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01/22 Sat.-1

 パチッ。


 自然と、目が開いた。


 気になることがある時の目覚めだと、メイは自分でも知っている。


 食器を洗わずに眠ってしまった時や、変なところで寝入ってしまった時。


 そして、オトメ・デーの時などなど。


 オトメ・デーの時は、男の人には言えないが、『朝まで安心』ではないことがあるワケで。


 今が大丈夫かどうかは分からないが、身体が気になって目を覚ましてしまったのだ。


 しかし、ぱちっと目を開けてみて、思い出したことがあった。


 さっきの目を覚ます条件の中で、該当しているのは、一番最後のヤツだけではないということを。


 そういえば。


 お風呂に行ったカイトを待っている間に、意識がなくなったよう―― えー!!


 目を覚ましたメイの目前には、カイトの身体があったのだ。


 そうして、強い腕が彼女の身体を、抱きかかえるようにして眠っている。


 朝方の、まだ起きる時間には早い暗さでも、これだけの至近距離だ。


 パジャマの布地も見えるし、彼の吐息も感じた。


 やだ、何で?


 彼女はソファで眠ってしまったはずなのに。


 ここはどう考えても、ベッドの中だ。


 ま。


 ま。


 まさか……。


 まさか、ベッドまで抱えて連れてきてもらったんじゃ!!!!


 いやー! きゃー! そんなー!!!!


 メイは、大変な騒ぎになってしまった。


 現状から考えると、それ以外にはあり得ない気がする。


 だからこそ、余計に逃げ場のない恥ずかしさが、押し寄せてくるのだ。


 抱えるということは、夢見がちな分をさっぴいても、多分『だっこ』なのだ。


 どうシミュレーションしてみても、ソファからここまで、それしか思い浮かばなかった。


 それを、夢見ていないワケではないのだが、現実の知らない間にそんなことが起きたなんて。


 だって、重いし。


 その重さを、カイトに知られてしまったのだ。


 彼は、何と思っただろう。


 自分を抱え込んでいる彼を、ちらりと見る。


 そっと頭を動かして顔を上げると、寝入っている彼の輪郭が見えた。


 カァッと、また恥ずかしさがよぎった。


 ソファで眠ってしまったメイを、ベッドまで抱っこしてくれた上に、こんな風に抱え込んで眠ってくれているのだ。


 その時の、カイトの気持ちに触ろうとしたら、何もかも恥ずかしいような気がしたのである。


 彼女の知らない世界でも、カイトが好きだと言ってくれているような気がしたのだ。


 都合のいい解釈なのかもしれない。


 だから、そう考えてしまった自分が恥ずかしかったのである。


 ああもう、朝起きてどんな顔をすればいいんだろう。


『ごめんなさい、重かったでしょう?』


 なんて、恥ずかしくて聞けない。


 そんな風にベッドの中で身悶えていたメイだったが、現実的にお手洗いに行きたくて、彼の腕から逃れる。


 最初は抱きしめられる腕の力が強くて、どうしようと思っていたが、しばらくすると―― するりと解けた。


 それはそれで、何だか寂しかった。


 わがままな私。


 もしも。


 ソファで眠ってしまったのがカイトだったら、自分はどうするだろうか。


 お手洗いから帰ってくる途中、そんなことを考えた。


 帰る途中と言っても、ベッドまではそんな距離はないので、すぐに到着してしまうのだが。


 彼を抱いて運ぶなんて出来ないから、起こさなければならないのだろうか。


 現実のカイトはベッドの上なので、起こさないようにそっと布団をめくると、中に潜り込んだ。


 でも、ソファに眠っているカイトも、何だか起こすのは忍びなかった。


 だからと言って、彼だけソファで、自分だけベッドというのはイヤだ。


 となると。


 シミュレーションの中の、ミニ・メイは、ベッドからずるずると毛布を持ってくるとカイトにかけて。


 それから、自分もソファの隣に座って、一緒におやすみしてしまった。


 ミニ・カイトと並んで、ちんまりとおさまってしまったのである。


 同じ毛布の中に。


 何、考えてるんだろ。


 自分の、シミュレーションもまた恥ずかしい。


 この、寝ぼけた頭がいけないのだ。


 とりとめがなくて、それでいてコントロールが効かないのだ。


 何だか、酔っている時のようだ。


 早く眠ってしまうに限る。


 メイは、目を閉じようとした。


 なのに。


 ちらっとカイトの方を見る。


 彼との間に、少し距離があった。


 布団の中は十分温かいので、これくらい距離があっても何の問題もないのだが。


 それでもやっぱり、離れて改めて眠るというのは、少し物寂しい。


 起きない、よね。


 メイは、気配を伺いながら、そっと彼の方にすり寄った。


 もう15センチ近づく。


 ふとしたはずみに、指先が触れ合ってしまうくらいの距離。


 カイトの体温が、直接ではないけれども、彼女のところまでふわりと飛んでくる距離でもあった。


 このくらいなら。


 さっきまでと比較すると、信じられないくらい安心できた自分に気づいて、また恥ずかしくなる。


 試しに、ちょっとカイトに触れてみようと布団の中で腕を動かす。


 彼の身体に当たるのは、すぐだった。


 その瞬間。


 きゃー!!!


 声にならない悲鳴をあげた。


 そりゃあもう、驚く事件があったのである。


 起きていないハズのカイトが、まるで食虫植物のような反応で、とにかく手近なものを抱きかかえようとして―― またメイは、そこにおさまってしまったのだ。


 心臓が、飛び出すほど驚いたのだった。


 ハァハァと驚きの吐息を押さえながら、彼女はカイトの胸の中で固まっていた。


 やっぱり寝息が聞こえてくるので、まだ彼は眠り続けているのだと分かった。


 ちょっと触っただけなのに。


 寝返りでも、寝言でもなく、いきなりガバッだったのだ。


 何か抱えていないと、落ち着かないのだろうか。


 すっかり目が冴えてしまったメイは、ついそんな風に考えてしまった。


 思えば、いままで本当に彼には抱きしめられ続けた。


 あんな短い期間なのに、何かあるとぎゅっと抱きしめてくれるし、何もなくてもそうしてくれる。


 それが、言葉少ないカイトの感情表現なのだろう。


 でも、こんな眠ってまでぎゅーなんて。


 カイト自身に、抱きグセがあるような気がしてしまう。


 想像したら、クスッと笑ってしまった。


 子供のカイトが、クマちゃんのぬいぐるみを抱きかかえて眠っているところだ。


 きっと本人に知られたら、思い切り怒鳴られるに違いない。


 現実の彼が、そういうメルヘンで可愛い世界を、笑顔で受け入れられるとは思えないからだ。


 でも。


 こんな風に抱えられるなら―― ボロボロになっても、クマちゃんでいたかった。


 片耳になっても、つぎはぎになっても。



 カイトのためだけの、安らぎの魔法使いになりたかった。

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