結婚式:誓いの言葉-2
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病める時も?
貧しき時も?
当たり前だ!!!
リハーサルの時に、その誓いの言葉を聞いた時、カイトは馬鹿馬鹿しくてやってられないと思った。
そんなことくらいで、自分が彼女を手放すなんて、決してないと分かっていたからだ。
そして。
自分がメイ以外の女に、貞節とやらを破るとも思えなかった。
こんなに、心や身体をぶつけているのに、全然満たされないのだ。
他の女にかまけているヒマなんか、カイトには全然ない。
しかし。
いざ本番になって言われてみると、リハーサルの時とは段違いだった。
心臓に押し迫る誓いを求める声に、命を賭けた血判状を突きつけられているような気がしたのだ。
神父の言葉自体は、穏やかな口調なのだが、カイトにはそう聞こえた。
1箇条でも破ろうものなら、そのまま地獄の業火の中にたたき込まれる気がする。
だが、カイトにとっての地獄は―― メイがいなくなることだった。
彼女が、自分に微笑みかけないこと。
抱きしめられないこと。
その心が、離れていってしまうこと。
どれか一つでもクリアされてしまったら、血の池地獄に針山地獄と、地獄巡りツアーが組めること間違いナシだった。
そのツアーを、一度体験したことがあっただけに、もう絶対に何があっても、そんな事態にはなりたくなかった。
大事にしてぇ。
気持ちが逆巻く。
荒れ狂う。
オレを好きだと言ってくれと、熱い砂漠で渇望している。
いつだって。
本当に、いつだって。
こんなに、彼女を求めているのだ。
ぎゅっと、彼女の腕を掴んだまま。
その手に力を込めて。
「誓います」
絶対に、幸せにする。
それ以外は、ありえねぇ。
『好き』を荒れ狂わせたまま、カイトは奥歯を強く噛んだ。
※
「続きまして、新婦に結婚の誓約をしていただきます…」
進行の声に、カイトはビクッとしてしまった。
そうなのだ。
誓うのは、自分だけではないのである。
メイも、この場で同じ血判証に判を押すのだ。
大丈夫だ―― 自分に言い聞かせる。
この式は、彼女が望んだものなのだ。
それに、これまで自分に、好きの気持ちも伝えてくれたのだ。
第一、既に社会的には、婚姻関係であることに間違いなかった。
だから、今更こんなところで、覆されるはずなどないのである。
それは、分かっているのに。
どうして、こんなにまで胸が騒ぐのか。
「あなたはいま、この男性と結婚し、神の定めに従って夫婦となろうとしています」
この、神父の諭すような声がいけない。
周囲の、シンと静まり返った空気がいけない。
彼を不安にさせる、何もかもがいけない。
どうして、こんな大勢の前で、気持ちを確認させようとするのか。
メイが、自分に向けて言ってくれた『好き』の言葉の重さを、みんなで何グラムあるのか眺めて、外野のクセに白か黒か判定されているような気がする。
白いヒツジも黒いヒツジも、結局ラム・チョップになってしまえば、分からないというのに。
いや、違う。
ヒツジの色を気にしているのは、カイトの方だ。
彼女は、白いヒツジの上着も黒いヒツジの上着も、どちらも暖かいと言うかもしれない。
しかし、カイトは真っ白な上着を着せかけたかった。
周囲の人間が見ても明らかに、幸せに見えるようにしたかったのだ。
頭の中を、色違いのヒツジが猛スピードで駆け抜ける中、しかし、時間だけはきっちりと律儀に進んでいく。
「あなたは、病めるときも、健やかなときも、豊かなるときも、貧しきときも、この男性を愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命の限り、かたく節操を守ることを誓いますか?」
誓うに決まってんだろ!!!
カイトは、即答で怒鳴りたい心をぐっとこらえた。
これを答えるのは、彼の役目ではないのだ。
2秒か。
それとも、5秒か。
それともそれとも―――――
「誓います…」
不覚にも。
鼻先が、ツンとした。
今すぐ、抱きしめたかったのに。




