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結婚式:誓いの言葉-1

 結婚行進曲は、まだ終わっていなかった。


 パイプオルガンの生演奏だったが、演奏者の女性は、彼らの疾走の様子を見ていなかったのだ。


 ただ、悦に入って弾き続けている。


 いつもの予定で、いつもの時間、弾こうと思っていたに違いない。


 ふっと視線を上げた彼女が、すでに祭壇の前にいる彼らに驚いて、演奏をいきなりやめてしまった。


 曲の間中、神父様もカイトもメイも、ただそこに立ちつくしていたのだ。


「コホン…」


 異様な場の雰囲気を収めるかのように、一つ生まれた神父の咳払いで、すっと空気が緊張したのが分かった。


 メイの頬に、冷たい風が触れた気がしたのだ。


 何か―― とても大事なものを見せられるような、そんな冷えた緊張感だけが心を包む。


「それでは、まず始めに新郎に、結婚の誓約をしていただきます」


 咳払いで、やっと自分の役目に気づいたのか、進行の男性の声が響く。


 そうなのだ。


 誓いの言葉なのだ。


 メイは、ぎゅっと彼の手を握りたかった。


 しかし、まだカイトは彼女の右腕を掴んだままで。


 勿論、こういうことはリハーサルにはなかった。


 ただ神妙に、2人立っていればよかったはずなのに。


 けれども、掴まれている腕から、手袋越しの少し遠い体温が伝わってくる。


 36度から、わずかに差し引かれた温度。


「あなたはいま、この女性と結婚し、神の定めに従って夫婦となろうとしています」


 朗々とした声が、腕をつなげたままの2人に降り注ぐ。


 神父様の視線が、カイトの方に注がれているのは分かるが、彼女は同じようにそっちを見ることが出来なかった。


 ただ、腕から伝わる感触だけで、どういう気持ちなのかを計ろうとする。


「あなたは、病めるときも、健やかなときも、豊かなるときも、貧しきときも、この女性を愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命の限り、かたく節操を守ることを誓いますか?」


 トクン。


 神父様が、一つ一つの項目を、まるでカイトに噛んで含めるようにゆっくり綴っていく。


 周囲の音が、いきなり聞こえなくなったような気がする。


 聞こえるのは、神父様の声と、自分の心臓の音。


 腕を掴んでいるカイトの指が、ふっと動いた。


 メイは、目を閉じた。


 彼が。


 彼が、ぎゅっと腕を握る手に力を込めたのだ。



「誓います」



 メイは―― 涙をこらえた。


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