第102話 女王様なりの……
「お久しぶりです。 レイさん、アリアさん、黒猫さん。 そして初めましてネイさん」
「あ、ハイちゃん! ヤッホー」
「お、お久しぶりです」
『ん』
「初めまして……」
メイドに連れてこられた部屋は前回来たときと同じ、真っ白な部屋で縦に長い。 例えるとベルサイユ宮殿の鏡の間みたいな感じだろうか。 その部屋の真ん中に長テーブルが置いてあり、一番遠いところにハイちゃんが座っている。
「あ、レイさん髪型変えたのですか?」
「あ、うん。 どう?」
「その髪型も素敵ですよ」
ハイちゃんはにっこりと微笑みながら俺を誉める。 その邪気の無い顔は流石女王様だなあ……っと根拠も無く思わせるオーラの様な物が有る気がする。 個人的な感想だけど。
何て思っているとハイちゃんが「あ、そうだ」と何か思い出したような声を上げながら椅子から立ち上がる。
それを見てメイド達が慌ててハイちゃんに近付こうとするが、それを手で制止する。
ハイちゃんの急な動きにアリアとネイが不思議そうにしていると、ハイちゃんはそのまま私達の方に歩いてくる。
「そういえば、東の検問所で伝聞機を使ったのですよね?」
「え?あ、うん」
そして何事も無いかの様に話を続けるハイちゃん。 その歩き方は一歩一歩がとても優雅で少し揺れるドレスも何だかそよ風に吹かれているかのように綺麗な動きをしている。
「どうでした? あの道具は?」
「あ、あれ凄いね。 文字なら何処へでも送れるんでしょ」
「ええ、あの道具しばらく試験をしたらハイナ教国の教会全てに付けようと思っているの。 そうすれば、村同士で連絡を取れてもっと仲が良くなると思いませんか?」
「あ、良いですね! それ」
アリアがハイちゃんの言葉に純粋な感想を言う。 ゆっくりと私達の前に来たハイちゃんはアリアの言葉に優しく微笑みながら「アリアさん、ありがとうございます」と感謝する。 その動きもまた優雅である。
彼女は「ところでレイさん」とさっきまでとは少し違う声音で俺の名前を呼んだ。
「あなたにお話が有ります。 伝聞機に書かれていたことについて」
「あの内容から察するにレイさんはこれからヴェルズ帝国へ向かうつもりなのですね」
「え、うん」
ハイちゃんが真剣な表情で俺を見ながら聞いてくる。 伝聞機で出した手紙にはそんな話も書いてたし間違って無い。
「……レイさんの目的は「魔神」でしたよね。 ですが本当に行くつもりですか?」
「うん、それが私の目的だもの」
「魔神」を倒す……俺がこっちの世界に呼ばれた理由で短いながらこれの為に動いた。 そして友達が危険になるのならば、俺は「魔神」に躊躇うことなく戦おうと決めた。
「絶対にしなくちゃいけない……例え危なくとも」
「そうですか」
俺の言葉にハイちゃんは悲しそうに微笑みながら首を縦に振る。
「では、レイさん。 私としても「魔神」や魔族の事は見過ごせません」
「え?うん」
「そして、同じ仲間で有るあなた達だけを危険に晒すわけにはいきません」
「同じ仲間? 私は違うような……」
「いいえ、同じです」
ネイの呟きに目を合わせながら、ハッキリ言うハイちゃん。
ハイナ教国の女王という立場上そういう台詞はどうかと俺は思うが、ハイちゃんにとっては種族は関係ないのだろう。
ついでに心なしかネイの顔が赤い。
「え、あの女王様顔近いです!」
「確かにあなたはエルフでは無いかも知れません。 ですがレイさんやアリアさん、黒猫さんと共に旅をしたお方です。 悪い方では無いと確信しています」
「あ、はい! 分かりました! 分かりました! だから少し離れて……」
真剣な表情で顔を近付けネイの手を握るハイちゃん。 それに対してネイが少し体を引きながら返事をしている。
ハイちゃんってやっぱり女王様らしい所も有るが、何処か可愛らしいな。 まあ、それが良いんだけど。
「近い近い!」
