にわか雨
荷物が整理し終わると、緑はすぐにバイトへ向かった。
あまり良いとは言えない雰囲気の二人を残していくのは抵抗があるが、シフトが入っているので止むを得ない。
緑のいないその日の午後、二人は一切口を利かずにそれぞれの時間を過ごしていた。
緑の予想通り凛は早くも気まずさを感じているようで、部屋から出てこない透を気にしながら、リビングで雑誌を広げてマニキュアを塗っていた。
夕方になると、外の天気が一変してゲリラ豪雨に見舞われた。雨音が怖いほど激しく、凛は窓の外を不安げに眺めた。
緑、傘持って行ってない……
にわか雨だからすぐに止むかもしれないけど、このまま降り続けたら、電車だって止まるか分からない。確かバイト先は二駅先だったはずだ。
凛は緑にメールを送った。
『傘持って行こうか?』
しかし、しばらく待って、緑が帰るはずの時間になっても音沙汰がない。ネットで調べたが電車も止まっているようだ。
落ち着かない凛は、バイト先に連絡をした。
「もしもし、時岡緑の友人ですが、緑は……」
「時岡さんなら、体調が悪くて夕方ごろに早引きさせましたが、まだそちらに着いていませんか?」
「え、着いてないです」
「おかしいな。どこかで足止め食らっているのかもしれないね。こちらも彼女に連絡してみます。何かわかったら、折り返しますね」
「はい、お願いします」
緑、体調悪いの……?
それより夕方ごろに帰ったとしたら、もうとっくに家へ着いている時間だ。それなのにメールすら返ってこない。どうしたのだろう。
もし何かあったら……
いても立ってもいられなくなった凛は、二人分の傘とバスタオルを持って玄関を出ようとした。ちょうどそこへ、夕飯を食べる為に部屋を出て来た透が鉢合わせる。
「今は出かけない方がいいよ。何しに行くの」
思わずそう言ってしまった透に、不安げな凛が必死に訴える。
「緑が帰ってこないの。夕方体調が悪くて早引きしたらしいのに、メールも返ってこなくて……」
二本の傘とバスタオルを握りしめ、今にも飛び出しそうなのを見て、透は凛が今から何をしようとしているのか理解した。
「ちょっと待ってて」
自室に戻りすぐに、シャツの上に黒いジャケットを着て透が出て来た。手には車のキーを持っている。
「俺も行く。頼むからこんな雨なのに黙って出てったりしないで」