良い?」

「そうね……じゃ依頼の整理からしましょうか」


 そう言い私が歩き出すと彼女も早歩き気味で付いて来る……何か小動物みたいだと心の中で感じ、少し笑いながら私は歩くのだった。










「……でアルカは何で精霊神話読んでたの?」


 カウンターの裏で書類を眺めながら私は隣で苦戦している友人に聞く。

 アルカは私の言葉を聞くと紙を見たまま私に対して言葉を発する。


「その……レイちゃんが「魔神」とか、魔族の話をしてくれたじゃん?」

「ええ」

「その時精霊神話に出て来る「闇」の事を少し思い出してたの」

「……「闇」?」


 アルカの言葉に私は首を傾げながら昔聞いた精霊神話の内容を思い出そうと試みる。

 「闇」とは精霊神話に出て来る謎の敵だ。 これについては深く言及はされておらず。 確か人かどうかもハッキリしていなかった気がする。 後分かっていた事と言えば「闇」は黒い人型だったとか……。

 で「闇」の最後は操っていた魔物が倒され消滅……という感じだった気がする。


「……でそれがどうかしたの?」

「もしかしたら「闇」って魔族の事なんじゃないかなってちょっと思ってね。 忘れないうちに調べようと思ったの」


 黒い人型で「魔神」の部下……成る程、レイちゃんの話を合わせると確かに魔族は「闇」っぽい。

 だが、言い方は悪いが所詮は神話。 本当に有ったかどうかについては疑問が有る。


「でも結局どうなのかは分からないわね……精霊神話も人が書いたものだから実際の事とは限らないし」

「でも、私精霊神話の事を思い出して心配になっちゃって……」


 私が自分の考えを口にすると隣でアルカがポツリと呟いた。 私が隣を見るとアルカが私に対して少し潤んだ目を向けながら見ていた。

 成る程、レイちゃんに抱きついた時にも感じていたが、彼女は私と違って直接的にレイちゃんが心配なのだと私は思った。 私みたいに変な気遣いをしない純粋な心配をする……そんなアルカを私は少し羨ましいと感じた。


「大丈夫、レイちゃんは帰って来るわよ……絶対に」


 「約束したんだから」とアルカに小さく自分に言い聞かせるかの様に言う。

 私の言葉に対してアルカの首が小さく縦に揺れた。

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