「あ、すみません……ついつい夢中で」
ネイの必死な声でハイちゃんが今の状態に気づきネイの手を離しながら慌てている。
それを見てアリアが「羨ましい……」と小さく呟いているのは聞こえなかったふりをしよう。
『……取りあえずハイちゃん何?』
真っ白な部屋が微妙な雰囲気になった所で黒猫さんが事務的で冷静な言葉を掛けていた。
「……こ、こほん」
静かになった鏡の間でハイちゃんが小さく咳をし、俺達を見渡す。
「れ、レイさんはヴェルズ帝国に向かうのですよね……でしたら私なりに準備しておきました」
「準備?」
「はい、ヴェルズ帝国には魔族や「魔神」だけでなく帝国の兵がいる可能性が有ります。 ですから私はレイさんを「魔神」達の元に送る手段を考えました」
「へ?送る手段?」
あのメイドが言っていたのはこの事なのだろうか? ハイちゃんの気持ちは嬉しいけど、かなり大事だったら遠慮しないと……
「レイさん、あなたに魔導隊員200名を預けます」
「……へ?」
ハイちゃんの放った言葉に頭が一瞬フリーズする。 魔導隊?魔導隊ってハイナ教国でいう騎士みたいな感じの奴だよね? それを200人?200人って確か軍隊でいう中隊ぐらいの規模じゃないっけ?
「え? そ、それは……」
「ご安心下さい彼等も魔導隊として日々モンスターを倒したり、鍛練を積んでいる身です。 決してあなた方の邪魔にはなりません」
「い、いやそうじゃなくて!」
ハイちゃんの言った内容の大きさに言葉が上手く出ず、大声を思わず上げてしまうがしょうがないと思う。 話の急展開っぷりとスケールの大きさについつい気が動転してしまった。
「な、何でそんな急に?」
「「魔神」の元へ送る為だとさっき……」
「いやいやそうじゃなくて!」
ハイちゃんが当たり前かのように返答をしているのを聞いて俺が手をぶんぶん振りながら止める。 それを見て不思議がるハイちゃん。 いやいやそんな「何か?」感じで見ないで。
「信じてくれるのは嬉しいけど……魔導隊とか出しちゃうの? それにもし魔導隊の人達が「魔神」にやられちゃったら」
私がどう責任を持てばいいか分からない。 と俺はハイちゃんに伝える。
するとハイちゃんは少し怒った感じで俺に
「それは私達も同じです」
と言った。 ……ハイちゃんも同じ?
「へ? ハイちゃんも同じ?」
「はい、もし「魔神」や魔族との戦いでレイさんがやられてしまったら。 話を知っていた私達はどう償えば良いのですか?」
「そ、それは……」
ハイちゃんの言葉に俺は思わずたじろいでしまう。 そこにすかさずハイちゃんが言葉を掛ける。
「更にもしも魔族等の敵と戦う回数が少しでも少なければ勝てたとしたら?」
「……」
「私はレイさんにやられて欲しくないのです。 エルフの女王として、そしてあなたの友人として」
ハイちゃんはそう言い静かに微笑み言葉を続ける。
「あなたから手紙が来た後、私は魔導隊の総隊長と手紙の内容の事で話をしました」
「うん」
「その話をした瞬間、彼はこう言ったんです「この私に是非同行させて下さい」と……レイさん、私だけではありません。 私達は「魔神」というこの大きな物をエルフであり優しく、真面目なあなた1人に背負わせるのを心配しているのです」
「……心配?」
「いえ、不甲斐ないと言っても良いでしょう。 「魔神」の話を聞いた方は皆そう思っています。 そんな運命をあなたに背負わせる事を」
そう言われた瞬間、俺の頭の中で人の顔が思い浮かんだ。 サラやアルカ、そしてこっちで出会った人達……。
「そっか、みんなには心配掛けさせちゃったのか」
俺は無意識にみんなを不安にさせてしまっていた。 優しい彼女達を……なら絶対帰って来ないと。
「ハイちゃん、ありがとう。 私達はみんな帰って来るよ。 魔導隊の人達も絶対に」
「そうですか」
俺の言葉を聞いたハイちゃんは何処か安心した表情で俺に綺麗な笑顔を見せてくれた。