結婚式:写真撮影-1
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「はい、最初はお二人だけで」
大仰なカメラを持ち出したプロのカメラマンが、それを目の前に据える。
その向こう側には、たくさんの人たちの顔が見えていた。
こんなところで、見せ物のまま写真を撮られなければならないのだ。
いままでの気恥ずかしさの積み重ねも、ピークになりつつあり、メイはドレスの裾や角度を調整されるがままに、ただ立っているしか出来なかった。
本当は式の中に織り込むより、別撮りをしようとしていたのだが、カイトの忙しさのために、結局当日になったのだ。
それが、こんなところで仇になったのである。
「ほら、腕を組んでください」
しかし、惚けているヒマはなかった。
きびきびとした、カメラマンの指示が飛ぶのだ。
相手は、こういう写真を山ほど撮ってきたプロなのだから、どうすれば一番綺麗に撮れるとか、ステキに撮れるかとかを知っているワケで。
それに従おうと、メイは手袋をした腕を持ち上げた。
ためらいがちに、隣のカイトの腕に触れようとすると、その遠慮がちさが気に入らないかのように、強く肘を突き出される。
手袋は、ただ生地が白いだけなのに、彼のタキシードを白く汚してしまいそうな錯覚にかられる。
教会で、こうやって腕を組むのは、これが初めてだった。
本来なら、ヴァージンロードで体験するはずだったものなのに。
突き出された肘に、それでもそっと触れる。
「はい、もっと2人くっついて。もっと、もっと!」
腕を組んでいるだけでは飽きたらず、更に2人を近づけようとするのだ。
もっと、って。
ドレスの内側のパニエが、彼らの接触を邪魔しようとする。
あんまり近づけたら、カイトをドレスの海に沈めてしまいそうだった。
しかし、彼はそんなことは気にしなかった。
ぐっと視線をそらしたまま、引き寄せてくれる。
あ。
人前なのに。
カイトだって、恥ずかしいに違いないのに。
恥ずかしさと嬉しさが練り込まれ、メイの皮膚の内側を占める。
きっと、これも『結婚式』という名の魔法に違いない。
「はい…笑ってください」
ようやく距離が気に入ったのか、カメラのファインダーを覗き込んだカメラマンが腕を上げる。
その方向を見ろということらしい。
メイは、その動きにつられて視線を動かして止める。
「はいはい、ほら…笑って」
手に気を取られていたので、表情がお留守になっていた。
何とか微笑もうとするのだけれども、周囲の人の視線が目に入ってきて、なかなかうまくいかなかった。
何度も何度も、カメラマンに笑顔を注意される。
「笑顔…笑顔…って、新郎さん! あなたですよ!」
が。
注意を受けていたのは、メイではなかったようだ。
ついに、一度ファインダーから顔を上げたカメラマンは、わざとコミカルな口調でカイトを注意した。
彼が緊張していると思って、きっと商売柄のサービス精神で、ほぐそうと思ったに違いない。
ちらっとカイトの方を見上げると、眉間のシワが寄ったり伸びたりしていた。
「しょうがないですねぇ…まあ、新郎さんは凛々しくてもいいでしょう」
どうしても、笑顔にならないカイトに、ついに観念したかのように、カメラマンはファインダーを覗き込んだ。
メイは、カメラを前に笑ってるカイト―― というものを一瞬想像してしまった。
しかし、想像の中の視界は、オールクリアではなかった。
どうしても、顔の部分だけに靄がかかっているのだ。
カイトには爆笑されたことはあるが、優しく微笑まれた記憶がなかった。
でも、それもまた彼の性格なのだ。
無理に優しくされるより、ありのままがいいということは、過去何回か感じたことがある。
いまあるカイトを、大事にしたかった。
だから。
写真は、これでいいのだ。
いつも、少し不機嫌そうなカイトの横で、自分が微笑んでいる。
それが、一番『らしい』2人なのかもしれない。
カイト…。
その名前を思うと、いつも心が締め付けられる。
そんな笑顔になった。




